〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「オルァァ! ふざけんなッ、リーブ! テメェ、マジでぶっ殺すぞ!」

 電話の相手はさぞかし耳が痛いことだろう。だが、兄さんに憤りも十分に理解できる。

 ヴィンセントが兄さんの激昂を、つらそうな面持ちで聞いていたので、カダージュに彼を部屋まで送っていくように頼んだ。喉に巻いた白い包帯が痛々しい。

 

 ……例の爆発事件から二日後。

 結局、あの爆発は、兄さんがWROから預かってきた試薬品が、なんらかのトラブルで暴発したものであった。

 ご存じのように、あれほどの刺激臭、そして目と喉の痛みだ。多少吸い込んだだけの俺でも、昨日は気分が優れなかった。

「……ああん? ただフツーに置いておいただけだよッ! 大事なものだって言うからわざわざバイクから部屋に移して。ヴィンセントなんて昨日一日中つらそうだったんだぞ!? まだ全然声も出ない!」

 怒濤のような兄さんの怒鳴り声に、セフィロスは黙ったまま、電話のオープンボタンを押した。相手側の言い分を聞きたかったのだろう。

『……予想外の事態だったんですよ、クラウドさん。ホンマ、スンマセ……あ、いや、失敬。本当に申し訳ないと思っています』

「だいたいアレ、あの薬!いったい何に使うつもりだったんだよッ! てめーら、世界再生機構じゃねーの!? あんな物騒な物……」

『……依頼といいますか……神羅カンパニーとの共同戦線を……』

「なぁにぃぃぃ!? なんなの、アンタら! クソ神羅の連中にシッポ振ってんのかよッ!」

「ちょっ……兄さん、うるさい。向こうの言い分も聞かなきゃ」

 俺は傍らで突っ立って話している彼に声を掛けた。

「ヴィンセントの治療薬をもらうのが目的なんだからね」

「わ、わかってるよ、ヤズー。でもむかつくんだもん!」

 短い間に俺たちは言葉を交わした。

 

『クラウドさん?』

「あー、もう、いい。超ウザイし。俺には関係ないし。とにかくヴィンセントの薬、早く送ってくれよ。何なら俺が取りに行く」

 兄さんはあっさりと事の顛末を聞くのをやめた。怒りが心頭に発しているときには、色々問いただしたくなるものだが、なにより重要なのはヴィンセントの治療なのだと思い出したのだろう。

『そ、それが……その…… ええと、怒りません? 話聞いていただけますか?』

「なんだよ、ウザイって言ってんだろ。アンタの話なんざどうでもいい。早く薬よこしてくれ」

 かつての仲間への言葉とは思えないほど、冷ややかに兄さんが言った。ことヴィンセントに関わるとなると、この人の人間性は豹変するのだ。

『……神羅の研究部との共同開発だったんです』

 電話の相手は恐る恐るといった様子で切り出した。

「へー、そうなの。ずいぶん仲良くなったじゃん。まぁ、俺的には心の底からどうでもいいけど」

『確かに過去、神羅が犯した過ちは大きかった。非難されても致し方がないと思います』

 つらそうな声音。

 リーブという男はヴィンセントの話通り、根っからのまじめな人間なのかもしれない。……クラブでの醜態を思い出さない限りは。

『ですが、今の神羅は昔とは異なります。孤児や貧民の居住区域を確保したり、食糧支援や教育費の支援まで…… 被災地域にとって、神羅カンパニーは、現在無くてはならない存在です』

「……そりゃ、ただの罪滅ぼしだろ」

『確かにそうかもしれません。ですが罪を直視し、それを贖おうとしている。……だから我々も神羅カンパニーと手を結んだのです』

「あのさァ、さっきから言ってんじゃん。どうでもいいんだよ、アンタらの都合は。それで人が救われるっていうんならいいんじゃないの?協力しようと何だろうと。俺が言いたいのは、ヴィンセントの薬を早くよこせってことだけ」

 ツケツケと兄さんが言った。

 

 

 

 

 

 

 WRO……『世界再生機構』。

 良い名だと思うが、それだけで活動できるものではない。モンスターや外敵から人々を守り、家を失った人たちを救済し、がれきの山を整備する……

 当然金がかかるだろう。そもそも『世界再生』とは、メンバーの手弁当で出来るほど簡単なことではないはずだ。そう考えれば巨大な資本を有する神羅の存在は魅力的だろう。

 かつての過ちを認め、困窮した人々のために尽力している現在の神羅カンパニーならば、彼らの助力を受け入れてはいけないという通りはない。

 もちろん兄さんのように、元カンパニーで不本意な思いをさせられた人たちにとっては、納得いかないことであろうが。

 

「……それで? 薬、いつ届けてくれんの? アンタの手元にあるなら今から取りに行くから」

『申し訳ない、クラウドさん。私は治療薬を持っていないのです。……いえ、正確には神羅カンパニー側で開発中なんです』

「開発中!? こうなったら試薬でも何でもいいから、すぐ受け取ってこいよ! 毒味はアンタにしてもらうから!」

 

「……兄さん、落ち着いて。大きな声を出すとヴィンセントに聞こえちゃうよ」

 相手が黙っている間に、俺はそう耳打ちした。

「わかってるよ。……でも、さっきからグズグズして……とにかく早く薬が欲しいんだよ」

 

『ヴィンセントさんの様子はいかがですか?』

「…………っ、そんなこと……」

「兄さん。彼は敵じゃないんだから」

 傍らから声を掛ける。彼は不本意そうに頷いて言葉を続けた。

「ヴィンセントの具合? ……悪いよ、いいわけないだろ」

『……! まさか、起き上がることもできないとか』

「そういう意味じゃないよ。二日経ってるし、とりあえず普通に生活してる。でも、全然しゃべれないよ。医者に診てもらったけど、声帯が傷ついているわけでもない。気休めに喉に湿布しているけど…… あの薬のせいなんだろッ!?」

『……そうですか。あの薬はDGソルジャー向けに開発した劇薬です。DGの存在は表だって公表するわけにはいかない。せっかく信頼を取り戻している神羅カンパニーへの不信が再び人々の頭によみがえってしまう』

「それだけのことをしてきたんだろうが!DGソルジャーだって神羅の被害者だ!」

 兄さんは叩きつけるようにそう叫んだ。

 セフィロスは黙したままふたりのやり取りに耳を傾けていた。