〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヤズー
 

 

 

「いやぁ、まぁ、アレ、いいお天気でよかったですなァ、アッハッハッ!」

 ……兄さん、不自然すぎ。お愛想笑いはいらないでしょ。……っつーか、ルーファウス社長はそんな風に笑わないと思うんだけど。

 まったく……後ろに控えている俺たちほうが、冷や汗をかきそうだ。

「……ミッドガルはずいぶんと都市整備が進んでいる様子だな、ルーファウス社長」

「ええ、いや、まぁ、お恥ずかしい! たいしたことァ、ありませんよ!コレ」

 兄さん……ヤマダー入ってる。どうしてよ……さんざん練習したじゃない。

「いや……順調に復興している様子で安心した……」

 静かな口調でつぶやいたのは、皇太子殿下であった。

 レオンハルト八世……なんだか、誰かさんの名前そっくりであったが、見た目も不思議なほど似通っていた。 

 もっとも、皇太子殿下には、レオンのような額の傷はなかったが。

 皇太子とは聞いていたが、俺はもっと年齢の行った人物かと思っていた。思いの外若く、どう見ても24、5の青年だろう。

 だが、実権はなくとも為政者の風格というのか……非常に落ち着きのある人物だった。それこそ、体格もレオンによく似ていて、兄さん……いや、『ルーファウス社長』より上背はずっとあるし、正装の下には鍛えられた筋肉が隠されていそうだった。

 

 高らかにファンファーレが鳴った。

 古式ゆかしい六頭引きの馬車は、わざわざこの日のためにルーファウス神羅が用意したらしい。

 ゆったりとしたペースでオープン馬車が走り出す。

 リーブ局長、兄さん……と、違った『ルーファウス神羅』。そして中央にレオン似の皇太子殿下が居られる。

 手はず通り、兄さんとヴィンセントを抜かした各人は、それぞれのシゴトをしていた。

 ああ、そうだ。

 ちなみに俺はこうして、御三方の背後に立っている。近衛兵の銀の衣装を身に纏い、頭にはご丁寧にかさ高帽までかぶっているのだ。

 軽くコスプレなんだが、個人的にはわりと気に入っていた。

 沿道には、これほどまでに人がいたのかというほど、老若男女が溢れている。もちろん、周囲のホテルも満室らしく、各室の窓は全開で、そこからもギャラリーがのぞいている始末なのだ。

 俺の乏しい知識では覚えすらなかったのだが、どうやら彼らが手にしているのは『国旗』のようなものらしい。

 

 ……よくよく考えてみれば、この状況で馬車の上の人たちを護るというのは、かなり難しいことだろう。

 

 

 

 

 

 

 馬車の上の三人は、人々の歓声に適宜応えるよう手を振っていた。

 ああ、さすがに殿下は様になっている。リーブ局長も悪くはない。

 ……兄さん、その『お客様は神様です』みたいな態度、なんとかして……(泣)

 

「……君、この後の予定はどうなっていたか……」

 ぼそりとした低い声は、皇太子殿下であった。

 きっと兄さん扮する『ルーファウス神羅』が頼りなさそうに見えたのだろう。警護でついていた俺に声を掛けてきたのだ。

「はい、帝国ホテルにて、ご会食、その後、庭園美術館をご案内した後、オペラハウスで観劇をお楽しみいただきます」

 俺はよどみなくそう答えた。

「……ああ、そう。そうだったな」

 軽く頷きながら、じっと俺の顔を見つめる。

 ……なんだろう。なにかしくじっただろうか?

「……君は、男性か。そうだな……背が高いな……衣装のせいだと思っていたのだが。ああ、失敬」

 独り言のように、ボソボソとつぶやくと、殿下はフイときびすを返し、ふたたび沿道の人々の歓声に応えるのであった。

 

 ……もう、驚かさないでよ!

 やれやれ、まったく『美人』って罪だよねェ……

 

 目的地のホテルへちょうど到着した時、耳に詰めていたイヤホンが鳴った。

「ハイ、こちらヤズー。一同はちょうどホテルへ到着したところだよ」

 先にこちらの情報を本部へ伝えた。

 もちろん、『本部』というのは、神羅本社の関係者の集う場所だ。今は、おそらくタークスの誰かと、本物のルーファウス社長が控えているはずだ。

 そこにはヴィンセントもいるはずだが、あまり事件そのものには関わって欲しくなかった。

 なぜなら、沿道パレード中にも、数件、DG他、テロリストとおぼしき連中の確保の報告がカダたちから入っているはずだから。

 ヴィンセントにとっては『DGソルジャー』という名を聞いただけでも、背筋が寒くなるのだろう。昨夜はあまり眠れていなかったようだし、心配なのだ。 

「ご苦労さんだぞ、と。とりあえずこちらは異常なしだ」

 イヤホンからの声は、ルーファウス社長じゃなくて、俺のお気に入りが返事をしてくれた。

「ああ、赤毛くん〜? なぁんだ、そっちに居るの? ヴィンセントは? 元気にしてるぅ?」

 ついつい軽口が出てしまう。

「『レノ』だぞ、と。ったくどいつもこいつも。ヴィンセントさんはちゃんと守っている。問題ないぞ、と」

「そうじゃなくて、具合悪くはしてないかってこと! 彼は繊細だからね」

「あー、そうだな。おまえらのことをひどく心配している様子ではあるぞ、と。気晴らしにオペラハウスには彼も同行するように奨めようとは思っている」

「ああ、それはいい考えなんじゃない? どうせ、警護で君たちも行くんだろうし。目立たない席でなら危険はないしね」

 俺もゆっくりした席で見学したいなぁと思いつつ、レノの話に賛同を示した。

 

 皇太子殿が、お帰りになるまで後24時間……

 長い一日になりそうだった。