〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 セフィロスはそのまま彼を抱き上げると、テラスから庭に出た。室内の汚染を考えるとその方がよいと判断したのだろう。

「ヴィンセント! ヴィンセント、おい!」

「……無理だよ、セフィロス。意識を失ってる」

「チッ……ったく、厄介なことだな」

 セフィロスは舌打ちするが、ヴィンセントに状態に苛立ってのことではないのだろう。彼をこんな目に遭わせたものが、いったい何なのか、俺達にはまだ何もわかっていなかったのだから。

「……セフィロス……DGかな……?」

「わからん」

 彼は短く答えた。

「……あまり、あの黒髪の男がやりそうなことだとは思えんがな」

 セフィロスは独り言のようにつぶやいた。俺が考えたのと同じように感じ取ったらしい。

 そう、このやり口は『ネロらしくはない』のだ。

「ゲホッ……ゴホッ……」

 ヴィンセントが身をよじって苦しげな咳をした。

「ヴィンセント! 気がついたの? ヴィンセント!?」

 だが、ヴィンセントは返事をしてくれない。白い肌にうっすらと苦痛の汗が浮かんでいる。

「ゲホッ……はぁ……はぁ……」

 ヴィンセントは、ひどく苦しげに咳を繰り返すと、子猫がするように身体を丸めた。

「イロケムシ! 上に掛ける物を何か持ってこい! それからクラウドをここに呼べ!」

 寒さで震えているのか、小刻みに蠕動する細い身体をしっかりと抱き込み、セフィロスが怒鳴った。ほとんど血の気のなくなった頬を撫でても反応はない。

「わかった。ちょっと待ってて!」

 すぐさま中にとって返す。

 陽が昇る直前の時刻……昼間の暑さと比べ、これくらいの時間はかなり冷え込むのだ。

 俺はまずヴィンセントのために毛布を都合し、側にいたカダに頼んでセフィロスのところへ持っていかせた。俺はそのまま兄さんを呼びに彼の部屋へ乱入した。

 相変わらず散らかったままの部屋で、彼は憎たらしいほど平和に眠り込んでいる。

 

「兄さん、起きて! あの音でよく寝てられるね!」

「うう〜…… なんだよ、ヤズー…… まだそんな時間じゃ……」

「一大事なんだよ。ヴィンセントが危ない!」

 彼の目を覚ますために、いささか強烈な言い回しをした。それは功を奏したらしく、寝ぼけ眼の兄さんがガバリと起き上がったのだ。

「な、なんだよ、脅かさないでよ、ヤズー!」

「本当なんだってば! 居間で何かが爆発したらしいんだよ。俺は銃声かと思って慌てて行ったんだけど、そうじゃないんだ」

「そ、それで、どうしてヴィンセントが……」

 兄さんはTシャツ短パンのまま、俺の後に続いた。

「爆発物は薬品だったらしいんだよ。硫黄みたいな刺激臭があって……」

「薬品……?」

 兄さんがつぶやき、俺たちは同時に、

「あっ!」

 と叫んだ。

 どうして気づかなかったんだろう!? 昨晩、爆発物だの、今回は薬品らしいだのという話をしたばかりではないか!

「ま、まさか……昨日、俺が持ってきた……」

 サッと兄さんが青ざめる。

「わからないよ。確認していないんだから」

「で、でも……」

「……もし、本当に兄さんの預かり物だったとしたら…… WROの研究所からなんだから純然たる事故ということなんだろうね。だからって許されるわけじゃないけど」

「…………」

「待って。少なくとも兄さんに責任はないよ。危険を聞かされていたわけじゃないんだし、ただ頼まれただけなんだから」

 別に彼のせいではないけど、そんな風に言ってやっても気休めにしかならないだろう。

「ヤズー……」

「さ、今はどうこう言っている場合じゃないよ。こっち、テラスのほうから回って!」

 未だに刺激臭のする居間を避け、俺たちはセフィロスが待つ庭へ出た。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、兄さん来たよ!」

 彼と一緒にいたカダージュが声を上げた。

「ヴィ、ヴィンセントッ!! な、何なんだよ、これ…… いったい……」

「落ち着け、クラウド。おい、ヴィンセントを支えてろ」

 セフィロスは腕の中のヴィンセントを兄さんに任せた。きっちり毛布を巻き付けてあるのは、ヴィンセントの身体を思いやってのことだろう。

「セ、セフィ…… ねぇ、どうなっちゃったの? ヴィンセント、どうしてこんな……」

「話は後だ。イロケムシ、何時だ?」

 セフィロスは地平線に顔を出した太陽を見ながらそう訊ねてきた。

「え、ええと……午前五時をちょっと回ったところ。もう陽が登ってきてるね」

「ちっと早いが仕方がない。オレはあの医者を呼びに行ってくる。ここは任せるぞ」

 そういうと返事を聞くのももどかしげに立ち上がった。『あの医者』とはおなじみ山田医師のことだろう。彼にはたびたび我が家の窮地を救ってもらっている。

「叩き起こして連れてくる」

「わかった。ヴィンセントのことは任せて」

 俺は頷いた。兄さんは泣き出しそうな表情でヴィンセントを抱きかかえている。

「さっき、少しだけ目を開けたんだ。気持ちが悪いと言っていた」

「そう……可哀想に」

「この程度で済めばいいんだが。できりゃ吐かせたほうがいいかも知れんな」

 セフィロスの言葉に、俺は真っ青になって震えているヴィンセントを見つめた。痙攣の症状などが出たら相当危険だと思う。なんせどんな薬物かもわからないのだから。

「いいか、ガキどもには居間に近寄らせるな。イロケムシ、てめぇも多少吸い込んでるだろ」

「俺は大丈夫。なんともないよ」

「うがいくらいはしておけ。ではな」

 めずらしくも心遣いのあるセリフを残し、彼はすぐに車で出て行った。