〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<13>
第二部
 バレット
 

 

 

 

 

 

「おい、テメェ、目ェ開けろ! このままおっ死んじまってもいいのか!?」

「バレット、乱暴にしすぎだよ。まぁ、ぶっちゃけアタシも、この連中にはウータイでの貸しがあるんだけどね!」

 ユフィが赤毛と金髪のネェちゃんを、手早く手当する。

「こいつら、どう見てもタークスだぜ。そっちの重傷のロン毛もな」

「そうなの? タークスって諜報員なんでしょ? どうして、セフィロス捕獲計画に乗りだしてんの?」

 俺ァ、アバランチ時代、こいつらの制服は嫌というほど見慣れてる。

 色気のねぇ、黒スーツ。だが、スラム街や移民区に棲みついたアバランチ狩りにゃ、いい色だ。死に神そのものって感じでよ。

「フツー、ソルジャーの仕事なんじゃないの? まぁ、セフィロス相手にどのソルジャーが戦うんだってカンジだけどォ」

「知るかよ。神羅も人手不足なんだろ」

 適当に返事をした俺に、別の方向から返事がした。

 

「……ッ、……それは……あのプロジェクト自体が極秘事項として扱われているから……だ」

「あぁッ! アンタ、動くんじゃないわよ! 心臓貫通してんの! 止血はしたけど、血、止まらなくて……」

 ユフィが慌てて、男の身体を支える。

「よぉ、ツォン。おめーも大概しぶとい男だな」

「元アバランチ……か」

 かすれた声でロン毛野郎がつぶやいた。

 さすがに満身創痍の相手に、鉛の玉ぶちこむ気はしねェ。

 そのつもりなら、出会い頭、こいつらが血ィ流してぶっ倒れている間にやってやる。積もり積もった恨み辛みがないわけじゃない。

 だが、今、俺がしなければならないことは、少なくともこいつらにとどめを刺すことじゃないのだ。

「ツォン、オメェ、これはどういうこった?」

「……どこから話せと……?」

「おまえらが、ここに来ている理由だ。セフィロスが黒マテリアを持っていることを知ってたんだな」

「フ…… くっ、ごほっ!げほっ!」

 ヤツは言葉を返そうとして、大きく咳き込んだ。

「ああ、ちょっと、アンタ!」

「……心臓を貫通していたら、さすがに私も死んでいる。大丈夫だ、ウータイのお嬢さん」

 妙に紳士的にそういうと、ツォンは素直にユフィに身をゆだねた。

 そのまま壁に楽な格好で寄りかかる。

 赤毛とネェちゃんはまだ目を醒まさないのに、このあたりはリーダーの貫禄ってヤツか。

 

 

 

 

 

 

「……黒マテリアは、セフィロスが持っているわけではない」

 一気にそこまでいうと、ふたたび大きく咳き込んだ。

 身をかがめた瞬間に、ふたたび腹から血が噴き出す。

「おい、ユフィ、止血!」

「ナナキに手伝ってもらって、思いっきり止めたんだよ! ねぇ、アンタ、もう無理にしゃべんないでよ、死んじゃうよ!?」

 ウータイでの恨みとはいいながらも、目の前で息絶えそうな人間を見ているのがたまらないのだろう。

 ユフィはツォンの腹の傷口を慌てて塞いだ。みるみると新しい布地に血がしみこんでゆく。

 もちろん、本格的な医療道具があるわけではないのだから、テーブルクロスだのを引っぺがして包帯代わりにしているのだ

「……ありがとう。だが、君の手が汚れてしまう。私の代わりなどいくらでもいる。それよりも今はセフィロスを止めることだ……」

「……だから! そんなんだから神羅カンパニーはおかしいんだよッ!」

 突然、ユフィがキレた。

 悲鳴のような叫び声に俺もおどろいたが、ツォンもあっけにとられて彼女を見上げている。 

「神羅っておかしいよッ……気持ち悪い……! 代わりって、アンタ、そんだけ会社に尽くしてんのに、ただのコマみたいにッ! アンタはアンタで代わりなんていないよ。死んじゃったら、そこで終わりなんだよッ!」

