〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<15>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「はぁはぁ……! くっ……!」

 無駄な弾を撃っている時間はないのに、こちらが単身とわかると、物欲しげなモンスターが寄ってくる。

 ならば、バレットたちは襲われにくいだろう。それについてはかえって好都合だ。

 メイン回廊は一本道だ。

 もちろんこの遺跡の構造など知らないが、セフィロスがいうように道に迷いそうな雰囲気ではない。人を惑わせるのは枝葉のように伸びた小回廊だ。

 それは当然、祭壇の間がある地下フロアにおいても同様だろう。

 一刻も早く祭壇を見つけ出し、黒マテリアを確保して欲しい。

 

 ……それをセフィロスの手に渡すのは最悪の事態だと、私だとて認識している。

 クラウドさえ取り返すことができれば、私の命と引き替えにしてでも死守したい。

 だが、今はまだクラウドの状態がわからない。隙を突いて逃げられる程度の体力は残っているだろうか? それとも負傷して自力では立ち上がれない状況だろうか?

 

 場合によってはティファたちのいうとおり、黒マテリアを一時的にセフィロスの元へ引き渡さざるを得ないかもしれない。

 それはほとんど世界の滅亡と、『今現在数名』の命を天秤に掛けるような行動だ。

 

「……! ここ……か?」

 思索にふけりつつも、足は中央回廊に向かっているのだ。

 その場所は、四つの回廊が一つに集結した場所であった。

 セフィロスは小窓一つの小庭だと馬鹿にした物言いをしていたが、そんなことはない。

 四つの回廊からそれぞれ光が降り注ぎ、中央の大木を明るく照らし出している。

 回廊の壁だとて、このパティオの周辺だけ、装飾めいた掘出しがなされ、こんな場合でなければ、くわしく調べてみたいほどだった。

 

 

 

 

 

 

 そう……こんな場合でなければ。

 

 クラウドはその中央の樹に縛り付けられ、ガクリとうなだれていた。

 前髪が降りて表情は読めない。

 腕や太ももに血が滲んでいるのは、彼の奮闘の痕跡であろうか。それともセフィロスに……

 

 彼は私の足音を聞きつけた途端に、クラウドは顔を上げた。

 ひどい悔恨の色が刻まれ、口を開こうとした途端、刀を突きつけられ歯を食いしばる。

 長刀……身の丈ほどもありそうな日本刀だ。

 

「……遅い」

 低くつぶやくと、セフィロスは軽く刀をなぎ払った。

 金の前髪がわずかに散り、額に紅い筋が走った。

 

「やめてくれ、セフィロス!」

「貴様は……ヴィンセント・ヴァレンタイン?」

 念のためというように、彼はゆっくりと私の名を口にした。

「そうだッ! 約束通り、私一人だ…… その子に手を出すな!」

 傷だらけのクラウドを見て、頭にカッと血が上り、逆に身体は冷えてゆく。

 落ち着け……と己を叱咤し、銃を背後に向かって撃った。

 

 ガゥン、ガゥン!

 

 周囲を壁に囲まれたパティオだと、ことのほか銃声が響く。

 ボトボトと二匹のモンスターが、回廊の出入り口から地に落ちた。

 光のあるこんな場所でさえ、入り込んでくるモンスターが居るのだ。

 

「ほぅ……」

 セフィロスが低くため息を吐いた。 

 茶化すような感歎の色が混じっている。私は彼から一切目を離してはいないのだ。

「銃の腕はなかなかのものだな、ヴィンセント・ヴァレンタイン。だが……これはどうだ?」

 彼は口唇に酷薄な笑みを浮かべ、一瞬にしてクラウドの側から姿を消した。

「……ッ!」

 瞬間、右頬に人の気配を感じた。

 左に跳躍し、そのまま引金に指を掛ける。

 

  ガゥン!

 

 ボッと土がはじけるが、セフィロスは空に跳んで難を避けた。

 ……速い。

 ……恐ろしいほどの速さだ。

 あれだけの長身に長物を持っていながら、何てスピードなのだろう。

 

「速いな、それに正確だ」

 

 考えていたことを、そのまま言われて冷や汗をかいた。

 ククッと楽しそうな笑い声が、少し離れた場所から聞こえる。

 内心の動揺を気取られぬよう、息を詰めて、私はセフィロスに向き直った。

 

「クラウドを返してくれ。そのために私はここに来たのだ」

 もっとも重要な事柄を、ゆっくりと噛みしめるように告げた。

 

 ……こればかりは何があろうと譲れないと理解してもらえるように……