〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<20>
第二部
 バレット
 

 

 

 

「クソッ! まだ着かないのかよ!」

 ぐるぐると蜷局を巻く回廊に、俺は思わず悪態を吐いた。

「こいつはピラミッド型の建物だからよ。地下の方が地表に出ている部分より広いんだぞ、と」

 赤毛のタークスが、致し方ないというふうに頭を振ってみせた。

「……チッ、ヴィンセントの野郎大丈夫かよ。だいたいアイツは食も細せェし、腺病質なタイプだからな……」

 ヴィンセントをお気に入りのシドが、がりがりと頭を掻きながらつぶやいた。

 もちろん、俺だって、ヴィンセントとクラウドのことは心配だ。だが、何はともあれ、まずは黒マテリアを、入手せねばならない。

 たったひとつで、この星を無に帰すことができるという恐ろしいブツ……

 もしそれがセフィロスの手に渡ろうモンなら、俺たちばかりでなく、みんなの家族も死ぬ。

 

 元凶の神羅の連中なんぞ、知ったことじゃねェが……

 

 ……マリン。

 それから、スラムの子供たち……

 いや、この星に誕生した命は、すべて摘み取られることになるのだ。

 

 そんなことが許されるのか!?

 毎日必死に働いて、身を寄せ合って生きている人々が大半なのだ。

 そんな彼らが、何も知らないところで事が起こり、知らぬまま死んでゆく……弱者はどれほど過酷であっても、ただ運命を甘受するしかないのであろうか。

 

 

 

 

 

 

「……バレット?」

「…………」

「バレット……大丈夫?」

 静かに声を掛けられて、しんがりの俺は、さらに皆から遅れてしまっていることに気づいた。

「……ああ、エアリス、すまねぇ……」

「いいんだよ。具合悪い……?」

 彼女の白い手が、そっと額に当てられた。

 

「……マリンちゃんのことが心配……?」

 まるで俺の心を見透かすように、彼女はそう問いかけてきた。

「そ、そりゃ……だが、今はそんなこと考えてる場合じゃねェ……」

 己を咤するようにつぶやく。

 

 セフィロスの手に黒マテリアが渡れば、『メテオ』が到来する。

 ……それがいつやってくるのかは知らない。

 だが、遅かれ速かれ、この星の生物は死滅するのだ。マリンやエアリスの母ちゃんだって例外じゃねェ。

 

「……すまねぇ、アンタの家に任せっきりで」

「マリンちゃんのこと……?」

「ああ、だが、他に頼れる人がいなくて……」

 実の父はもういない。あの子はすでにひとりぼっちなのだ。

 

「何言ってるの? 私が言い出したことでしょう?」

 少し怒ったようにそう言われ、俺は何度も頷いた。

「いや、だが…… ああ、クソッ!」

 想いを消し飛ばしたくて、大仰に頭を振りかぶる。

「畜生……! くずくず考えても仕方がねぇってわかってんのによ。今はあの子の側についているよりも、やらなきゃならないことがあるって……! ヴィンセントたちは必死に闘っているのに……情けねェ!」

「バレット……」

 気遣うように名を呼ばれた。

 それがきっかけになったのかもしれない。

 口にしても意味のない言葉が、次々と噴き出してきた。

 

「……畜生……! マリンが……スラムの連中が何をしたってんだ! みんな、必死に生きているのに! 金も無ェ、特別な力もねェ俺たちは、ただ黙って殺されろってのか!? 弱者には文句をいう権利もないっていうのかよ!?」

「……バレット。みんな……弱いよ。どこか弱いところを持ってるんだよ」

 声を上げた俺を宥めるように、エアリスがささやいた。

 だが、一端、恐怖と向き合ってしまった俺の耳には響かない。

「みんな……弱い? 弱くないヤツらもいるだろう? 脱出ポッドでも用意して、神羅カンパニーのお偉いさんどもは、このさわぎを高見の見物と洒落込んでじゃねぇのか?」

「バレット……」

「それによ、セフィロスはどうなんだ!? 神羅にいたときにゃ英雄、今はさらにトンでもない能力を備えた化け物だ! こいつ以上の強者はいねぇだろうが!」

「…………」

「怖えェ…… 自分のことじゃなくて…… マリンが…死んだら… 考えただけでも気が違いそうだ!」

 旅に出てから極力考えないようにしていた。

 置いてきた者たちのことを思い出すと、弛んでしまうのだ。肉体も精神も。