墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「……セフィロス……あの、ありがとう……」

 さすがに照れた様子でヴィンセントがそう言った。大はしゃぎしたのを恥じるようでもあった。

「また、『ありがとう』か。おまえ、今回は礼を言ってばかりだな」

「そ、それは……でも、君が私の気持ちを気遣ってくれるから……」

「…………」

「ルクレツィアのところへ、君と一緒に行けるとは思えなかった。……本当にありがとう」

 また、『ルクレツィア』だ。

 その名を聞くと平静でいられなくなる。以前は多少違和感を感じる程度で、ここまで不快に思うことはなかったのに。

 

 遙か昔……まだ、オレなど生まれていなかった頃のヴィンセントを知っている女。

 コイツに想いを寄せられていた女…… それにも関わらずおぞましい実験に身を投じ、ヴィンセントに過酷な生を歩ませるきっかけとなった魔女……

 だが、未だに、ヴィンセントは『ルクレツィア』を慕っている。

 こうして毎年、姿無き墓標に話しかけるために。

「ルクレツィア……か」

「ああ。……君が彼女を快く思わないのは仕方がないと思う。いや、むしろ、ごく当然のことだ」

「…………」

「だが、彼女は聡明で……研究に一途で…… 君のことを心から愛していた。ずっと思念があの場所に留まっていたのも、君を思うあまりのことだった」

「……フン」

「だから……今回、同行できたのは僥倖だった。君は気づかなかったかもしれないが、いつもと空気が異なっていた。ルクレツィアには君が来てくれたことがわかったのだ……」

「ルクレツィア……ルクレツィア……か。ずいぶんとその女のことを想っているようだな」

「……私の贖罪だ」

 納得いかなかったが、そうつぶやいて微笑んだヴィンセントに、何か言い返す気持ちにはなれなかった。

 窓の外のアトラクションを眺めて、一呼吸着く。

 ヴィンセントの蒼白い頬に、花火の紅が映し出され、まるでほお紅をさしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス。……もうひとつ、君に礼を言いたいことがある」

「ああん? なんだ、面倒くさいヤツだな。ゴールドソーサーのことか?」

「もちろん、それにも感謝している。……だが」

 そこまで言ってヴィンセントは、言葉を切った。

 窓からの目線を戻し、じっとオレを見つめた。七色に飛び交うゴールドソーサーの光が、ワイン色の双眸に何度も溶けた。

「……先日、ルクレツィアの祠で、君が言ってくれたこと……」

 ヴィンセントは静かな口調でそう切り出した。

「君が私のことであんなにも怒ってくれた…… それがとても嬉しかった」

「……よせ。みっともないことを口走ったと後悔している」

 オレは無愛想にそう言い捨てたが、ヴィンセントは淡い笑みを浮かべたままだった。

「君が自分自身のことで、彼女のことを憎むのは当然だと思うのだ。むしろ、普通の人間なら、そうでないほうがおかしい」

「…………」

「だが、君は『オレのことはもういい』と、あっさり自らに降りかかった災禍は切り捨てた。そして、私が彼女にされたことを本気で怒ってくれた。どれほど私につらい思いをさせたのだと……激怒してくれた。嬉しかった……本当に嬉しかったんだ、セフィロス」

「……チッ」

 と舌打ちして、ごまかそうと思ったが、それじゃ本当の悪ガキのまま終わってしまう。

 これでは、ヴィンセントから見たら、いつまでたっても幼い頃の『セフィロスくん』だ。

「別に何か言うつもりはない。おまえがそう感じたなら、それでいい。……口にしたことに偽りはないんだからな」

「ああ。わかっている。嬉しかった……だから、ありがとうと言いたかったんだ」

 ヴィンセントはその言葉を繰り返した。

 ……そうだ、コイツは今、オレの発言に感謝している。オレがあの女に激怒したことを、「嬉しかった」と。

 だが、それは、オレが『ルクレツィアの子供』だからか?

 かつて愛した女の子供だから…… そのオレが、ヴィンセントのためにああいう態度を取ったから……?

 

 ああ、よくわからなくなってくる。

 夜景はこんなに綺麗なのに……それをこいつに楽しませてやる心づもりで、ゴールドソーサーへやってきたのに……

 自らの心が取り残されたような寂寥感に、オレはひどくとまどっていた。こんな感覚は初めてだ。

 ごく普通の人間として、神羅でクラウドを側に置いていたときでさえ、おのれの気持ちが理解しがたいと感じたことはなかった。

 

 きちんと礼を言ったことで、安心したのだろう。

 ヴィンセントはふたたび、窓の外の美しい景色に注意を向けた。