〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<34>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ふふ、やれやれ、ヴィンセント・ヴァレンタイン。貴方は感情表現の慎ましやかな方ですが、思いはすぐに顔に表れますね」

「…………」

「戦える状態でないヴァイスの他に、ツヴィエートはもういない。ならば、この僕と対峙している自分以上に危機的状況に居る仲間はいないと……そうお考えでしょう?」

 挑発するようなネロの物言い。だが、私は努めて気持ちを冷静に保とうと努力した。

 今、この場にはルーファウス神羅がいる。ある意味、ネロたちにとっては、敵そのものと見なされても致し方ない立場の青年が…… 

「僕以外のツヴィエートがいないと……どうして貴方がたは決めつけるのですか?」

「…………?」

「僕は昨今一度でも、貴方がたに、『ハイ、これでツヴィエート全員です』とご紹介したことがありましたっけ?」

 ……何を言っているのだ、ネロは?

 ネロとヴァイス以外にも同等の能力を持つ者が他に居るとでも……? 彼らの中で、唯一改心してくれたシェルクも言っていたではないか。

 純白のヴァイス…… 漆黒のネロ……

 そして、蒼のアスールに、朱のロッソ。後者ふたりはすでに倒れたはずだ。

「……忘れましたか? 我らの側には宝条博士が居たのですよ。まぁ、もっとも、長く兄さんの身体をお貸しできるような輩ではありませんでしたがね」

 最後の言葉を吐き捨てるように、ネロは言った。

 ……宝条……

 私にとってはもはや二度と耳にしたくない名前だった。もちろん、自身に施された改造のこともあるが、どうしてもセフィロスの懊悩に思いやらずにはいられなくなる。

 彼にとって、宝条は父親になるのだ。どれほどあの男を彼が憎んだとて、事実は変えようがない。

 だから、もう二度と、我々の前で、その男の名を口にされたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

「……つらそうな面持ちですね。失敬、宝条のことを口にしたのが失敗でしたか」

 ネロは低くつぶやいた。彼も宝条のことを好ましくは思っていなかったのだろう。その物言いは、あながち虚言とは決めつけがたかった。

「ふ……ヤツのことはどうでもいいのです」

 つまらぬ話をしたとばかりに頭を振り、ネロは一歩私に近寄った。

「……ヴィンセント・ヴァレンタイン、どうか私と一緒に来てください。貴方さえ、素直になってくだされば、事半ばではありますが、皇太子殿始め、此度のイベントを邪魔しようとは思いません。もちろん、貴方の愛する方々へ向けた刺客も撤収させましょう」

「…………」

「カオスを宿す貴方は、我らの同胞。決して手荒なまねは致しません」

 そう……ネロは意味なく私を傷つけたりはしないだろう。それは最初からわかっていたことなのだ。

 彼の私に対する好意は本心らしい。これまで、何度か私自身の命を省みなければ、成し遂げられた事もあったはずだ。だが、ネロは私の肉体を傷つけるのは、最終手段と判じていた。

「……ヴィンセント、さぁ……」

 差し出されたその手を、私はじっと見つめた。

 

 ネロは、私の腹のエンシェントマテリアを、そのままヴァイスに使うのではなく、調査研究して、同様の効力を持つダミーを複製したいと言った。

 ならば……

 ならば、ネロの申し出を受け入れても、さしたる問題はないのではなかろうか?

 もちろん、首尾よくいってヴァイスが快復しても、二度とこの世界を襲うようなことはしないと、そういった約束は必ず結ばなければならない。ネロはその要求を呑むだろうか?

 ……ああいや、もしネロが是と言っても、そう容易に信用するわけにはいかない。我らだけではなく、この星に住まうすべての人々の命の保証なのだから……

 だが、この状況でネロの申し出を断ったら……?

 私はともかく、ルーファウス神羅と、おそらく他所で倒れている神羅の社員の命は、火を見るよりも明らかだ。

 セフィロス……

 セフィロス……!!

 ああ、私はどうすれば……!

 

「ヴィンセント、心は決まりましたか?」

 既知の友のように、穏やかな声音でネロが促した。