〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 レノ
 

 

 

ヴィンセントさんと、ふたりで部屋に取り残されるオレ。

 こんなときこそ、彼の気持ちを軽くさせるための話題を……と思うのだが、いざとなると、上手く口がまわらないものなのだ。

 すると、ヴィンセントさんがメモ帳に……

 ああ、メモ帳は、彼の筆談のために用意してあるのだ。その紙っきれに、彼がペンを走らせた。

『ストパとは何だろうか?』

 やや神経質に細い、右上がりの文字。目がかすんでよく見えないとのことだが、メモ帳を側に引きよせ、書き込む分にはそれほど問題はないのだろう。

 ……しかし、訊ねて来る内容が可笑しい。

「ああ、ストレート・パーマのことッスよ。ヤツの髪、すんごいくせっ毛みたいっスからね。とりあえず、真っ直ぐになるパーマをかけちゃおうってこと」

 ヴィンセントさんが、それにああという面持ちで頷く。

 ……会話がとぎれる。

 そりゃ当然だ。二人いるうち、もうひとりは、しゃべることができないのだから。

「あ、えーと、その…… あんまししゃべるとアレか……」

 ぶつぶつと独り言をいうオレに、ヴィンセントさんがメモを見せた。

 きっとオレの姿はよく見えていないのだろう。テーブルの上に静かに差し出したようなカンジだ。

『どうか私に気を遣わずに。どこにも行くつもりはないので、君の用事を果たしてくれたまえ』

 メモ帳に書くには丁寧な文面だ。

「あー、いや、オレは、今、特に仕事ってないんでスよ。一応、クラウドの変身担当だったし。自分から仕事、見つけるほど真面目じゃねーし。……っと、スンマセン」

 最後のスンマセンは、元タークスの先輩への謝罪のつもりだった。

 だが、彼はわずかに微笑んだだけだった。

「えーと、その、あの……」

 オレは阿呆のように、言葉を探した。いろいろと言いたかったことがある。イリーナではないが、オレも彼には、きっちりと感謝の念を伝えておきたかったのだ。 

 だが、下手な物言いをしては、しゃべることのできない彼の負担になるだろう。頷く程度で済ませる言い方を考えなければ……

 ……とは思いながらも、結局オレはストレートに謝意を伝えることしかできなかった。

「あの……ヴィンセントさん。社長の赤ん坊の件では…… あり? これだと、社長がガキ持ちみたいだぞ、と。あ〜、アレ、いとこの赤ん坊の件だ。そう、その子のことでは、本当に世話になりましたっス」

 行きつ戻りつなオレの言葉を、ヴィンセントさんは辛抱強く聞いていた。

「あー、今、あの子は、ルーファウス社長の私邸でちゃんと育てられています。……あ、あの、元気ですよ、うるさいほど」

 そういうと、彼はうれしそうに頷いた。

「あの、ヴィンセントさん、タークスにいたって聞いたんスけど……」

 そこまでいいかけると、彼は困惑したふうに眉を顰めた。だが、無神経なオレはまったく彼の抱えた事情に思いを馳せなかった。

 ルーファウス社長からオレたちだけが事情を聞かされていたにもかかわらずだ。

 そう考えると、オレもクラウドのことを責められるほど、細やかな神経を持ち合わせているとは言えそうもなかった。

「ヴィンセントさんは、あんまし、タークスってイメージじゃないっすね。」

「…………」

「ご存じのように現在のタークスは海千山千のツラの皮の厚い問題児ばかりっスよ。おまけに何でも屋ですしねェ。ああ、こういうとイリーナが怒るんだよなぁ」

「…………」

「ツォンさんもね。ああみえて、けっこう性格キツイっすから。頑固だし。昔はよくセフィロスとぶつかってましたよ、裏でね」

 そういうと、ヴィンセントさんが顔を上げてこちらを見た。話に興味を抱いてくれた様子だった。

 彼のかすんだ瞳では、残念ながらきちんとオレと目が合うことはなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

「おい、いるのか? 入るぞ」

 不意にクソ偉そうな声が飛んでくると、ノックもせずにドアが開いた。

 椅子に掛けていたヴィンセントさんは、ハッとした様子で顔を上げた。目はよく見えていないはずなのだが、扉の方に注意を向ける。

 チビ黒のヴィン猫ちゃんが、「にゅんにゅん!」と賑やかに鳴いた。

「ああ、チビ、居たのか」

 そういって、飛びついてきた子猫を抱き留めるセフィロス。そう、この男は思いの外、小動物好きなのだ。子供の頃のクラウドにかまっていたのも、あいつがチョコボのヒナみたいなカンジだったからじゃないかと、オレは踏んでいるのだった。

