悪魔のKISS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
Interval 〜03〜
 セフィロス
 

 

 

 

 

  

「……あ……ヴィ、ヴィンセント……」

 惚けたようにクラウドがつぶやいた。

 ……オレはもはや声も出なかった。

「ヴィンセント、あ、いや、違うんだよ……た、ただ、俺はちょっとセフィに用事が……」

 黙したままのオレの代わりに、なぜかクラウドがとりなしている。

「…………」

 ヴィンセントは、そのままの格好から微動だにしない。

 

「ヴィンセント? どうかしたの? なに、今の音?」

 パタパタと軽い音がして、ヤズーが駆けてきた。

 凍り付いたままのオレたちを見て、うろんな表情をする。さもあろう。コイツは事の経緯をなにも知らないのだから。だが、冷静な状況判断ができるのがコイツのいいところだ。

 急いでとって返して清掃用具を持ってくる。

「ヴィンセント、気を付けて。破片踏まないようにね」

「……あ……すまない……」

 木偶人形のように、つぶやくヴィンセント。

「あ、あの……私は……」

 震える声で、そこまでいうと、紅い瞳に水滴が盛り上がる。震える口元を片手で押さえるヴィンセント。

 

「あ……あ……」

「ヴィンセント……!? ど、どうしたのッ?」

「あ……ヤ、ヤズー……いや、私は……あの……」

 ボトボトボトと水滴が、片づけたばかりの廊下にこぼれ落ちた。自身でそれに驚いたのだろう。

「……あ……あ……す、すまない……き、気分が……し、失敬する……」

「あっ……ヴィンセント!」

 ヤズーの制止を振り解き、オレを問いただすこともせず、クラウドの言い訳を聞くこともなく、ヴィンセントはきびすを返し、逃げるように姿を消した。

 

 オレたちの間に、シ……ンというあまりにも重苦しい沈黙が落ちた。

 

「…………」

「……ど、どどどどどーすんだよッ! アンタのせいだぞッ! セフィ!!」

 胸ぐらを掴み上げて、クラウドが食ってかかってくる。

「……バ、バカモノ! おまえが大騒ぎするから、バレたんだろう! オレは時期を見て、的確に説明……」

「そんなん隠してないで、さっさと話するべきだろうがーッ!」

「うるさいッ! 今さら、ただのインフルエンザでした、なんて言えるかッ! おまえみたいなガキじゃあるまいしッ!」

「サイッテー! あんなにヴィンセントに心配掛けて……泣くほど不安にさせて……! アンタって信じらんないよ、もうッ!」

 毒づくクラウド。

 ……違うのだ。もはや現段階は、ただ本当のことを話さなかったというレベルを超えているのだ。

 それをダシにして、オレはあいつの過去をほじくり返してしまった。おそらく誰にも知られたくなかった秘密を……

 

 ……まずい。

 この上なく……マズイ。

 

「ちょっと……黙って聞いてられないんだけど……なにがあったの、セフィロス?」

 人の殺せるような眼差しで、オレに迫るヤズー。

 思わずクラウドが、飛び退くほどのオーラをかもしだして。

 

 ……もはや観念せざるを得なかった。

 

 ヴィンセントの秘密云々は抜きにして、オレはヤズーとクラウドに、事の経緯を簡潔に説明したのであった……

 

 嵐のごとき非難囂々にさらされたわけだが、別にコイツらに何を言われても痛くもかゆくもない。

 

 だが、ヴィンセントの態度だけは、さすがのオレにも多大なるダメージを喰らわせてくれた。

 

 一見、常と変わらぬ態度を取るヴィンセント。

 きちんと家事をこなし、好物を作ってくれる。

 

 だが、オレとふたりきりになるのを極度に避け、いっさいヤツから話しかけてはこないのだ。

 たとえば、その態度が当てつけのようなものならば、まだ対処のしようはある。しかし、ヴィンセントの振る舞いはそういったものではないのだ。

  

 むしろ、こちらを恐れているような……初めてオレがコスタデルソルにやってきたときのような対応に戻ってしまっていた。

 張り付いたような愛想笑い、ソツのない返事……そして、オレとは目線すら合わせてくれない。こちらから声をかけると、そのときは何とか応じてくれても、すぐさま、クラウドやヤズーの後ろに隠れてしまうのだった。

 

 クラウドのガキだけは、ずいぶんとご満悦のようであったが、こんな状況はもちろんオレの望むべくものではなかった