近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 セフィロス
 

 


 次の瞬間、オレの目の前は紅蓮の炎に包まれていた。

 二度と見たくはないと思っていた光景を突きつけられる。

 

 炎といえば、ニブルヘイムの村…… 忘れることのできない、出生の秘密を知った場所だ。

 がれきの向こうで人影がゆらめいた。

 それが、あの当時のクラウドであると気づき、手を伸ばした瞬間、周囲の景色にノイズが走る。

 そのありさまは、古い映画のテープが、途切れるかのようにも感じられた。

 

「……チッ、やっかいな場所だぜ」

 ひとりごちる。

 自身の意識はしっかりとしている。

 昏睡状態のイロケムシを探し出し、引っ張り戻すこと。若い医師が、唯一、あの中でオレならば、それが可能だと言っていた。

 ヤツがオレの思念体であり、かつてはひとつだったのだから、と。

 そのためには、自我を常にニュートラルに、かつ明確にしておかなければならない。

 

 ……『ひとつだった』

 気持ち悪ィ。

 もはや、一個の生物として、別人格を有している野郎だ。

 ツラだけは悪くはないが、性格その他等は、オレの好みから最も外れた男。

 思念体というのは事実だから、それを否定することはできないが、かつては『ひとつ』などという意識は、さっさと払拭しよう。

 今後、連中がオレの中へ戻ることはなかろうし、そう望まれることもあるまい。

 

 崩れ去ったニブルヘイムの残像の次には、鈍い鉛色に輝く建物の中だった。

 ……ここもやはり見覚えがある。

 薄緑の淡い光は、魔晄炉独特ものだ。

 

 ここはニブルヘイムの魔晄炉。

 『人』であったときのオレが、命を落とした場所だ。

 

 精神世界の中とはいえ、ふたたびここに足を踏み入れることになるとは……お世辞にも愉快な心持ちにはなれない。

 

「おい、イロケムシ! いるのかッ!」

 オレは自らを励ますように、声を張り上げた。

 見覚えのあるポッドの中には、モンスター共が蠢いている。

 いや……姿形は異なるとはいえ、オレの同胞というべきものなのだ。じわじわと苦いものがこみ上げて来て、それを振り切るように、足を進める。

 ポッドの並んだ中央には階段があるのだ。

 ここを登りつめ、最奧には……ジェノバが安置されているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 カツーン、カツーンと硬質の音が響く。

 オレは一歩一歩を踏みしめながら、階段を上った。

 

「……ここが、最奧だ」

 分厚い鉄の扉の前に立つと、それが自動的に開く。

 まるで、このオレを迎え入れるかのように。

 

(……ああ、変わっていない。

 数年前のあのころから時が止まったかのようだ)

 

 そう考え、ハタと立ち止まり自嘲する。

 そもそもここはオレの記憶の世界……心に刻み込まれた過去の残像なのだ。

 あれ以降、この場に足を踏み入れていないのだから、必然的に最後に見た光景が再現されている。

 ごく当然の前提条件だ。

 

 現在は西暦20××年。

 メテオから二年…… そしてオメガからこの地を守って、数ヶ月……

 これが『今』のオレだ。

 ニブルヘイムを滅ぼし、クラウドに斬られた、この現場は『過去のもの』

 

 バカバカしいが、何度もおのれに言い聞かせる。

 ……先ほどから、気づいていた。

 この場所に長く留まるのはよくない。

『現実の世界から、医師の導きに従って、イロケムシを連れ戻しに来た』という、本物の現実のほうを失念しそうになるのだ。

 ここに居すぎると、オレの精神は『この世界』に同化し、むしろたった今までの現実を空事だと考えてしまいそうになる。

 ヴィンセントや……他の連中との、これまでの関わりを考えても、空事などと考えられようはずもないのに。

 

「……クラウドを連れてこないでよかったな」

 低くつぶやいた。

 ただでさえ、落ち着きがなく、周囲に流されやすいあの子のことだ。きっとこの異様な精神世界でパニックに陥るだろう。

 クラウドは最後まで検査に立ち合うと言って聞かなかった。ヴィンセントがなだめすかして、ようやく引き下がらせたのだ。

 一応『戸主』としてという自覚と、純粋にヤズーのことを心配してだろう。

 一度は剣を交えた間柄であるにもかかわらず、『兄さん』と慕うあいつらを、実の家族のように考えている。

 クラウドは子供の頃から、そういった資質だけは変わらない。それについては単純にたいしたものだと思っているのだ。