「よぉ、赤毛。なんだ、ヴィンセントとツーショットか?」

 意味深な物言いをしつつ、ヘラヘラ皮肉な笑みを浮かべるセフィロス。コイツ本当に変わってない。

「アンタな、セフィロス。朝飯の後姿消して……いったい今まで、どこほっつき歩いてたんだよ、と」

「別にいいだろ。DGソルジャーが攻めてきたら、せいぜい応戦してやるさ」

 あくまでも上から目線の男だ。だが、こいつにはその実力がある。神羅のトップソルジャーだったのは伊達ではないのだ。

 セフィロスはそれなりに広い部屋を軽く眺めると、口を開いた。

 

「他の連中はどうした。ああ、銀髪共はいい。街のショッピングセンターで会った。……ルーファウスのカードですげー買い物してたみたいだぞ」

「チッ……とんだ野郎共だぞ、と」

「ま、適当に流しとけ。服だの菓子だのでおとなしくしてくれているなら、おまえらにとっても安心だと思うぞ」

 へいへい、そうですな!と。どうせ、アンタの思念体には、オレなんざ到底かないませんぜ。……真っ正面からブツかればな。

「………………」

 俺たちのやりとりに困惑しているのだろう。遠慮深いこの人のことだ。きっと奴らの好き勝手な様子を申し訳なく感じているようだった。

「ああ、いいんスよ、ヴィンセントさん。その辺必要経費なんで。アンタもなんか欲しいものがあったら言ってください。食い物でも何でも、オレ調達してくるッス」

「ほぅほぅ、もうヴィンセントになついたのか、赤毛」

「レノだっつーの。いいかげん、覚えろよ、と」

「まぁ、こいつは我が家の中では無害だからな」

「そんな言い方よせよ、と。ヴィンセントさんがこっちに気遣ってくれているから、当然オレらとしても、自然にこういう応対になるんだぞ、と。最初から不躾なアンタらとは違うんだぞ、と」

「フフン、まぁ、好きにしろ。だが、必要以上になれなれしくするなよ。クラウドのクソガキがうるさいからな」

 そう言ってから、クソ偉そうな英雄は、ヴィンセントさんに注意を向けた。

 セフィロスが入ってきてから、彼はずっと突っ立ったままだ。視界が効かないせいか、椅子につかまっていてオレも気になっていた。

「おい、ヴィンセント。座ってろ。危ねェだろ」

「…………」

 肩に手を置かれて、彼は素直に着席した。椅子の側で立ち上がっただけだったから、そのまま腰を下ろした寸法だ。

 そして、慌ててメモ帳に、

『ありがとう』

 と、書く。セフィロスの姿をきちんと認識したいのに、目が見えないのがもどかしいのだろう。視線をさまよわせている様は、なんだかひどく痛々しく感じた。

 ああ、それは多分……もちろん、ヴィンセントさん自身が必死に見ようとしているのは当然のことだが…… ふたりの対照的なありさまが原因なのかもしれない。

 セフィロスは言わずともしれた神羅の英雄だ。2メートル近い長身に、しっかりとした均整のとれた身体。しなやかで強靱な筋肉が全身を覆っているのが、服の上からもよくわかる。

 一方ヴィンセントさんだ。彼は上背はそれなりにあるものの、気の毒なくらいの細身だ。華奢といってしまってもいいだろう。

 彼のために用意したシャツも、身幅はブカブカで大分余裕がある。長袖の袖口からのぞいた手首は、白く骨張っていて、指もすごく細くて長い。

 セフィロスは、上手く視点の定まらないヴィンセントさんに向かって声を掛けた。

「具合はどうだ? 気分は悪くはないのか? ああ、いい。いちいち書く必要はない、鬱陶しい」

 不躾なほど、面倒くさげな物言い。

 ……そのわりには、けっこう彼のことを気にしているようだ。無神経の権化のようなこの男は、他人を気遣うことなどまず無い。

 だから、言い様はともかく、ずいぶんとめずらしいものを見せられたような気がした。