〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<18>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「……クラウドを侮辱するな」

 掠れた声が喉の奥からこぼれた。

 セフィロスが柳眉を寄せる。

「その子を傷つけるな。……もうおまえは私の知っているセフィロスではないのだな」

「何の話をしている、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

 こうしている間にも、手足の感覚が研ぎ澄まされてゆくのがわかる。

「脆弱で……無知だと? 愚者の行いだと? ……おまえがクラウドに言うのか!?」

 怒気を含んだ私の声に、セフィロスは鼻白んだらしい。

 

「ヴィ……ヴィンセント?」

 クラウドも呆気にとられてこちらを見上げた……ような気がした。

 今は怒りで両の足が動かないのだ。

「脆弱な愚か者はおまえのほうだろう、セフィロス!」

「なんだと……?」

「言葉通りだ、自覚がないのか!? 確かに神羅カンパニーは諸悪の根源だ。悪魔の実験に手を貸した連中を殺したければそうしろ! だがその子は?クラウドが何かしたのか!? ある日いきなり故郷の村を焼かれ、劫火の中で親しい人を失い……手を下したのは、この子がずっと大切に想い続けていたおまえだ! まだ十代の少年にとって、どれほどの衝撃だったと思うッ? 絶望の淵でたったひとりで彷徨って……ッ!」

 叩き付けるように私は叫んだ。

 もう止まらなかった。

「ずいぶんと饒舌だな、ヴィンセント・ヴァレンタイン……貴様は己の置かれている状況がわかっているのか」

「私のことなどどうでもいい。結局おまえは自分のことばかりだ。弱い者を踏みつけにして、気晴らしをしているだけだ」

「……だまれ」

「そして今度はこの星を滅ぼそうという…… 神羅とは何の関係もない民間人を巻き添えにして……!」

「黙れッ!」

 セフィロスの長刀が伸びる。

 腹を貫き通そうとしたそれを、硬化した両手で押さえた。

 

 ガキンと硬質な音が響く。

 

 

 

 

 

 

「これ以上は許されない……! はぁ……はぁっ、はぁっ……!」

 息が上がる。身体が熱い。

「ずいぶんと変わった身体を持っているな、ヴィンセント・ヴァレンタイン。便利なことだ」

 嫌みっぽくセフィロスが言った。

「はぁっ……はぁっ……!」

「許しなどいらん。……貴様などに私の絶望がわかるか……! 数だけ増やした人間どもめが……!」

「ああ、わかる。私にはわかる……!」

「勝手を言うなッ、ヴィンセント・ヴァレンタイン! おまえなどに……!」

「わかるのだ、セフィロス……ッ! 私はおまえに殺されてもかまわない。いや、そうされるべき化け物なのだッ! だが、クラウドは違うッ!懸命に生きている人々に罪はないッ!」

 口が動く。

 内奥からほとばしる感情が、駄々漏れに流れてゆく。

 頭がくらくらする。めまいが……

 

「一人きりになったクラウドの絶望が、一体どれほどのものだったか想像が付くのか!? この子がどれだけ必死に生きてきたかッ! それだけではない。彼は自分より弱い者を守り、手をさしのべる。……おまえとクラウド、本当に強いのはどちらだッ!」

 ボタボタと汗が地に落ちる。

 目の前が真っ赤に染まる。

「私と人間の子供を並べて比較するなッ! 矮小な正義感など何になるッ!」

 今度こそ正宗が、私の脇腹を襲った。ブシッと血が噴き出す。

 だが痛みは感じない。

 

「ヴィンセントッ! もう嫌だッ!怪我しないで! 俺のために……傷作らないでよーッ!! おい、セフィロス! アンタの相手は俺だろうッ! 斬るなら俺からやれよッ!」

 ガシャガシャと手錠が耳障りな音を立てた。こすれた傷口から血が滲んでいる。

 

 ……よしなさい、クラウド……

 せっかく綺麗な手をしているのに……

 ……大丈夫、すぐに外してあげるから……

 

 言葉にしたつもりであったが、もう『人』の声は出せないようだ。

 この子と一緒に居られたのは、本当に短い間であったが、永い眠りから目覚めたかいのある出逢いであった。