近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 レノ
 

 


「ヤズーさんのことはとても心配しておりました。私の患者なのですから」

 年若い……いや、この表現は曖昧だぞ、と。

 白ヒゲジジイから見れば、40、50代だって年若いになるだろう。

 おそらく二十代後半程度と考えるのが妥当であろう彼は、思い詰めた表情でそう言った。

 下世話なオレは、『この色気男だけは好きになるな』と茶化してやりたいほど、熱のこもった物言いだったが、それ以外にも理由はあったのだ。

「あの……私に考えが……」

「何だろう? もし、ヤズーを救えるのなら、何でも言ってみてくれ!」

 すかさずヴィンセントさんが先を促した。

 若い医者は、わずかに躊躇した様子を見せたが、ヴィンセントさんの必死の形相に、なにやら思い定めたようだ。

 意を決した風に、口を開く。

「……セフィロスさんならば、可能であるかと……」

「は? セ、セフィロス?」

「そうです。思念体の力の源であるセフィロスならば、ヤズーさんを目覚めさせることができるのではないかと思います」

 完全に話の外、という態度で、テーブルでコーヒーを啜っていたセフィロスに、医師が目を向けた。

 

「……あ? 何の話だ」

 つまらなさそうに、セフィロスがつぶやいた。そりゃそうだろう、これまでのやり取りを聞いてさえいなかったのだから。

「あ、あの……セフィロスさん。あなたならヤズーさんを、起こすことが出来ると思うのです」

「おまえ、誰だ?」

 どこまでも失礼な英雄であった。

 いや、『元』英雄であり、今は迷惑な居候であるらしい。

「おい、セフィロス。話聞いてろよ。この人も医師だぞ、と。コスタ・デル・ソルの神羅系列の診療所で……」

「あー、イロケムシを最初に診た医者か。わざわざ呼びつけられたのか、ご苦労なこったな」

「い、いえ、自分は自発的に参りました。ヤズーさんは私の患者ですし、お話したいことも……」

 長身……というよりは、巨躯のセフィロスに側に寄られ、緊張した面持ちになる。

「わざわざコスタ・デル・ソルから、こんな場所まで? おまえ、言って置くが、そこのイロケムシはただの毒虫ヤロウだぞ? ちっとばかしツラがいいだけのな」

「え、は、あ、あの……」

「見てくれに釣られると後で痛い目見るぜ。いいか、オレさまは忠告したからな」

 真っ赤になって恐縮している若いセンセが、あまりにも気の毒だ。

 もっとも、セフィロスがオレと同じことを考えていたのが可笑しかったが。

 とりあえず、フォローを入れておくことにする。

「いや、セフィロス。今はそんなこと言ってる場合じゃないぞ、と。とにかくこのヤズーの奴を目覚めさせないといけないだろ。ま、先生、恋愛は自由ッス。オレ的にもオススメはできないけど頑張ってください」

「あ、あの、私は、あの……そんな気持ちは。と、とても釣り合いませんし!」

 機械仕掛けの人形のように、ブンブンと手を振って生真面目にも弁解する。そんな彼に、オレはかなり好感をもったが、年配の医者共の冷たい視線に一応顔を引き締めた。

「そんで、コスタ・デル・ソルのセンセ。わざわざ社長に面会してまでここに来たってのは……」

「はい。このような事態を想定していたわけじゃないのですが…… その、私の父も神羅の医師でした」

「親子二代で神羅カンパニーッスか。何だか因果ですなァ」

 世間話的に応じたオレに、彼はなにやら逡巡した様子を見せた。ちらりとセフィロスを見遣ると、覚悟を決めたように顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「父は……その……研究者として…… 宝条博士の研究助手もしておりました」

 シン……と場が静まりかえった。

 ヴィンセントさんも、完全に虚を突かれたのだろう。切れ長の双眸を見張り、黙り込んだままだ。

「……申し訳ありません、セフィロスさん。すでに他界しているとはいえ、父の犯した罪は償えるものではありません」

 そういうと、その医師は直角になるほど、深く頭を下げた。

 年配の医師たちも居心地の悪そうな態度である。きっとこの中にもSプロジェクトを知る者は多かろう。深く関わらなかったのかもしれないが、当時代に医師、研究者として興味を持った者は少なくないはずだ。

「数年前に父の残した手記を見つけたのです。……その中で、父の慚愧の念は絶えないようでした。職を失っても、どうして阻止しなかったのかと……」

 ぎゅっと握りしめた手の関節が白くなっている。父親と同じ、神羅の医師という職種を選んだ彼には、何か思うところがあったのだろう。

「いえ、何を申し上げても言い訳になります。ですが、あなたのご家族のために、その知識が役立つのならば……」

「フン、あんなクソイロケムシ、家族なんかじゃねーけどな」

 若い医師の言葉をセフィロスが遮った。彼は哀しそうな眼差しをしたが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。

「都合の良い話をしていると思われても致し方がないと思います。ですが、コスタ・デル・ソルでお見かけしたヤズーさんは、とても幸せそうに見えました。おうちの方々とご一緒で……笑っておられました。どうしても、私は彼を治して差し上げたいのです。どうか、お力添えください!」

 そういうと、彼は怠そうにソファに寄りかかったままのセフィロスに向かって、足に身体が着くほど、深々と頭を垂れた。

「セフィロス…… 私からも頼む。どうか、ヤズーを救ってくれ」

 ヴィンセントさんにまで、希われ、セフィロスは大きなため息を吐いた。

「……別に。元からそのつもりだ」

「セフィロス!」

 ヴィンセントさんが、喜色満面でセフィロスに寄り添う。それに、ひとつだけ頷き返すと、彼は医師に目線を投げた。

「……おい、医者、ひとつ言っておく。オレはもう、あの頃のセフィロスではない。オレは今の現実を生きている。『おまえはおまえ、親父は親父』だろう。……それに、おまえの親父は嫌いではなかった。……ロッケンフィールド……いや、Jr.ロッケンフィールド、か」

 セフィロスの言葉に、若い医師……もとい、コスタ・デル・ソルの医師、ロッケンフィールド氏は、力強く礼を言ったのであった。