〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 ルーファウス・神羅
 

 

 

 

 

『クラウド・ストライフ』

 

 私の目から見て……どうひいき目に見ても、あの子供はプア・チルドレン……なにも持たざる少年であった。

 地位も権力も金も……そう、軍人として重要な『力』さえも。

 

 小柄で小鳥のヒナのように弱々しくて。それにも関わらず『セフィロスのようなソルジャーになりたい!』と、端から見れば無意味な努力を積み重ねる子供だった。

 セフィロスやジェネシスにあこがれて、神羅の兵士部門に応募してくる少年は多い。

 クラウド・ストライフもその中のひとりで……他の少年たちがそうであるように、修習生の間や見習い兵の間に、大それた夢と現実の折り合いをつけるのだ。クラウドもまもなくそうなると思っていた。

 だが……あの金髪の子供を取り巻く環境は、恐ろしいほどに変わっていった。

 ……セフィロスに見出されてから。

 それも、優秀な兵士という意味合いではなく、恋愛の対象として。

 

 セフィロスの遊び好きは、周囲に居る人間なら誰でも知っていることだった。面倒くさがりの彼は、ほとんど玄人ばかりを相手にしていたようだ。

 『英雄、色を好む』

 その言葉を忠実に体現するように、彼は男でも女でも、気に入ったものは手当たり次第の遊び人であった。それを知っていたから……ただの暇つぶしの遊びだとわかっていたから、私は平静でいられたのだ。

 

 ……だから、セフィロスが、あの何の取り柄もない子供に執心したときには、ソルジャークラス1stの者たちばかりでなく、それこそ本社を挙げての大騒動になった。

 だが、セフィロスという男がああいう性格である。

 他者の思惑など歯牙にも掛けないので、そんな騒ぎもすぐに沈静化したのだが、私は到底心穏やかとは言い難かった。

 

 

 

 

 

 

 ああ、私はいったい何を回想しているのだろう。

 久々にセフィロスと会って、動揺しているのだろうか?

 もはや過去のものとなっていたはずの、憧憬と恋情が疼き出す。

 ジェネシスやアンジール、そしてザックスらは、セフィロスの恋愛騒動に、比較的寛容であった記憶があるのだが、私はどうしても納得がいかなかった。

 

『何の取り柄もない子供相手に……』

 寝ても覚めても、妬みと憎しみは去りはしなかった。 

 セフィロスがクラウド・ストライフをどれほど愛したとしても、あの子供のほうは、セフィロスへ何ひとつ返すことなどできないではないか。

 社会的地位もない、高貴な身分でもない、経済力があるわけでもない……それらすべてを持っているのは私のほうではないか!

 

 容姿……?

 おこがましいが、姿形においても、私自身、彼に引けをとっているとは思っていない。

 それは今も……だ。

 金の髪に深い海の色の瞳……そう、私たちの容姿は似通っている。

 

 私とクラウドは容姿こそ似ていたが、持っているものは天と地ほどに異なっていた。普通の人間にとって、どちらが側にいる方が魅力的か言わずもがなだと思う。

 方や、田舎町出身の修習生、私のほうは次期社長の地位も約束されている人間なのだから。

 だが、セフィロスはそんな私を不快に感じていたようだ。

 言葉こそ選んだつもりだったが、「なぜ、そんなつまらない子供を選ぶ!?」というような問いかけをしたことがあった。

 ……不躾な物言いを、若気の至りだと思ってもらえればありがたいが。

 

 セフィロスは、真剣そのものだった私に、いかにも可笑しそうに、くだらなさげに、

「オレは、おまえのそういうところが大嫌いだ」

 と吐き捨てた。

『おまえの持っているものは、おまえ自身の努力や実力で手に入れたものか? おまえの持ち物っつーのは、みんな他人からのおこぼれだろ』

 あざ笑うような物言いを残し、つい先刻まで同衾していた私を置き去りに、さっさと部屋を出て行ったのだ。

 あれから、数年…… 

 セフィロスはあまり変わったようには見えない。

 直接話をしていないから、なんともいえないが。

 だが少なくとも、クラウドと恋仲である様子はない。それくらいは見ればわかるものだ。

 唯一、セフィロスを見て意外に感じたのは、目の前のこの人物……

 ヴィンセント・ヴァレンタイン氏に対する態度であった。セフィロスのああいう物言いは、クラウドと一緒に居るときでも見たことがなかった。

 

『……おまえは、何も考える必要はない』

『ここで安静にしていろ。誰がおまえを守ってると思っているんだ、ヴィンセント?』

 

 クラウド相手のときには、一緒に前線に立ち、彼を守りながら闘っていた。

 だが、ヴィンセント・ヴァレンタインに対しては、ただひたすらに背後で守る姿勢を崩さない。

 もちろん、彼が負傷しているというのは大きな理由であろうが。

 

『敵と相対するな』

『絶対に何かしようとはするな』

 

 これらはまだ見習い兵のクラウド相手にさえ、取ったことのない態度だと思う。

 ヴィンセント・ヴァレンタイン氏は、かつてタークスの一員だったという。戦闘能力にかけては、クラウド以上と考えてもさしつかえないはずだ。特に見習い兵時代のクラウドならば、比較にならないだろう。

 ツォンがいうには、DGソルジャーとの間に因縁があるとのことだったが……

 セフィロスのあの対応はそれだけではないと感じる。

 まるで守らねばならない恋人に対するような……いや、そう言いきるのもおかしなものだ。ヴィンセント本人には、そういった態度はまったくないのだから。

 

 傍らのソファに腰掛けたヴィンセントを眺め見る。

 紅の双眸に、カラスの濡れ羽色と、小説のような形容ができそうな美しい黒髪。

 そして何より、その面差し。肌の白さも手伝ってのせいなのだろう。

 瞳と髪の色合いのコントラストが、美しく整った造形をいっそノーブルといえるほどに引き立てていて……

 また、上背はクラウド以上……いや、ずっと高く、あの三兄弟のヤズーくらいはありそうなのに、身幅は気の毒なほどに細い。

 ……だからなのだろうか。

 『ただの綺麗な人』に見えない。一種独特な雰囲気を持つ佳人なのだ。

 

 ヴィンセント・ヴァレンタインに訊ねてみようか……?

『君はセフィロスの恋人なのか?』

 と。

 

 ……いや、馬鹿な。

 ……彼からみれば、レノやルード以上に他人と考えられている私が、そんなことを訊ねてどうするのだ?

 だいたい、こんな状況でそんな私的な問いかけなど、軽蔑されて終わりだろう。

 ……まったく、バカバカしい。

 いつまでも過去の情念に引きずられているとは……我ながら情けなくなる。

 

 ……カタン……

 

 そのとき、意識もせずに小さな音が耳に付いた。

 さきほどまで、静かに座っていたヴィンセントが立ち上がったのだ。

「ヴィンセント・ヴァレンタイン? どうかされたか?」

 彼は応えなかった。それどころか、私に視線を寄越しもしなかった。

 よく見えていないはずの瞳を、まっすぐ扉のほうへ向けている。

「ヴィンセント……?」

 呼びかけた私の声を、片手で遮った。

「どう……?」

 さらに言葉を続けようとしたその瞬間、扉が開かれた。

 物音一つせず、ごく静かに……