〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<16>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「……クラウドを返してくれ、セフィロス」

 私はそう繰り返した。

「フ……」

 彼は鼻で軽く笑いとばすと、すっと双眸を細めた。

 氷の瞳が、私を値踏みするように眺める。

 

「セフィロス……?」

「ヴィンセント・ヴァレンタイン。……なにゆえ、この子供と共に在る」

 静かに彼が問うた。

 からかいだけではなく、純粋に興味を抱いて訊ねていると感じる。

 

 今すぐにでもクラウドを奪い返し、傷の手当てをしてやりたい。

 頬の刀傷や口角の出血だけでなく、ボロボロの服を一目見れば、外に現れていない傷痕も多かろう。

 だが、クラウドを取り戻すには、黒マテリアについて話さなければならない。

 彼の矛先が、地下の祭壇にいる仲間に向けられることだけは避けねば……

 

「おまえのような輩と、この愚鈍なチビと、どんな関わりが……?」

「……私は……」

 口を開く。

 なんとか隙を見つけてクラウドの拘束を解くのだ。

 ……それまでは会話を続けるのが得策だ。

 

「私は……クラウドの仲間だ」

「ただそれだけか……? たったそれだけの理由で命を捨てに来たのか、ヴィンセント・ヴァレンタイン?」

「……いけないか」

 低く言い返して、セフィロスを睨み付けた。

「この愚かでつまらぬ子供のために? 未だ、私を説得しようなどと、のこのこひとりでやってくる、阿呆なガキを救うことに意味などあるのか……?」

 クラウドがギッと、強く歯を食いしばる。

 手首の拘束具がカシャンと鳴った。

 それはまるで、彼の凍えた心が砕かれ、地に落ちた音にも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「惰弱で知恵の巡りの悪い、醜悪な子供…… おのれの力では何ひとつ為し得ない、唾棄すべき存在……」

 セフィロスは、刀の峰でうつむいたままの青年のあごを持ち上げた。

 クラウドが、為されるがままに顔を上げる。私とは目線すら合わせず、半開きの口からはうめき声さえ出さない。

 そのありさまが、まるで絡繰り人形のように見えて、背筋がゾッと戦慄えた。

 

 『……人形』

 彼らの仲間になり立ての頃、よく口にされた言葉だ。

 人間らしい感情をほとんど失った私は、人形……ヒトガタそのものだったのだろう。

 もちろん、彼らに悪気はないのはわかっている。

 ……むしろ、クラウドなどは褒め言葉として、何度も繰り返していた。

『ヴィンセントって、綺麗だよね〜。あんまししゃべってくれないし、アンティックドールみたいでドキドキする。』

『よくさぁ、「人形みたいに綺麗な人」って言い方するじゃん?でも、本当にそこまでのビボーってなかなかいないよね。あっと、美貌ね、美貌』

 

 

 だが、クラウドは人形ではない。

 感情豊かな青年なのだ。

 姿のかわらぬまま、永い時を過ごした私から見れば、まだまだ二十歳そこそこの、幼い子供なのだ。

 そんな彼が、倦み疲れた抜け殻のように為すがままになっている姿は……

 

 嫌だ……!

 

 あんなのはクラウドではない。

 私の知っているクラウドでは……

 

  ガシャンッ!

 

 次の瞬間、私は左手でセフィロスの刀を掴んでいた。