〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 夜明けにはまだ少し早い時刻。

 

 バァン!

 

 という破裂音で俺は目を覚ました。

 耳慣れた俺には、最初銃声に聞こえたからだ。

 

 まず考えたのは物取りなどの侵入者かということだった。

 コスタ・デル・ソルはのどかな南の島ではあるが、犯罪がまったくないわけではない。人の少ないこの時期、イーストエリアの別荘地が狙われることもある。

「ヤ、ヤズー……!」

 俺の懐で眠り込んでいたカダージュが、緊張した声を上げた。呆れたことに間仕切り向こうのロッズは眠りこけたままだった。

「ヤズー……い、今の……?」

「……わからない。ああ、いい、ロッズは起こすな。俺が見てくる」

「ヤズー、僕も行く!」

「ダメだ。危ないだろう、カダ」

「危ないっていうんなら、ヤズーだってそうじゃん。それにキッチンのほうから聞こえたよ? 兄さんとヴィンセントの部屋の近くだよ」

 キッチン……

 そうだ、まずい!

 眠りの深いお子様系の兄さんはすぐに起き出してはこないだろう。ロッズと同じだ。となると、真っ先に駆けつけるのはヴィンセント……

「……よし、カダ、行くぞ! だが、俺の後ろから出るな。いいな?」

「わかってる、ヤズー」

 きちんと頷いた弟を後に従え、俺はベルベットナイトメアを片手にキッチンへ向かった。

 

 俺たちの部屋は母屋から続く離れにある。もちろん普通の民家だから別棟とはいっても、大げさなものではない。キッチンと居間はつながっているから、結果的に居間に向かうことになる。

 仮に本当に物取りなどであったとしたら、捜し物の場所として居間は最適だろう。

 だが、ただの物取りならば、可能な限り住人に気づかぬよう事を成し遂げたいはずだ。見つかれば当然通報される。

 それにも関わらず銃を撃ったというのは……まさか、うちの人間と出くわして、とっさに引き金を引いたとか……? ああ、いや、まだ破裂音を聞いただけで銃声とは断定できない。

 俺はつい先頃目にした新聞の記事を思い出していた。

『奇態な風体の兵士』

 DGなのか……? 連中がふたたびこの家をかぎつけて……?

 いや、それにしてはネロらしくもないやりかただ。こんな強盗まがいの襲撃は。だいたいヴィンセント本人を負傷させる可能性だってあるだろう。

「ヤズー、大丈夫?」

 カダージュの不安そうな声音で、つまらない想像を振り払った。

「ああ、すまない。よけいなことを考えている場合じゃないな」

 俺たちは急ぎ足で居間に向かった。もちろん足音を立てずに。

 ドアの取っ手に指を掛け、飛び込むタイミングを見計らう。

 

 だが、そのとき、ドアの中からかすれた声が、俺たちを呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ……ダ、ダメダ……ッ! ヒュ……ハ、ハイッテくるな……ヒュウ」

 ヴィンセントだ。

 だが、どうしたというんだ、声がヘンだ。時折、引きつったような呼吸音が言葉に混じるのも不安を掻き立てた。

「ヴィンセント!? ヴィンセントでしょう? どうしたっていうのッ?」

「ゲホッ!ゴホッ! ダメ……だ。まだ……」

 ひどく苦しそうな咳をしている。おまけにほとんど言葉が聞き取れないくらい、声がくぐもっている……

 

 ガララッ! ガラッ! バンッ! バンッ!

 

 乱暴な擦過音は、窓やドアを開け放しているのだろう。

 

(有毒ガス……!?)

 すぐに考えたのはそれだった。だが、いったいにどこから?

 部屋の外から投げ込まれでもしたのだろうか? 戸締まりはしっかりしているはずなのに……

「ヤ、ヤズー、ヴィンセント、どうしちゃったんだろう? 声、おかしかったけど、ヴィンセントだよね」

「あ、ああ。カダ、離れてろ。タオルで口ふさいでな。いいな、入ってきてはダメだ」

 俺は噛んで含めるように言い聞かせ、ローブの襟元で口を押さえた。

 慎重にドアを開け、中の様子を確認する。

「……ッ!」

 目に鋭い刺激を感じ、思わず腕で顔面をかばう。タオル地の腕の部分に涙が染み込んでゆく。窓を開けて、風通しをよくしてもこの刺激なのだ。ヴィンセントが来たときにはいったいどれほど……

 俺は口元にローブの布地を当てたまま、ヴィンセントの姿を探した。室内は黄色っぽいモヤに覆われ、まるで硫黄のような嫌なにおいがした。

 

「ヴィンセント……? どこ?」

 目が痛くて開けていられない。俺は声を絞り出したが、喉にも不快な刺激を感じ、思わず咳き込んでしまった。

「ゲホッ…… ゴホッ! 痛ッ……」

「チッ…… なんだ、こいつァ!」

「ゲホッ! セ、セフィロス? いるの?」

 俺は嫌と言うほど聞き慣れた悪態を耳にした。

「イロケムシか。なんだ、これは、何があったんだ? つッ…… 喉が……」

「ゲホッ……む、無理にしゃべらないほうがいいみたい。だいぶ、薄まってきたけど」

「おい、ヴィンセントはどこだ? 部屋にいなかったぞ! クラウドのクソガキは死んだように寝こけていたが……」

 ……呆れた。

 この人、わざわざヴィンセントの部屋まで確認しに行ったの?

 案外、ストレートな部分もあるんだよねェ。

「ヴィンセントはここにいるはずだよ。俺が居間に入ろうとしたら、ダメだって止めてくれた」

「チッ……案の定、一番の役立たずが最初に駆けつけのか!」

 そういいながらも、セフィロスはソファのラグを引きはがし、乱暴に扇いでガスを外に追い出した。

「ちょっと、そんな言い方はないでしょ。ヴィンセント、居ないな…… そんなはずないんだけど……」

「おい、おまえがこっちをやれ!」

 苛立たしげにそう言って、俺にラグを押しつけると、彼は足早に室内を歩き回った。目が痛くてよく見えないだろうに…… ずいぶんと慌ただしく。

「おい、ヴィンセント! どこだッ!」

「セフィロス、ガラスの破片が散ってるから気をつけて!」

「わかってる!おい、ヴィンセント! ヴィンセントッ! ヴィ……」

 ダッとセフィロスが走った。

「ど、どうしたの? 彼、居た?」

 庭の方に張り出したサンルームのほうだ。俺も急いで後を追った。

「おい、ヴィンセントッ! ヴィンセント、しっかりしろ!」

 サンルームのガラス戸を開けたところで力尽きたのだろう。ヴィンセントはその場所に蹲るような体勢で倒れていた。