悪魔のKISS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
Interval 〜03〜
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは何の気なしに、その疑問を口にした。

 すでにヴィンセントの話の山場は過ぎていると認識していたのだ。 

「……先ほどから気になっていたのだが……」

 そんな風に口火を切る。

「…………?」

 俯いた顔を持ち上げ、オレを見上げるヴィンセント。

 

「……なぜ、おまえがそんなことを知っているんだ? いや、知っているという言い方は適当じゃないな。まるで貴様の物言いは当事者のようだ。目撃者といってもいい」

「……あ……」

「どう多く見積もっても、おまえは30そこそこがいいところだろう。オレより年長だというのはいいとしても、たいして違わないおまえが何故……」

「……あ……あの……そ、それは……」

 

 ……そう、オレはこのとき、最大の過ちを犯していた。

 ヴィンセントの禁忌に触れている自覚がなかったのだ。

 ……やめればよかった。もっと早くに引き返していれば……

 

 すでに『済んだこと』である、オレ自身の出生などよりも、遙かに重くつらい事実を、本人の口から引き出していることに気付いていなかったのだ。

 

 

「それは……私は……」

「ヴィンセント?」

「私の身体は……普通ではない……から」

 途切れ途切れに答えるヴィンセント。

 

「……カオスのことか?」

「……ああ、そう……それもある」

 ヴィンセントの紅い瞳から、徐々に光が失われて行く。

「それも……?」

「……彼女の……ルクレツィアのことで……どうしても許せなくて……科学者の……宝条に詰め寄ったことがある。……私が考え無しだったんだ。ただ感情にまかせて怒りをぶつけただけだった……」

「……宝条?」

 オレの脳裏に、嫌な目つきをした貧相な科学者の姿が浮かんだ。

「……ヤツが主導したプロジェクトだったから……どうしても問いただしたいことがあった……」

「…………」

「……無防備に過ぎたんだ、私は。まともな話が通用する相手でないと、もっと早くに見極めるべきだった……」

「……それで?」

「……殺されかけ……改造された」

 ヴィンセントは、端的に顛末だけを口にした。

 ……低く陰鬱な声音で……

 

「……私はこの姿のまま……もう60年近く……生きている」

 オレとは目を合わさずに、ヤツは独り言のようにつぶやいた。

 

「…………!!」

 さすがにこの告白には、オレも度肝を抜かれた。

 60年……!?

 こいつが……60年……生きているだと? この姿のまま……?

 

「……私は化け物なんだ……」

 掠れた声でそういうと、ヴィンセントは両手の中に顔を埋めた。嗚咽するかと思ったが、ヤツは声ひとつ漏らさなかった。

 

「……できれば……君には知られたくなかった。拒絶されるのが怖かった……君に異端の眼差しで見られるのが……つらかったんだ……」

 ……心臓を引き絞るような苦痛に満ちた声……

 

 ……ああ、しまった!!

 こんなことを聞き出すつもりではなかったのに……ただオレは、自身の出生についての関心と、こいつへの興味から、未知の事柄を聞き出してみたかっただけなのに……

 

「……ヴィンセント……」

「す、すまなかった。い、今まで隠していて」

 無理をして顔を上げるヴィンセント。

 泣き笑いのような表情を浮かべている。

「……少なくとも、君を産んだ女性が、とても聡明で美しい人だったということだけは言っておきたかった。そ、それだけなんだ」

「…………」

「わ、私のことは……気味が悪いと思うなら……その……あまり近寄らないように気をつけるから……だから……あの、気にしないで欲しい」

「おい……」

「き、君が納得できないのはよくわかっているが、彼女は本当に君のことを愛していたんだ。いつでも……ずっとずっと君のことを想っていた……だ、だから……」

「……オレのことはいい」

「あ……す、すまない」

「そうじゃない」

 オレは否定した。きつい物言いにならないように気を付けて。

 

「……オレが気になるのは、おまえのことの方だ」

「……あ……」

 カッと頬を上気させ、困惑したように目をそらす。

「す、すまない。隠していて。……でも、言い出せなくて……あの冬の山で君に問われた時に、きちんと話すべきだったと……そう思う。本当に……すまない」

「…………」

「あ、だ、だから、私の話はこれで仕舞いだ。さぁ、ちゃんと休んでくれ、セフィロス。また熱が上がると困るから……」

「おい、ヴィンセント!」

「あ、あの、ふ、普段は、私はそれほど普通の人間と変わらないと思うから……あまり気味悪がらないでもらえれば……あ、いや、よけいなことを……では、失敬する」

 ガタンと音を立てて椅子から立ち上がるヴィンセント。

 緊張の糸が切れたのだろう。取り繕うように言うと、ヤツは震える唇を片手で覆い隠した。

 

 そのまま、オレの呼びかけにも応えず、逃げるように部屋から出て行ってしまった。

 

「……みゅん? みゅんみゅん?」

 黒チビが、布団に飛び乗り、オレを眺めて小首を傾げる。

「……ハァ……」

 人知れず溜め息が漏れてしまう。

 

 ……あんなに重い話をされるとは……

 くり返すがオレのことはどうでもいい。知ったからといって、なにが変わるわけではないのだから……

 

 ……だが、ヴィンセントのことは……

 あいつは自分のことを『化け物』と言っていた。その口振りからも、自らの肉体の秘密を本当に知られたくなかったのだろう。

 

 ……失敗した……

 こんな形で聞き出すべきではなかった。

 少なくとも、クラウド同様、特別な人間になりつつあるアイツを、こんな風に痛めつける必要はなかったのだ……

 

 病が癒えて軽くなった身体とは対照的に、頭がひどく重くなる。

 まるで1tの重石を乗せているような気分だ。

 

 オレは、顔を上げていることさえも、耐え難くなり、そのまま寝台に寝ころんだ。