〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<35>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ダメだ!」

 そう叫んだのは、私ではなかった。もちろん、ネロでもなく……

 ルーファウス神羅は、勢いよく身を起こすと、サイドボード上に飾られた細剣を手にとった。そのまま、私をかばうように前に立つ。

「……ネロ! おまえの言うことは信用できない!」

 ルーファウスは叩きつけるようにそう叫んだ。

 ネロは鼻白んだように、ひょいと片方の眉を持ち上げた。

「……エンシェントマテリアについては、元ソルジャークラウドから話は聞いている。それが彼の体内に取り込まれ、その力を制御していることも……!」

「ああ、社長さんもそのあたりのことはご存じなのですね。ならば話が早い」

 からかうようなネロの物言いも気にせず、続けざまにルーファウスは叫んだ。

「貴様は、『彼に傷をつけない』だの『同様の効能をもつレプリカを作る』と簡単にいうが、果たしてそんなことが可能なのか!?」

「…………」

「だいたいマテリアというのは、自然発生的なものなのだ。人工マテリアの開発は、長年我が社で研究を重ねてきたが、それだとて、純度の高い天然のものには足下にも及ばない! エンシェントマテリアのような特殊なもののコピーなど、そう容易にできるものではないはずだ!」

「……貴方はまったくご自分の立場を理解できていないようですね、ルーファウス社長」

「目的のためには手段を選ばないのが貴様らだ! 無意味なテロで何人の人々が死んだと思っている……!」

「無意味なテロ……!? それは貴方側の理屈でしょう、ルーファウス神羅」

 ネロの声が尻上がりにきつくなった。

 まずい……!

 私はネロに気づかれぬよう、ルーファウスの袖を引いた。

「確かに、おまえたちの怒りは理解できる。神羅カンパニーに対して憤りを覚えるのも当然のことだろう。だからといって、それがそのまま罪無き者たちへの殺戮につながるというのは容認できない!」

 ルーファウスは私の手を振り切って語り続けた。

 我々はずっとミッドガルを離れていたから、知らなかっただけなのだろう。ミッドガルではDGソルジャーや、不安分子のテロなどで、罪無き人々が死の恐怖に脅かされていたのだ。

 新聞の紙面で知るのと、それを目の当たりにして何とか食い止めようとしてきた人間たちでは憎悪の気持ちはまるで違う。

「時は流れているのだ、ネロ……! おまえたちを生み出した先代の社長は死に、私が後を引き継いだ……! メテオ事件の災禍をくぐり抜け、人々はゆっくりと立ち直りつつある。私はすべての災悪の元凶となった神羅カンパニーの総帥として、これからは世界の再建に……」

 

 

 

 

 

 

 ガゥンガゥン!

 

  ルーファウスの言葉は、銃声によって遮断された。

「……ッ!!」

「……うるさいんですよ。貴方の説教など聞きたくはありませんね」

「……あ…… う……」

 右肩を押さえ、ルーファウスはその場に片膝をついた。見れば脇腹にも血がにじみ始めている。きっと二発目の銃弾がそこをかすめたのだろう。

「世界の再建? ほぅ、いい言葉ですねェ、うらやましい限りだ。君たちには希望に満ちあふれた未来があると……そう言いたいわけですね」

「ぐ……う…… そ、そうだ……!」

「実に一方的でうらやましい論理ですね」

「……ちがう……私は……これからの……」

 ルーファウスは尚も言葉を続けようとした。こればかりは譲れないというように。

「我々の同胞は、もはや『普通に生きていくこと』さえも、できそうにないんですよ? この命がいつ尽きるかもわかりませんし、できそこないのDGソルジャーなどは、戦闘能力ばかりで、白痴のような輩ばかりですから」

 そう……DGソルジャーは、クラウドら、普通のソルジャーの数十倍もの魔晄にさらされている。そのエネルギーに耐えきれず、精神に異常を来した者のほうが遙かに多いのだ。

 つまり、ネロらツヴィエートは、その過酷な状況に耐えうるだけの、体力と精神力を有していたと言える。

「……やれやれ。私は貴方とくだらないおしゃべりをしに来たのではないのですよ、ルーファウス神羅」

「……ヴィンセントは…… わ、渡さない……」

 ゼイゼイという荒い吐息の中、尚もルーファウスは繰り返した。

 

 ギィギィ……ギチギチ……

 不気味な音を立て、DGソルジャーがネロの背後を陣取ってゆく。まともな知能を有してはいないが、戦闘能力だけはズバ抜けた哀れな戦士たちだ。

「……わかりませんか、ルーファウス神羅。今、この場で貴方には何の権限もないし、限りなく無力な存在なのだと」

 チャッ

 ネロが再び銃を上げた。ごく自然な流れるよな所作で。私も腰のホルダーに忍ばせた拳銃を手に取った。

 

 ガゥンガゥン! ガゥンガゥン! ガゥンガゥン!

 

「ぐ……ッ!」

 ネロは呻いて銃を取り落とした。

 私はルーファウスを片手でかばいつつ、続けざまに連射した。

 敵の位置は正確に見とれない。だが、そんなことは現役時代に何度も経験しているのだ。おまけに、だだっ広いとはいえ、ここは室内なのだ。身を隠せる置物もあるし、敵との距離も野外よりは近い。

「ギィィィ!」

「ガギッ!」

 ネロの背後に陣取ったDGソルジャー5、6名ほどが、その場に頽れた。

「……さすが、ヴィンセント・ヴァレンタイン。視界も不確かだというのに、見事なものですね」

「……ヴィ……ヴィンセント……」

 ルーファウスをチェストの後ろ側に押し込み、私はネロと対峙した。廊下にはおそらく彼の部下のDGソルジャーが張り込んでいようが、少なくとも室内では一対一になった。

 だが、今の私ではネロにはかなうまい。ましてやルーファウス神羅の身柄を守ることを考えると……