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〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<10>
 
 セフィロス
 

 


 

 

  

 

「では、貴様のなじみの話でも聞かせろ」

 興味のあることは、こちらのほうから口火を切ってやらねば、何も聞き出すことなどできなさそうであった。ヤツは無言のまま、グラスを傾けるばかりで、自ら口を開こうとはしなかった。

「……私の……なじみ? 『クラウド』のことか……?」

「フフン、まぁ、あの子もそうだが。レオン……スコール=レオンハートと言っていたか。あの野郎のことなどどうだ?」

「彼はなじみではない」

「ほー、そうかね」

 茶化すようなオレの物言いに、ヤツは不快そうに眉を顰めた。

「……何なのだ。あの男と私は無関係だ」

「ヤツは関係したいようだったがな」

「……戯れ言を。くだらぬ」

 素っ気なく『セフィロス』はつぶやいた。グラスを傾けると、カラリと氷が涼しげな音を立てた。ヤツのそれは酒をフルーツジュースで割ったものだ。口当たりが良く飲みやすいが、アルコール度数は高い。

 ボケ『セフィロス』は、そいつをただのジュースだとでも思っているのだろう。遠慮無く「おかわり」とぬかしやがった。

「ホレ、ジュース」

「ああ」

「レオンはしばらくの間、あの家に居たんだ。それで少し話をな」

「……らしいな。だが勘違いするな。あの男は傷ついた『クラウド』を保護した人間だ。いわば私のオモチャを横取りした敵対すべき輩だ」

「オモチャだって適当に可愛がってやらねーと、傷ついてブッ壊れるだろ。ガキじゃねーんだから加減を知れ」

「……私なりに可愛がってやったつもりだが」

 クッと喉の奥を鳴らせてヤツはささやいた。色味のない口唇が淡い紅色に輝き、ほんの少し首を傾げただけでひどく艶めかしく映った。

「……ずっと手元に置いて……」

「身体中に切り傷刻んでか。このSM野郎」

「……フッ……ずいぶんのあの子のことにくわしいようだな。ああ、そういえば……おまえも、こちらのクラウドを、昔……側に置いていたと聞いたな」

「そっちの『クラウド』のほうが、素直で可愛い」

 オレがそう言うと、ヤツは何の感慨もなさそうに

「そうか」

 とだけ応えた。

 

「……この場所に……あの男はどれほどの間……居たのだ?」

「あの男とは?」

「レオンだ」

 少し苛ついたように、『セフィロス』はつぶやいた。

「さてな、一週間程度じゃないのか。いずれにせよ、それほど長い時間じゃなかった」

「……そうか」

「ついでに、レオンとした話を教えてやろうか?」

 オレはすました顔で隣に座る男に、カマを掛けてやった。

「……別に。私には関係のないことだ」

「そーかそーか。関係ないなら、流して聞いてろ」

「…………」

「レオンの正義漢バカは、貴様のことばかりしゃべってたな。同じツラのオレと会えたのを、不幸中の幸いとばかりに、矢継ぎ早にテメーについての質問ばかり並べ立ててやがった」

「……私……の……?」

 機械仕掛けの人形のように、ぎこちなくこちらを見る『セフィロス』。並んでカウンターに座って、初めてまともにオレを見たのはこの時が初めてだったと思う。

「『俺は『セフィロス』を理解したい』。そう繰り返していたな。もう耳にタコだ」

「…………」

「『セフィロスのことを放っておけない。どうしても理解したい』 ……うつけたように、顔を上気させてな。バカな男だ。『クラウド』ひとりでも持て余してんだろーに。こんなクソデカイ病人相手にフツーの男が何をしようってんだか」

「……レオンが……そう言ったのか」

 ふたたび目線を前に戻し、ヤツは噛みしめるようにゆっくりとそうささやいた。問いかけでありながらも、それは独り言のように聞こえた。

「……何故……そのような……ことを……?」

「ハッ? オレが知るかってんだ。いい迷惑だ! クソしつこいの何のって!」

「…………」

「同じツラとは言っても、住む世界の違う他人だ。そいつの考えなんざ知るか!と怒鳴りつけてやったがな。納得したふうではなかった」

 その点については事実をありのままバラした。

「……愚かな……ことを……」

「あー、全くだな!あのボケ正義漢は!愚かもいいところだぜ。『クラウド』ひとりに手を焼いているくせに、おまえの気持ちまで欲しいとなりゃ、もうお笑いぐさだな」

「……私の……気持ち……欲しい……?」

「早く言や、そーゆーこったろ? こまかな理屈は知らねーけどな」

 やさぐれた口調でそう言い放つと、ヤツはほんのわずかに……そう、きっと同じツラのオレでなければわからぬほど、微かに眉を顰め戸惑うような表情を見せた。

「…………」

「レオンは『クラウド』を守りたい。『クラウド』をこんな形で歪めたのは『セフィロス』。『セフィロス』に会ってみたら、放っておけなくなった。気になって仕方がない。側にいたい。理解したい。どうすれば、『セフィロス』の関心を引きつけられる? どうアプローチすれば話を聞いてもらえる? そのために似たツラをもつオレ様に攻略法を訊く。 ……手っ取り早く言えば、こういう図式だ」

「……攻略法……」

 ヤツは、つくづく呆れたというツラで、即物的な言葉を繰り返した。

「あいつももとの世界に戻りゃ、クソ真面目な好青年ってところだろ。その割りには、ずいぶんとてめェ相手に取り逆上せていたようだったがな」

「…………」

「オモチャがひとつじゃ足らないか、『セフィロス』」

 オレはヤツにカマを掛けた。

 この男の様子を見ていれば、そういうつもりではないとすぐにわかることでありながら。

「……レオンという男のことは知らぬ」

 ボソリとヤツは低くつぶやいた。

「ハァ? ヤツの話を差し向けたのは貴様だろーが。事情が悪くなるとだんまりか?」

「……そうではない。そういうつもりではない! ……あれと私は関係がない。あの者は勝手に……私の領域に踏み込んでこようとするだけだ……そう……私が『クラウド』を手元に置いていたから……敵対視しているのだろう。そのせいで……」

 自分で自身を納得させる理屈を見つけ出すために、早口でヤツはそう言ってのけた。

「さぁな。好きに考えておけ」

「…………」

「…………」

「…………」

「チッ……ったくてめーのようなヤツと一緒だと、最高級のブランデーも味がわからなくなる」

「……そして……それからどうしたのだ」

 聞き取りにくい小さな言葉でヤツは話を続けた。

 動揺して震えたり、掠れたりしないだけ、気丈と言えるのだろう。

 いや、このおとぼけ野郎は、何故、自分自身がこれほどにレオンにこだわっているのか、正確には理解していまい。ただ、不快な焦燥感と苛立ちを感じているだけだ。

 ……これじゃ、思春期のガキと変わらないではないか。

「それから、とは?」

「だから……あの者が私の話をして……それで? あやつの愚行を止めてくれたのだろうな!? この私に関わろうとなどという……」

「急にデカイ声出すな、ボケが」

 そう言い放った後、ヒラヒラと手を振ってオレはそっぽを向いてやった。

 さきほどまで、どうでもよさそうに惚けていた男が、キツイ眼差しでこちらを睨み付けるのが心地いい。

「オレ様にそんな義理はないだろ」

「おい、貴様……ッ」

「ムキになるな。……初めて会ったときのようだな。感情があからさまだ」

「…………」

 ムッとしてヤツは沈黙した。