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〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
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 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 

 

 初日は、なんやかんやで時間が過ぎていった。

 あっという間に夕食の時間になり、久々に俺たち六人はゆっくりと食卓に着いた。

 『セフィロス』はやはり疲れが出たのだろう、サンルームの寝台でぐっすりと眠り込んでいた。

 ……今、思い起こしても……そう、物静かなヴィンセントが、すごく嬉しそうにしていたのを覚えてる。

「ヴィンセント、機嫌いーね……」

 兄さんがとなりのヴィンセントをちらりと横目で見てそうつぶやいた。

「そ、そうだろうか……ああ、そうかも……しれないな……」

 機嫌がいいからといって、食欲が出るというものでもなかろうが、めずらしくもヴィンセントはスープ皿をきちんと空にしていた。

「それほど手の込んだものを作ったわけではないのだが……『セフィロス』は残さず食べてくれて……」

「俺も残さず食べてるもん」

「好き嫌いもないようだし……」

「俺もないもん。……ちょっとしか」

「はやく体調を戻してやりたいものだな……」

 兄さんの茶々入れなど一顧だにせず、しみじみと彼はつぶやいたのであった。

 

 皆の夕食を終えた後、俺とヴィンセントは、『セフィロス』の様子を見に行った。

 どうやら、彼はとっくに目覚めていたらしい。確かに昨日から寝っぱなしなのだ。そうそう眠り続けることもできなかろう。

「アレ? なんだ、目、覚めてたの?」

 俺がそう問うと、

「ああ……」

 と、低い声が返ってきた。

「テーブルランプ、点けていい?」

「……ああ」

 やれやれ。この人はいつでも、「ああ」か「別に」だ。(笑)

 ポッとオレンジ色の灯りが点る。幻想的な深い色味は、白っぽいライトよりもずっと趣があると思う。

 特にそこに映し出されるのが、彼のような綺麗な人ならば、尚のこと。

「ぐ、具合はどうだろうか……?」

 ヴィンセントが内心の緊張を押し込めた口調で、そう訊ねた。

「……ああ、大分いい」

 と、セフィロス。このセリフは、今朝方と同じだ。

「熱はどぉ? 計ってみようか。ヴィンセント、体温計ある?」

「あ、ああ」

「じゃ、お願い」

「え……あ、ああ……じゃ、その……あの……」

 ヴィンセントの戸惑いにも気付かず、彼は今朝と同じように、黙って口を開いた。

 震える手で、そこに電子体温計を差し込むヴィンセント。

 見せ物ではないとわかっているが、なんだか微笑ましい雰囲気で、ついつい口元が緩んでしまう。

 ボスッボスッ!という音に、振り返ると、またもや兄さんが居間のソファで、示威行為を行っていた。残念ながら、当の恋人は気付かない模様である。

 ピッと体温計の音がすると、ヴィンセントは怖々と、それを彼の口から受け取った。

「え、ええと……36.8℃……だな」

「へぇ、よかったじゃない。熱下がったね」

「ああ、そう……」

「いや、これはまだ完全ではない! 微熱がある。油断してはいけない、ヤズー」

 『セフィロス』の声を遮って、ヴィンセントが言った。当の『セフィロス』は遮られたまま、ぼんやりとしていた。

「え、あ、ま、まぁね。昨日の今日だからね。でも、回復力は大したものだよ。しばらく安静にしていれば、すぐに普通に生活できるようになるから」

「……ああ」

「えーと、一応、俺たちは夕食済ませたんだけど……もう夜の八時だしね。どう?食べられそう?」

「……お腹が空いた」

 ボソッと『セフィロス』がつぶやいた。何の抑揚もない独り言のように。

「そ、そうか? よ、よかった…… いろいろと用意はあるのだが、何が食べたい? 君の食べたいものを持ってこよう? 少し待ってもらえれば、多少手の込んだものだって……」

 ヴィンセントが畳みかけるように言う。俺は口出しをせず、ふたりのやり取りを苦笑しつつ見守った。

「昼の……」

「え?」

「昼のスープは美味かった。……たぶん、おまえの作った物は、なんでも美味いんだと思う」

 ああ、このときのヴィンセントの顔といったら……!!この物語を読んでいる君にも、見せてあげたいくらいだよ!

 たぶん、『セフィロス』のことだ。言葉どおりで他意はないのだろう。昼のスープが好みの味だったから、ヴィンセントの作ったものなら何でも美味のはず……というある意味、非常に短絡的な発想である。

 もちろん、そんな理屈を並べ立てて、嬉しそうに(どころか、天にも昇るような心地?)になっている彼に水を差す必要はない。

「ヤ、ヤヤヤヤズー、ど、どうしよう……私……あの……」

「どうしようも何も誉められてるんだからいいじゃない。よかったねェ、ヴィンセント」

「いや、あの、もうどんな顔をしていいのか……」

「……何か問題が?」

 ボソリと『セフィロス』がつぶやいた。どうでもよさそうな声音で。だが、舞い上がっているヴィンセントには、彼の口調など気に留めようもないだろう。『セフィロス』にしてみれば、たった今の会話で、ヴィンセントが動揺する意味などわかるまい。

「も、も、問題など…… そんなふうに言ってもらえて……嬉しくて…… わ、私は緊張すると、すぐに顔が火照ってしまって…… 君に見られるのが……恥ずかしくて……」

 バスッッ!! バスッッ!! ガスッ!!!

 という、兄さんの威嚇が激しくなった。

 ……気の毒なクッション……もしかしたら買い換えなくてはならないかもしれない。

「まぁまぁ、落ち着いてってば、ヴィンセント。それじゃいつまで経っても彼が夕食にありつけないよ」

「え……あ、ああ……ッ! す、すまない」

 正気づいたように、ようやく顔を上げるヴィンセント。だが、『セフィロス』と目が合うと、ボッと炎がついたように、すでに赤くなった頬を、さらに色濃く上気させるのであった。

 当の『セフィロス』自身は、ぼんやりと蒼白い顔をしているだけなのに。

「あ、あの…… では、私が作ってくるから…… 君が食べたいものを何でも言って欲しい。今ある材料で作れるものなら何でも……! 明日になったら、買い出しに行くから、それこそ、君の望むとおりに……」

「昼のスープがいい」

 いつまでも続きそうなヴィンセントのセリフを聞いていたのかいないのか、ほとんど独り言のようにぽつんと彼はそう言った。