〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 セフィロス
 

 

 



  

「セ、セ、セフィロス……あ、あの……あの…… すまない……わ、私は……あの……」

 ガタガタと震えるヴィンセント。

「おいおい、また気前よくとらわれの身になってやったもんだよなァ。本当におまえは手間を掛けてくれる」

「すまない……! さ、最初は帰り道を……ヤ、ヤズーに聞くつもりで……で、で、電話を……」

「へぇ。それでこんなコトに?」

 言いながら、コンクリートの破片が降りかかってしまった、ヤツの髪と肩のあたりを払ってやる。

 ……やさしくだ。

 それがかえってコイツの恐怖心を煽り立てたのだろう、サッと蒼ざめ、泣き出さんばかりにすくみ上がってしまう。

 

「ちょっ……オオイ! てめぇ! なに一人でしゃべり腐ってやがるッ 金は持ってきたんだろうなァ! アアン!?」

「言っておくがな! 俺たちゃァ、20……い、いや、全部で30人以上は居るんだぞ、コノヤロー!」

「いくらテメェがちっとばかり強くても、この人数相手に……ガパァァァァァ!」

 グシャッ! 

 と嫌な音がして、騒々しいノッポの顔面がコンクリートにつぶれた。後頭部を掴んで叩き付けてやったのだ。

 後に続いたボキッ!という音は前歯でも砕けたのだろう。

「ヤ、ヤ、ヤ、ヤ、ヤロウ! 手ェ出してただで済むと……グワァァ!!」

 岩のような体躯の男の腹に蹴りを入れる。岩オトコは反吐を吐いて地に崩れた。

「セ、セ、セ、セフィロス! ダ、ダメだ…… き、君が本気を出したら……」

 ガタガタ震えながら袖を掴むヴィンセントを乱暴に振り払い、オレはドブネズミどもに聞かせるようにせせら笑ってやった。

「バーカ。力の半分も出していない。マサムネも持ってきてないしな。さぁ、どうした? かかってこないか。せっかく気晴らしに来てやったのに」

「き、君たちッ! も、もういいだろう!? 相手にならないことがわかったろう!? もう二度とこんなことをしてはいけない! 引き上げてくれッ!」

「う、う、う、うるせェェェェェ! オカマ野郎は黙ってろ!! 野郎ども、一斉に行くぞッ、コンチキショーめがッ!」

「うらぁぁぁぁぁぁ!」

 オレの周囲を取り囲み、一斉に構えを取る。

「フフン、ああ、ちょうどいいな。まもなく晩飯の時間だ」

「ガアァァァァァッ!」

「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

「死ねェ!! コルァァァァ!」

 ゴミども二十ばかりが、それぞれエモノを手に一斉に飛びかかってきた。

「ヴィンセント、下がってろ」

 後生大事そうに買い物袋を抱えたヴィンセント。

 きっと気に入りのものでも見つけたのだろう。そいつをおじゃんにさせないよう、後ろに引かせると、トンと軽く地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 そう……まぁ、3分程度はかかったかもしれない。

 中には飛び道具を持っているヤツらがいて、そいつら相手が面倒であった。

 瓦礫の中に、ボロクソになって倒れるクズどもを後に、オレはヴィンセントを促した。

「行くぞ。イロケムシが待っている」

「……あ、ああ。セフィロス……す、すまなかった…… 最初から私が……」

「どうせ、てめぇのこった、民間人相手に手は出さないとか考えてたんだろ。だが、そいつは相手を見て決めろ。ハイエナどもにそれ相応の対応をしてやるのは当然のことだろ」

「……そうだな……そうなのかもしれない。結局……彼らは私の話など……」

 ギュッと荷物を抱きしめ、俯いたままヴィンセントはつぶやいた。

「おまえも長く生きてりゃわかるだろ。ジジイになってもババァになっても、自らを省みられる人種もいる。だが、十代の餓鬼でも、堕ちるところまで堕ちて、立ち上がれない野郎もいるんだ」

「………………」

「それはもう他の人間にどうこうできることではない。そいつ自身の資質の問題だ。立ち上がれないならそのままで居るしかない。場合によっては早々に死ねるかもしれないし、クズのまま長らえるかもしれん。いずれにせよ、本人次第だ」

 ヴィンセントの落ち込みが思いの外深いようなので、めずらしくもオレは長々とした持論を口にした。

「……そう……だな。そうなんだ……君はいつでも……正しい」

 掠れた声でヴィンセントがつぶやいた。

 あのガキどもの在りようがコイツにはショックだったのだろう。何度もやめさせようと、言葉を繰り返していた様子からもそれが見て取れる。

 ……コイツは……ヴィンセントという人間は、実は見た目と年齢が大きく隔たっているのだ。実年齢は60を越えるという。

 それだけ長い時を生きているからこそ、ああいった若者に感慨の念が尽きないのかもしれない。もっと割り切って、適当に生きれば楽になれるものを……

 ……まぁ、そういう不器用さが、この男の美点でもあり、人から愛される理由にもなっているのかもしれないが。

 

「……あ、あの……セフィロス……?」

「あ? いや、何でもない。表に車を留めてある。行くぞ」

「ああ……」

「急げ。警察が来ると面倒だ」

 ショックから立ち直れないのか、ヤツはよろよろと歩き出した。ただでさえ、瓦礫だらけのダウンタウンだから道が悪いのだ。

「チッ! おい、よこせ。オレが持つ」

「えッ……あ、で、でも、重いから……」

「いいからおまえは、ちゃんと前を見て歩け」

 そう言ってやると、ヤツはおずおずと荷物を明け渡し、オレの後に付いて歩き出した。

 それから数分、車に戻るまで、ヤツは一言も口を聞かなかった。

 

 沈黙を守ったまま後部座席に乗り、借りてきた猫のように大人しくしている様が、いじらしいような、アホくさいようなおかしな気分にオレをさせた。

「おい、ヴィンセント。生きてるか」

 運転したまま声を掛けてみる。もちろん振り返ったりはしない。

「え……あ、ああ」

「なぁにを意気消沈してやがるんだか。別にてめぇが他人を傷つけたわけじゃないだろ」

「……だが、私のせいで……君を煩わせてしまった」

 つまらんことを気にするヴィンセント。

 一度、コイツが大声でワガママを言っている様を見てみたい。クラウドのはしょっちゅう見ているが。

「フン、おまえに面倒を掛けられるのは慣れている。気にするな」

「……あ……す、すまない……本当に……」

「チッ、帰り道にイジメてやろうかと思ったのに、最初からそんなにメソメソされていたらイジメようがない。つまらんな」

「セ、セフィロス……」

「予定より遅くなった。クラウドが帰っているだろう。イロケムシが上手くやってくれているといいんだが……」

 さすがに無理だろうなと思いつつ、希望的観測を述べた。