 ぐしっと、顔をゆがませるユフィ。ナナキが心配そうに見つめている。

 わずかな間隙の後、気を取り直して俺は口を開いた。

 

「俺らは黒マテリアとかいうヤツを回収しきたんだ。セフィロスの手に渡ったままだとまずいんだろ」

「黒マテリアはメテオを引き起こす……げほっごほっ!」

「そう、それだよ!黒マテリア、セフィロスがもってんだろう?」

 当初の目的を思い出し、俺は声を怒らせた。

「ちげーんだよ。セフィロスの持ち物じゃないんだ」

  しゃがれた声で応えたのは、ツォンではなかった。

 額からの血をうっとうしげにぬぐいつつ、赤毛が身を起こす。

「……大丈夫ッスか、ツォンさん」

「大丈夫……とはいえないが……まだ生きている」

「もうオレらの力だけじゃ無理ッス…… 話しますよ」

 赤毛……確かレノと呼ばれていた男がそう言うと、ツォンは深く吐息した。

 

「アンタ……アバランチと人だよな。今はクラウドの仲間の……」

「バレットだ、覚えておけ。それとオメーらの傷の手当てをしたのは、ユフィだ。まずァ、礼ならユフィに言ってくれ」

「あぁ、ウータイでは世話になったな。嬢ちゃん」

「アンタねェ〜。知ってること洗いざらい話してもらいましょーか! エェ!?」

「フッ…… 威勢が良いのは相変わらずだぞ、と」

 ユフィを鼻で笑うと、俺に向き直った。

 飄々とつかみ所のない様子は相変わらずだが、声音はやや堅く強張る。

「……黒マテリアはセフィロスが持っているわけじゃない。ずっとこの『古代種の神殿』に安置されていた特別なマテリアだ」

「何……だと?」

「この神殿の奥深くに眠っているんだよ。そこに行き着くには都市計画部長のノーミソが必要なんだ」

「レノ……不用意な発言をするな。それはよけいなことだ」

 ツォンが低く遮った。

「セフィロスがそれを手にする前に、我らが運び出さねばならない。そして、この神殿の封印を…… くっ、ごほっごほっ!」

「……どのみち、アンタにゃぁ、もう無理だぜ、ツォンさん。早いトコ、イリーナ連れて脱出してくれや」

 突っ慳貪にレノが言った。

「何を馬鹿な……! 言葉を慎め、レノ」

「慎めねーっつの。腹に穴あいてるヤツ連れてっても、足手まといだぞ、と」

「……レノ! ぐっ!ごほっ、げほっ!」

「バカッ!動かないでよ!また血が出てきたじゃない!」

 ユフィが止血のためにカーテン布を押しつける。ツォンのうめき声にも容赦なしだ。

「おまえら、脱出用の足はあんだろうな?」

 俺は誰にともなく尋ねた。

「おう。ルードが上空を旋回中だ。ツォンさんの命令で引き上げに来ることになっている」

「……よし。ユフィ、ナナキ。ツォンと金髪ネェちゃんを人質に、ヘリを確保しろ」

 我ながら名案だ。

 ルードの野郎なら、女子どもにゃ手を出さねェ。

 おまけに重傷のツォンを看ているのがユフィであればなおのことだ。タイニーブロンコの停留地点まではだいぶ距離があるし、ヘリの一台でもキープできりゃ、ズラかるときに重宝するってもんだ。

「……顔に出る野郎だな、アバランチ」

「うるせぇぞ、赤毛。おまえらのボスを助けてやるんだ。こいつは貸しだぜ?」

「……わかってるぞ、と」

 というと、思いの外、しっかりした足取りでヤツは歩き出した。