〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

『……おまえの家に皆いるのだろう?』

 ルーファウス社長はそう言った。

「え…… なにそれ?」

『コスタ・デル・ソルのおまえの別荘だ。意外な珍客がいるのだと聞いている』

「なんだよ……それ、何の話?」

『隠す必要はなかろう、元ソルジャー・クラウド。なにも咎めているわけではないのだ。……カダージュ、ロッズ、そしてヤズーと言ったか』

「…………」

「『あの思念体の青年たちのことだ。おまえを「兄さん」と呼んでいたな』

 兄さんはポーカーフェイスが苦手だ。もちろん、電話でも動揺を隠すことは難しかった。

 俺とセフィロスはすぐに目線を交差させる。

「な、何言ってるんだよ。あのとき、俺はリユニオンした連中を……み、みんな倒して……」

『隠す必要はないといったはずだ。とがめる権利も、そのつもりもまったく私にはないのだから』

「…………」

『そして、セフィロスも……彼もそこにいるのだろう?』

 名指しで呼ばれた彼は、さきほどまで気味の悪いほどの沈黙を守っていたが、ニタリと笑った。……この状況で、だ。

「そ、そんな……何なんだよ、いきなり!い、いないよ、誰も! 俺はヴィンセントとふたりで……」

 尚も否定を繰り返そうとした兄さんに、セフィロスが低くささやきかけた。

「無駄だ、クソガキ。連中は腐っても神羅だ。奴らの情報網ならば、いずれ知られるだろうとは思っていた」

「そ、そんな……セフィ」

「どうやら奴らに敵意はなさそうだ。一応、ルーファウスの申し出を聞くだけ聞いてやれ」

「で、でも……」

「ヴィンセントの薬の所有権はルーファウスにあるのだろう。まずはそいつを手に入れなければな」

 俺はちらりとセフィロスの顔を見た。気がついているくせに、今度は目線を合わせない。彼がヴィンセントの容態を気遣っているのは、俺には一目瞭然なのだが、そう思われるのはそれほどに不快なのだろうか。

「ルーファウス。さっきも言ったとおり、とにかく一日でも早くヴィンセントの薬が必要なんだ」

『そうだろう。彼は私の従兄弟の救出にも協力してもらった。研究段階の貴重な薬だが差し上げるのに不満はない』

「……その言葉、嘘じゃないだろうな」

『私だとて人の心は持っているのだ。当然感謝の念もな、元ソルジャー・クラウド』

「…………」

『だが、どうしても今回の一件にはおまえたちの助けが必要なのだ。こんな引き替え条件を出すのは正直気が引ける。だが、そうせざるを得ない気持ちを、汲んではもらえないだろうか』

 兄さんは、セフィロスの顔を見た。セフィロスがそれに軽く頷く。

「……いいよ、言ってみろよ」

『電話で説明するのは時間がかかる。そしてこんな重要な用件は直接会って頼みたい』

「どうしろっての?」

『皆でミッドガルの神羅カンパニーへ来てはもらえないだろうか?』

「ハァ? なんだよ、それ! ふざけんな、俺には仕事だってあるんだぞ!?」

『……ああ、そうだったな。もちろん、休業補填はする』

「ね、猫だっているし」

『ほぅ、猫? 飼い猫なら連れてくれば良かろう。その子のために部屋を用意しよう』

「…………」

 いきなり来いと言われるとは思わなかったんだろう。兄さんは迷うように目線をさまよわせた。

「……クラウド、代われ」

「え? セ、セフィ? で、でも……」

「大丈夫だ。……ルーファウスの言葉に嘘はなさそうだ。オレを殺すつもりなら、わざわざこんな面倒なやりとりをすることはない」

「そうだね、セフィロスのいうとおりだと思うよ」

 俺もそう言葉を添えた。

 兄さんはまだ不安そうだったが、ひとつ頷くと受話器をセフィロスに渡した。

 

 

 

 

 

 

「……よぉ、坊ちゃん。元気そうだな」

 余裕綽々のからかい声。この人はどんな状況でもこんな調子だ。

『…………ッ!!』

「どうした? なつかしさで口がきけなくなったか?」

『セフィロス…… セフィロスなのか?』

「オレがこの家にいるのは知ってたんだろ。そんなに驚く必要はないと思うが?」

『……ああ、そう……そうだな。久方ぶりだ、セフィロス』

 ルーファウス神羅はゆっくりと息を吐き出しつつそう言った。電話越しの声であるが、溢れ出る感情を必死に押し殺しているような……そんな印象を受けた。

「……で? 何を頼みたいって?」

『その前に……君には色々と謝罪しなければならないことがある』

「…………」

『私はDGソルジャーや、S計画についてはまったく知らなかったのだが……それは……』

「今はそんな話をしているわけではないだろ」

『だ、だが、私は……』

 尚も言いつのろうとしたルーファウスの言葉を遮り、セフィロスは続けた。

「……おまえらのところの薬物で負傷した男がいる」

『……あ、ああ……元ソルジャー・クラウドに聞いた」

「そいつにはオレも世話になっているんだ。すみやかに治療を施したい。……引き替え条件があるなら早く言え」

 セフィロスは非常にクールな口調でそう言った。ルーファウス相手に押し問答しても無意味と考えてのことだろう。

 ヴィンセントの負傷という点においては、兄さんと同じくらい怒りを感じているはずの人なのだが。

『ありがとう、セフィロス。さきほども話したのだが、ミッドガルの指定の場所へ来てはもらえないだろうか。ある程度の人手が欲しいのだ』

「そいつは……」

『ああ、もちろん、君たちに不自由をさせるつもりはない。人目に付かず、かつ心地よく過ごせる設備を整えた場所だ』

「……よし、いいだろう。だが、クラウドのガキには仕事がある。こいつとヴィンセントは残していきたいのだが」

『セフィロス。今回の一件には、どうしても元ソルジャー・クラウドの協力が必要なのだ』

 兄さんは電話の側で怪訝そうに眉を顰めた。DGソルジャーの襲撃だの、テロリスト確保などという話なら、最強のセフィロスが適任のはずだ。なんといっても最強のソルジャーだったのだから。

「クラウドが必要? あのガキがか?」

『戦闘能力云々という話ではない。クラウド・ストライフにしかできない仕事があるのだ』

「なにやらよくわからんが…… つまり、この家の皆で揃って来いというわけだな。その上で詳細を話すと……」

『勝手なことを言っていると思う。だが、是非にもそうしてもらいたい。……最後のチャンスでもあるのだ』

 ルーファウス神羅は、一言一言、静かな力を込めてそう請うた。

「……最後の? よくわからんが……まぁ、いいだろう。最上級の待遇でもてなせよ。すぐにヘリをよこせ」

『今日の午後三時ちょうど、君たちの家に迎えをよこそう。ありがとう、セフィロス。心から感謝する』

 セフィロスは相手が感謝の言葉を口にしている間に、さっさと電話を切ってしまった。