〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<37>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 ジェネシスがネロを斬ってしまう……!

 とっさに私はジェネシスの腕にしがみついた。もちろん、それによってジェネシスが撃たれることのないよう、私の身体を盾にして。

「め、女神……!? なにを……!」

 私はジェネシスに向かって必死にかぶりを振った。

 ネロがいなくならないかぎり、私に迫る脅威はなくならない。それはわかっている。だが、頭では理解していたものの、ジェネシスに彼を殺して欲しくはなかったのだ。

「め、女神……」

 ジェネシスはひどく困惑した表情をした。まさか止められるとは考えなかったのだろう。

 それに私が動揺して泣いていたから。いや、意識はしていなかったが、いつの間にか頬がひどく濡れていたのだ。

「女神…… 放したまえ。君をこれ以上、彼らの脅威にさらすわけにはいかない!」

 ジェネシスは強い口調でそう言った。だが、私は泣きながら頭を振った。彼はネロに命を救われたことがあると話していた。その相手を自らの刃で斬り捨てるような真似はさせたくなかったのだ。

 

「ヴィンセント……! 頼むから……!」

 私を説得しようとしたジェネシスの、一瞬の隙をついたのだろう。

 その時、私の耳の後ろで、撃鉄が『チャッ』と鳴った音がした。

 瞬時に状況判断をしたジェネシスが、立ち位置を入れ替えるように身を躱して、私を抱き込んだ。

 床に転倒した痛みはまったく感じなかった。私の身体はジェネシスの上になっていたからだ。

 

 ガゥンガゥン!

 

 至近距離からの銃撃が、耳をつんざく。

 ジェネシスの一瞬の判断が遅れていれば、間違いなく私と彼は凶弾に倒れていたはずだった。

 だが、第二撃がある。

 ジェネシスが危ない。彼は私を守ることをやめはしないだろう。

 ……足手まといになってはいけない!

 

 尚も私の身体を庇おうとするジェネシスに逆らい、慌てて身を起こすと、そこには不思議な情景があった。

 

 銃弾は天井に飲み込まれ、ネロは床に伏して身をこわばらせていたのだ……

 

「……ったく、いつも言ってんだろ。詰めが甘めーんだよ、貴様は」

 そう言いながら部屋に入って来たのは、たぶん私が誰よりも待っていた人物だった。

 

 

 

 

 

 

「……ああ、セフィロス。助かったよ、ありがとう」

 素直に礼を言うのはジェネシスだ。セフィロスは彼に向かって「ケッ」と悪態を吐くと、

「ネロを見ておけよ。そいつにはまだ聞きたいことがある」

 と言った。それから、私の姿を確認すると、

「すまんな。遅れた」

 と声を掛けてくれた。

 それだけで……その一言……いや、彼が今、この場に来てくれたのだという、ただそのことだけで視界がぼやけてきた。……泣いている場合などではないのに。

 だがセフィロスは私の無事を確認すると、すぐさま反対側のチェストの影に倒れていたルーファウスのところにかがみこんだ。

 

 ああ、そうだ……!

 ルーファウスはネロの凶弾に倒れたのだった。なんとも失敬なことながら、あまりの状況の展開に、私は彼の存在を失念しかけていた。

 もっとも、ルーファウス自身も、ほとんど気を失いかけていたのだ。だが、それはこの場ではむしろよかったのではないかと思う。万一、彼はふたたび銃を手に取るようなことをしたら、間違いなくネロにとどめを刺されていたであろうから。

「……ルーファウス。おい、しっかりしろ、ルーファウス神羅」

 セフィロスは横倒しになっていた細い身体を抱きかかえた。

「…………」

 返事はない。だが、わずかに身じろぎする。やはり意識が飛びかけていたのだろう。

 セフィロスは彼を抱き起こしたまま、傷の具合を調べている様子であった。肩を押さえていた手を外させ、脇腹の出血を確認する。

「……セ……フィ……ロス?」

 かすれた声が彼の名を呼んだ。

「ああ、オレだ。……よくやったな、ルーファウス」

「…………」

 彼の端正な顔がくしゃりとゆがんだ。それは苦痛によるものではなく…… おそらくセフィロスが今こうして自分を抱きしめてくれていること……そして、『誉めてくれた』ことではなかろうか。

「ワガママぼっちゃんは、ずいぶんといい男に成長したらしい。……大丈夫だ、すぐに手当をさせる」

 セフィロスはそう言いながら、彼の乱れて額に張り付いた髪を、そっと撫でつける。ルーファウスが安心しきったように、目を細めたのが印象的であった。

 

 セフィロスはルーファウスを抱き上げると、ジェネシスと私の前を横切り、廊下に出ようとした。おそらくこのフロアに動ける社員はいなかろうが、他の階に行けば話は別だ。

 神羅には宝条のようなマッドサイエンティストではなく、良心的な医者がたくさんいるのだから。

 そう、セフィロスがルーファウスを抱いて、我々とネロの間を横切ったとき……その一瞬であった。

 ネロは引き裂かれた羽をバッと広げると、すでに銃弾によって風穴が開けられていた窓を破り、空に身を躍らせた。

 だれひとり声を上げることもできない、瞬時の出来事であった。

 

「……チッ、しまった……」

 と、低く舌打ちするセフィロス。

 ジェネシスはひどく冷ややかな眼差しで窓をじっと見つめていた。