〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<39>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 オレの携帯に、クラウドからの連絡が入ったのは、ちょうどジェネシスと落ち合った後であった。

 いや、何もヤツと待ち合わせをしていたわけではない。

 オレとジェネシスは、旧市街地から神羅本社へ向かう道程でバッタリと出くわしたのだ。

 もっとも、オレから見れば『バッタリ』であったが、ジェネシスがいうには『張っていた』とのことなので、偶然とはいえないのかもしれないが。

 俺と同様に、少年期からミッドガルで過ごしたジェネシスにとっちゃ、この辺りの地理は庭みたいなものだ。

 変態ストーカー詩人との悪夢のような邂逅はひどくオレをうんざりとさせた。

 しかもその直後……もちろん、ヤツと問答している最中に、これまた信じがたい内容の電話が入ったのである。

 電話はクラウドからであった。

 アホチョコボは、オレが電話に出ると同時に子犬のようにわめきだしたのだ。

 

『ヤズーがやられた! ヤバイよ、セフィ。マジヤバイ』 

 という頭の悪そうなセリフ。

「くわしく説明しろボケナス!」

 と怒鳴りつけてやると、要領は得ないものの、なんとか状況を把握することはできた。

 以前の事件で、死んだはずのツヴィエートが生き返ったのだという。いや、生き返ったというのはおかしい。正確には脳みそだけが本物で、不死身の肉体を得たツヴィエートということになる。

 そう考えれば、あのイロケムシがやられたのも道理であった。 

 ただでさえ、尋常ではない能力を持つDGソルジャー。ツヴィエートと呼ばれる連中は、そのトップに君臨する者どもである。

 そいつらが息切れもしない、体力も消耗しない、鋼の肉体を手に入れ、よみがえったとなれば、その存在は脅威になる。しかも連中の脳みそだけは、過去の敗北を刻み込んだ本物で、ヤズーに対する憎しみはいささかも薄れてはいないのだろう。

 イロケムシはWROの局長だの、皇太子だのを守りつつ奮戦したというのだからでかしたと誉められるべきだ。

 

『セフィ! カダたちが旧市街地の廃屋を調べてる。蒼のアスールがロッソと同じようによみがえっていれば、必ずカダとロッズが狙われる!』

 今にも泣き出しそうな声で、金髪チョコボが叫んだ。今のクラウドの所在を訊ねると、庭園美術館から救急車で病院に向かっているところだという。

『ここにレノ……いるけど。本部にも連絡つかないみたいなんだよ。なんだかもう……でも、俺、この後の予定、ちゃんとこなさなきゃ…… 皇太子殿の側に……いないと…… 彼、自分自身もすごいショック受けてるのに、ちゃんとオペラハウスにも行くって…… お、おれ…… おれ……』

「泣くな、バカタレ。……ガキ共のことはオレにx任せろ。とりあえず便利な助っ人も得たことだしな」

 傍らのジェネシスが、ひょいと両手をあげてみせたが、オレはかまわずに続けた。

「おまえは予定通りに行動しろ。『ルーファウス神羅』がいなければ、当初の目論見はおじゃんだ」

『わかってる…… わかってるよ…… セフィ、みんなのこと頼むよ。ヴィンセントのことも……お願い』

「たりめーだろ。おまえはおまえに期待されている役割をきちっと果たせ。神羅の奴らもオレたちも……そして、ヴィンセント本人もそう願っているはずだ」

『うん…… わかってる。皇太子殿はちゃんと守るよ。じゃ、セフィ、頼んだ』

 というと、クラウドからの電話は切れた。

 最後はほとんど涙声になっていたが、あいつも大人の判断ができるようになった様子だ。以前のクラウドなら、見境なくヴィンセントのところへ駆けつけていただろう。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス、話は聞いたとおりだ。どうせ来たなら手伝え」

「ああ、うん、かまわないけど。なんだか大変なことになっているみたいだなァ」

 相変わらずののんびり口調だが、緊迫しきっているガキ共相手には、むしろよい清涼剤だった。

「まぁな。やっかいな仕事だ」

「先に女神の顔を見たいんだけど。今、上手くしゃべることができないそうじゃないか。詳細は知らないが、いったいどういうことなんだ? だれかに傷つけられたなら、まずそいつを抹殺しないとな」

 事情の知らないジェネシスは、ごく当然というように言ってきた。

 ったく、女神、女神……って、コイツは……

 もっとも、ジェネシスがこの場にあらわれたのは、ヴィンセントの無事を確かめるためだと考えれば致し方あるまい。

「悪りぃが詳細は後回しだな。今のクラウドの電話を聞いたろう。大分切羽詰まった状況らしい。まずはギンパツのガキ共の手助けだ」

「女神は……」

「ヴィンセントは神羅本社に居る! ガキ共を拾ってくのは、その通り道なんだから、つべこべ言わずに付き合え!」

「ハイハイ、わかったよ」

 お手上げというように、両手を広げて見せて、ジェネシスはオレの後についてきた。

 ジェネシスには悪いが、すぐに神羅本社へ辿り着けるとは限らない。今現在、ガキ共の遭遇している敵は、相当ヤバイやつらなのだ。おまけに、旧市街地と一言でいっても、それなりに広い区画である。まずはそこから連中を見つけ出さなければ……

 

「……あ、セフィロス。たぶん、こっちじゃない?」

 後をついてくるジェネシスが言った。

「ああ? なんだ、なにか聞こえたか?」

「ううん。そうじゃないけど……なんか、そんな気がする。行ってみよう、セフィロス」

 ジェネシスは、独り言のようにつぶやくと、あっさりとオレ様を促しやがった。ヤツは昔からこういうことがある。妙に勘が働くというか……ほとんど霊感のようにも感じる。

 だが、忌々しいことに、こいつの直感はよく当たるのだ。だから、このときも、オレはすぐにジェネシスの指し示すほうへ向かった。無駄なやり取りをしている余裕もなかったからだ。

 

 当時の災禍をそのままに、生々しい鉄骨をさらし、倒壊した家屋。

 風雨にさらされ、ひどく錆び付いているものもある。崩れた豆腐のような、コンクリートのブロック…… 奇病に侵された人骨のように、曲がりくねった針金が、この寂寞とした風景を、さらに痛ましいものに見せた。

「……セフィロス。何を考えているんだ?」

 まるで、心をのぞき見されたようなタイミングで声を掛けてくるジェネシス。本当にこの男は厄介だ。

「別に」

 と、オレは素っ気なく応えた。

 たぶん、ジェネシスには、この寂寥たる風景に、オレが感じ取ったことがわかっていたのだと思う。だが、それを敢えて口に出すことはせず、

「もうすぐだ、セフィロス」

 とだけ、つぶやいた。