〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<19>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ヴィンセントッ! ヴィンセントッ! やめてッ! 逃げてッ!」 

「……ヴィンセント・ヴァレンタイン。……黒マテリアは貴様の死体から探させてもらおう」

 セフィロスが冷ややかに言った。

 可哀想なセフィロス……哀れな命……

 

 ……だが、大丈夫だ。寂しくはない。

 私が一緒に逝く。

 

 遙か昔の過ちを、幾度謝罪しても許されることはなかろう。

 ならば、最期は共に…… 私の持てるすべての力で、君と共に逝こう……!

 

「安心しろ、クラウドにもすぐに後を追わせてやる」

「はぁ……はぁっ……!」

 妖刀が揺らめく。

 瞬間、喉元に突き立てられたそれを、キチン質化した爪が弾いた。

「な……ッ!?」

 セフィロスの声に潜む、かすかなとまどいの気配。

 

 意識を研ぎ澄ませ、自我を死守しろ……!

 必死に命じる。

 そう、私は『ヴィンセント・ヴァレンタイン』

 未来在る年若き青年……クラウドを守るのだ。

 

 ウオオォォォォォォン!

 

 背から黒い翼が広がり、明るいパティオに闇を生む。

 セフィロスよりずっと上に、目線があることで、リミットブレイクに成功したのだと知る。

 だが油断がならない。

 わずかにでも気を抜けば、この身のうちに宿るカオスに、精神を乗っ取られる。

 

 

 

 

 

 

「おおおぉぉぉぉぉ……!」

 両手に熱が集まり炎が吹き出る。

 クラウドの側に立つ、セフィロスめがけて投げつけ、間合いをとる。

「貴様……ヴィンセント・ヴァレンタイン……か!?」

 黒翼が風を起こすが、彼は長刀でかまいたちさえも切り裂いた。

 いかにこの身体が、頑強で特殊だと言っても、甦ったセフィロスは、人為らざる特殊能力を備えているのだ。

 隙を見せたら命取りになる。

 いかに『カオス』でさえも……

 

「ガッ……ギィギィ……」

 鋼のきしむような音が、口腔から漏れる。

 『カオス』

 ディアブロにも似た悪魔……これが私の最終形態なのだ。

 リミットゲージのすべてを放出し、闇と混沌をつかさどる魔物と化すのだ。

 まだ誰にも見せていない、忌まわしい姿であった。

 

「ギッ……ギィ……ゴォォォォ……」

「……ヴィンセント……? ヴィンセント!」

 クラウドが確信に満ちた目で、私を見る。

「ヴィンセント……!」

「ギッ……ギィ……」

「リミットブレイクなんて……どれだけ消耗すると思ってんだよ……ッ!」

「……ギィ……ギィ……」

「頼むから無茶しないでッ!アンタがいなくなったら、俺、もう頑張れないよ……生きてられなくなるよ……」

 醜い悪魔の姿を目の当たりにしても、まるで竦むこともない。

 それどころか、『カオス』にではなく、私に向かって必死に語りかけてくる。

 バーサク状態にあるはずの、この私へ……

 

「ヴィンセント・ヴァレンタイン……! 行くぞッ」

 いっそ楽しげに、セフィロスの刀が空を舞う。

 幾度も閃光が走り、樹木や岩に、深い疵を刻んだ。

 カオスフレアを放ったときでさえ、片翼で空に跳んで躱された。

「ギィ……グゥ……」

「ヴィンセント・ヴァレンタイン!貴様を殺す……! そして私はこの星を手に入れる……ッ」

 白い肌がわずかに昂揚している。

「ガッ……ギイィィィィ!」

 カオスの硬質な肌にさえ、刃を食い込ませてくる。

 ブレイクしている私は、ほとんど痛みを感じないが、傷を負えば負うほど、悪魔の肉体を保持しているのが難しくなるのだ。

「ガァァァァァ!」

 肩をつらぬいたセフィロスの刀を、渾身の力で掴みしめる。

 そのまま、刺し貫かせ、深く引き寄せた。

 人の身体でではない、カオスの力を振り絞って、彼の武器をこの身の奥へと引き込んだのだ。

 

「ヴィンセント! 何してんだよ! やめろよッ!」

「グゥゥ……ギィ……ギ……」

「死んじゃうよッ! 死んじゃう! 嫌だッ……やめて、やめてーッ!」

 気が狂ったようにクラウドが叫んだ。

 身の内の闇が、マグマのごとく熱を持って浸蝕してくる。

 ……自我が保てるのも、後ほんのわずかだ。

 

 最期の力で、私はセフィロスの身体をぐいと抱き込んだ。

 

 大丈夫だ、ひとりでは逝かせない……

 もう、寂しくないからな、セフィロス……

 

 私は……いや、もうほとんど『カオス』と同化した私は、猛毒を含んだ牙をたて、彼の首筋に噛み付いた。