墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

 

 

 

 

 ロープウェイがゴールドソーサーに到着するころ、辺りはすっかり真っ暗になっていた。夜の帳の中、光の洪水で取り巻かれたアミューズメントパークは、それこそ宝石箱をひっくり返したような美しさだ。

 トロトロしているヴィンセントが追いついてくる前に、さっさと入場券を購入してしまう。放っておくと、

「私は君より年長なのだから……!」

 とお得意の台詞を口にしてしゃしゃり出てくるだろうから。

「ホレ、チケットだ」

「あ、ありがとう! す、すまない。買ってもらってしまって」

「オレの都合に付き合わせているんだから気にするな」

 適当にいなすと、ヴィンセントは納得いかなそうな顔をしていたが、それよりも遙かにアミューズメント施設への期待が高まっているのだろう。

 華やかなエントランスとアミューズメントエリアを、初めて外に出た子供のようにちらちらと眺めているのだった。

「さて……最初はミステリーエリアだったか?」

「え? だ、だが、あそこは宿泊施設が中心で……」

「この時間だ。今夜はここに泊まって、明日の昼過ぎに出りゃ当初の予定通りだろ」

「泊まる!? ゴールドソーサーに泊まれるのか!?」

 ヤツにしてはめずらしい大声を上げた。もっともクラウドの泣き声の十分の一ほどもないが。

「ちゃんと宿泊用のホテルがあるんだから当然だろ」

「あ、い、いや……そ、そういうことではなくて……! かまわないのだろうか? き、君はあまり、こういった遊び場所に興味はなさそうだし……」

「フフ、まぁ、おまえよりはな。だが、たまにはいいんじゃねぇのか? だいたい今日はもう直通列車がないはずだぞ」

「そ、そうだな! ん、君のいうとおりだ!」

 いくらオレが帰りたくても、列車が走っていないというのは十分大義名分になるのだろう。ヴィンセントはなんども頷くと、勝手知ったるというようにオレを促した。

「わ、私は一度だけ来たことがあるから……! ホテルはミステリーエリアと通常の宿泊用のエリアに分かれているんだ。き、君はどちらが好みだろうか?」

「別に寝れりゃどっちでも……」

 そこまで言いかけたオレの言葉に覆い被せるように、ヴィンセントは話し続けた。

「あ、あのッ、ちなみに、通常宿泊用のホテルはごく普通の作りで、ミステリーエリアだと、これが凄いんだ! 館自体がまるでお化け屋敷のようで…… エントランスにフランケンシュタインのマネキンや、ドラキュラの棺桶が飾ってあったり、受付では天井から吊された人形が落っこちてきたり……少し脅かされるが、いろいろと面白い仕掛けがあって……」

「あー、ハイハイ。それなら、そっちのホラーハウスでいいだろ」

「う、うむ、そうしよう! さ、急ごう、セフィロス! 満室でないとよいのだが……」

 気が急くのか、普段は絶対にしないようなこと…… ヤツはなんと自分からオレの手を取ると、ぐいぐいと引っ張っていくのであった。

 ……こんな経験は、ガキの頃のクラウドと付き合って以来だった。

 

 

 

 

 

 

 ヴィンセントにとっては運良く(まぁ、時季外れというのも手伝ってか)、ホラーハウスにあっさりと部屋が取れた。しかも一番良いツインルームらしい。

 ヤツは自分で予告していたにも関わらず、受付で墜ちてきた逆さ吊りの人形に恐れおののき、ビクビクとモンスターどものからくり人形を見て回った。

 望み通りの部屋を確保し、荷物を置いたことで安心したのか、ヴィンセントはすぐにゴンドラに乗りたいと言い出した。

「セフィロス……、きっと今が一番美しいと思う……! 遅い時間だが、まだチョコボレースも開催されているし、他のアトラクションも続いているだろうから!」

「はぁ? シャワー浴びてメシ食ってからでいいだろ?」

 基本的に面倒くさがり屋のオレはそう言い返したのだが、ヴィンセントはここ一番という気持ちだったらしく、譲歩しようとはしなかった。

「だ、だが、のんびりとしていては、他のアトラクションが終わってしまう…… せっかく君と一緒に来たのだから、ひとつでも多くの思い出を……」

「わかったわかった」

 と、応じる他はないだろう。オレは両手を挙げて降参のポーズをしてみせた。

 ヴィンセントは、ダラダラと歩くオレの手を取ると、またもやグイグイと目的地へ引っ張っていった。

 ……まるきりいつもと逆の構図だ。

 

 ヤツに促されるまま、ゴンドラ乗り場へ行く。

 不幸中の幸いなどと言っては、ヴィンセントに気の毒だが、時間的な問題のせいかアトラクションはかなり空いていて、ゴンドラ乗り場の係員は居眠りしそうな有様だった。

 続いてやってきた空車に、ふたりで乗り込む。

 ヴィンセントはしっかりと窓枠にくっついて、景色を眺める体勢に入っていた。

 ……やれやれ、『君と一つでも多くの思い出を……』はいいが、この調子じゃ会話するのだって難しいだろうに。

「空いていてよかったな、セフィロス」

「そりゃまぁ、時期はずれだし、この時間だからな。だいたいここは場所が不便だろ。発着点はいくつかあるが、大半は専用ロープウェイを使わないと行けないしな」

「あ、ほら、セフィロス! チョコボたちが……!」

「……おまえ、人の話聞いているか?」

「ほらほら! クラウドが出場したときは、ちょうどそこのコーナーでトップに躍り出たのだ……! いくら元神羅の兵士とはいえ、並み居るプロのレーサーをゴボウ抜きにして……」

「やれやれ。そいつはよかったな」

「きっと君などが参加したら優勝間違いなしだろう!」

「そりゃどうも」

「あ、ほら、セフィロス!」

「……今度はなんだ?」

 ため息にならないように、吐息をごまかしてヴィンセントに付き合う。

「ちょうどホラーハウスの真上だ。ほらほら、不思議な生物が上空を飛んでいるだろう?」

 身を乗り出して指さすヴィンセント。面倒くさいがのろのろと窓枠まで移動してやり、ヤツの指し示す物を一緒に見た。

「ああ、あのシーツおばけみたいなヤツか。お約束だな」

「どういう仕掛けだと思う?」

「ホテルの中にもあったろ。たぶん、ホログラムだ。もちろん、屋外用のヤツはかなり大がかりなものを使っているんだろうが」

「ホ、ホログラム…… ああ、なるほど!」

「……気は済んだか? そろそろ一周回り終えるぞ」

 興奮していたヴィンセントにとっては、数分が数秒にすら感じられたのだろう。びっくりしたように、進行方向を確認する。ごく当然であるが発着所が視界に入ったのだろう。

 ……なにもそんなにあからさまに、気落ちする必要はないのに。

 

 オレは係員のねぇちゃんに、

「もう一周だとよ」

 と告げ、二度目の観光に出発したのであった。