〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<9>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 ドクン!

 と、心臓が跳ねた。

 あそこにセフィロスが……

 

 セフィが……居る。

 

 何をビクついているんだ、俺は。

 もともとヤツの足取りを追って、ここまで来たのだ。

 逢えなくては困るのだ。

 

「クラウド……」

 背後から静かな声が俺の名を呼んだ。

「え、あ……あぁ。大丈夫だ、そんな顔するなよ、ヴィンセント」

 内心の動揺を気取られたらしい。

 今となってはヴィンセントへの気持ちとは異なるものの、やはりかつては共に過ごした大切な人だ。

 葛藤がないといえばウソになる。

「よっしゃ! アレが目的地だな、リーダーさんよ!」

 無遠慮にシドが割って入ってきた。

「……そうだ。古代種の寝殿。あそこにセフィロスが居る」

「黒マテリアもあるのよね、クラウド」

 ティファの問いに、ひとつ頷く。

「よし、行くぞ。念のために別れて動こう」

 どうせセフィロスのことだ。

 寝殿に入ってしまえば、即座に俺の気配を読み取るだろう。

 幸か不幸か、他のメンツについては、それほど関心がないのか、個別に襲われたことはない。

「でも、危険じゃない? クラウド」

 エアリスが心配そうにそう言う。

「別行動といっても、全員バラバラに動くわけじゃない。三つくらいのグループに分かれて、正面、側面、裏から侵入するんだ。PHSの電源……大丈夫だな?」

 皆が頷く。

 後はグループ分けだ。

 

 

 

 

 

 

「……俺は一人で行く。ヴィンセント、ティファ、シド、ケット・シーでひと組、バレット、ナナキ、エアリス、ユフィで……」

「オイオイオイオイ!」

 すべて言い終わる前に、バレットが声を上げた。黒い肌に朱が浮いている。

「まぁた、テメェはひとりで動こうとしやがるッ! 最近、ちっとマシになってきたと思ってたのに……」

「そうよ、クラウド。どうして、三つに分かれるのに、ひとりきりで行こうとするの?」

 ティファが加勢するように、言葉を重ねた。

「違う。……そういうことじゃない」

「もうメンドくさいなぁ。仲間分けでモメるんなら、もうみんなで行けばいいじゃん!」

「ユフィ! 相手はセフィロスなんだぞ。これまでのモンスターとはわけが違う。出来る限り危険を回避しなければ……」

 

『おまえたち、みんな即座に斬り捨てられる』

 

 そう続けそうになり、かぶりを振った。

 ここに居る皆……それぞれ、得意とする武器を持ち、マテリアさえ扱えるようになっている。そこらの下っ端兵士などでは、相手にならないだろう。

 実際、ここに辿り着くまで、いったい幾百のモンスターや、神羅の追っ手を退けてきたことか。

 だが……

 

 だが……セフィロスは完全に『別格』なのだ。

 かつて、『神羅の英雄』と呼ばれていたころも、この星の厄災に変化した現在も……

 

「いいから!リーダーは俺だぞ。ここまでやってきたんだから、俺を信じてくれ……ッ!」

 説得というよりも、ほとんど怒鳴り声になっていたと思う。

 いきなり激した俺に驚いたのだろう。息を呑む音が聞こえた。

 恐る恐る、周囲をうかがうと、やはり仲間の皆は、一様に顔をしかめ、困惑した様子であった。

 沈黙が落ちた。

 ほんの数秒ほどなのに、ひどく長い時間に感じた。

 

「……『おまえにとって』、そのほうが良い……のだな?」

 穏やかに問いかけてきたのは、ヴィンセントであった。

「ちょっと、ヴィンセント? 何言って……」

「ティファ…… 私は神羅時代のクラウドを知らない。それは君も同じだろう? 私はクラウドが何の考えも為しに、ひとりで行くと言い出すとは思えない」

 ヴィンセントがやさしく諭す。彼は俺とセフィロスとの関係を知っているが、敢えて彼女にそう告げたのだ。

 

「……クラウド」

 目線を俺に戻し、彼はさらに続けた。

「おまえの望むように…… だが、彼が正気に戻らぬのならば……必ず仲間を呼べ。自ら命を放り出すような真似はするな」

 ヴィンセントの指が、髪に触れた。そのまま、そっと梳いてくれる。

 男同士、端から見れば、おかしな構図であったろう。だが彼の所作は不思議とそう感じさせないのだ。

「もちろん。俺だって生きるためにヤツと戦うんだ! 黒マテリアをあいつから取り返さなきゃ、この星自体が壊れちまうんだからな」

 力を込めてそう言った。

 ヴィンセントは不思議な紅い瞳で、俺をじっと見つめた。