〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 セフィロス
 

 

 



  

 

 

 

 翌朝……

 

 いつもよりも少し遅めの時間に起き出し、シャワーを浴びた。

 早く目覚めて、いらいらと電話を待つのはまっぴらと思って、眠り込んだのだ。これくらいの時間でちょうどいい。

 オレが適当に身支度を調えて、居間にいくと、ヴィンセントとヤズー、そしてクラウドまでが雁首を揃えていやがった。

 反対にガキどもの姿は見えない。

「おはよ、セフィロス。ずいぶんごゆっくりだったね」

 嫌みっぽくイロケムシが言う。

 それを無視して、オレはクラウドに声を掛けた。

「おい、クソガキ。おまえこそのんびりしてるな。仕事じゃなかったのか?」

「何言ってんだよ、セフィ! 大変なことになってるらしいじゃんか!」

 オレの姿を見ると、チョコボ小僧はソファから腰を浮かせた。

「セフィ! ねぇ、支配人さん、どうなの? まだ連絡無いのッ?」

「おまえが騒いでもしかたないだろ」

 素っ気なく言い放つと、クラウドよりもイロケムシのほうが不満そうに口をひん曲げた。

 ヴィンセントは音も立てずに、オレの朝食の仕度をしに席を立つ。

「騒ぎたくもなるだろッ! 俺、あの人とけっこう仲いいんだぞ! 仕事で立ち寄ったとき、ゴハン食べさせてもらったり、お茶とかケーキとか……」

「あーあー、そういや、そんなコト言ってたな。ったくおまえはそこらのガキと変わらんな」

「なんだとッ!」

「クラウド! どうして私にちゃんと言わないのだ」

 話を聞きつけたヴィンセントが話に割って入る。

「やはり暮れにひとこと挨拶に行くべきだった……」

 主婦のような物言いをするヴィンセントである。

「だって……ヴィンセントがヤキモチ妬くかと思ったんだもん」

「ヤキモチ? そんなはずがないだろう? おまえが世話になったのなら、私が礼に行くのは当然ではないか」

 クラウドの言葉の真意を理解することなく、ヴィンセントは心外といわんばかりに反論した。そこを軌道修正するイロケムシ。

「まぁまぁ、ご挨拶は無事今回の一件が済んでからね」

「ああ……どうか無事で……」

 祈るように両手を組み合わせて、ヴィンセントがつぶやいた。

 出されたメシをガツガツと食いながら、オレは連中を観察した。ヤズーはそこそこ睡眠をとったのだろうが、ヴィンセントはほとんど眠れなかったらしい。ただでさえ、白い肌が蒼白く沈んでおり、目の下に淡くクマが張っている。

 ますますもって、こいつは連れては行けない。

「おまえら、ちゃんとメシは食ったのか?」

「食べたよ。俺、話聞いたのついさっきだもん」

 口を尖らせてクラウドが言った。

「まぁ、俺もね。ダイエット中だから、そんなにたくさんじゃないけどォ」

「……食欲など……囚われの身の彼のことを考えると……喉を通らなくて……」

 潤んだ瞳に指を宛て、途切れがちにヴィンセントがつぶやく。

「チッ、ったくおまえな! おまえがメシを食おうと食うまいと、人質の命にはなんら関係ないんだぞッ?」

 俯いたまま頭を振るヴィンセント。

「ったくデリカシーないなァ、セフィロスは。まぁ、確かにね、ヴィンセントはもともと少食なんだから、無理にでも食べたほうがいいよ」

「……ヤズー……」

「電話の内容がどうかはわからないけど、いずれにせよ、ヴィンセントが同行することだけはあり得ないわけだから。ちゃんと食事して、身体を落ち着かせて、俺たちの帰宅を待って」

「……あ、ああ」

「そんな不安そうな顔しないで。大丈夫。ちゃんと店長さんも助けるし、俺たちも無事に戻るから」

 なだめるようにヤズーが、そっとヴィンセントの肩に手を置く。そいつを横からひっさらうクラウド。

 ……こいつらはマイペースだ。いや、むしろ好ましい、よけいな緊張はない方がいい。

 

 

 

 

 

 

「……では、私は片づけものをしてくるから……」

 この場に居るのもいたたまれないのか、ヴィンセントはいつもどおり家事をこなして気を紛らわせるつもりらしかった。

 まぁ、あいつのような人間は、黙って座っていても自家中毒になるほど、ぐずぐずと埒もない堂々巡りの思考を繰り返すだけだろう。ならばいつもどおりの時間を過ごした方がまだ負担が少ないと思われる。

「やれやれ……ヴィンセント、大分参っちゃってるみたいだね。可哀想に……」

「メソメソしたって状況は変わらないだろーが。おかわり!」

「はいはい」

「ヴィンセントは繊細だからね〜。誰かさんと違ってさー」

 嫌みったらしく宣うクラウド。むかつくチョコボ小僧だ。

「でも、ホント、無事に助け出さないと。あの人、いい人だもんな。いや、ヴィンセントに似てるから言ってんじゃないよ?もちろん、ヴィンセント似で嫌なヤツなんていないだろうけど、そーゆーことじゃなくって」

「はいはい。兄さんの言ってることはよくわかるよ。俺もねぇ〜、たまに飲みに行って話相手になるのが楽しみだったんだよね。あの人、本当に機微に長けた人だから。話してると落ち着くんだよね」

 ほぅっと吐息してイロケムシがつぶやいた。

 一時、高級クラブでホストのバイトをしていたヤズー。今でも、ときたま、あの男が支配人をしている店に遊びに行き、会話を楽しんでいるらしい。クラウドのクソガキがメシをたかりに行っているのは知らなかったが。

『そういえば、一昨日、ヤズーが遊びに来てくれましたよ』

 などと、あいつが嬉しそうに言っていたことがあった。

「ねぇ、セフィ」

 少し、真面目な声でクラウドが話しかけてきた。こっちも食い終えていたので、顔を向ける。

「……セフィはさ。あの……支配人さんと……その……」

「あ? 何だ?」

「……帰り遅かったり、午前様だったりさ……あの人と本気で付き合ってんの?」

 ボソリとクラウドがつぶやいた。

 ガキのギャンギャン声ではなく、いつになく神妙な雰囲気で。ヴィンセントとそっくりの人物へのこだわりなのか、それとも『元・恋人』としての微かなヤキモチからなのか、それだけで読みとることは出来なかったが。

「本気とは? おまえを側に置いていたときと同じ気持ちでということか?」

「え…… ちょっ……急にそういうコト言うなよ、恥ずかしくなるじゃん」

「アホか。訊ねてきたのはおまえだろーが」

 ハンと鼻で笑うと、ヤズーの淹れてくれた茶を啜った。

「気に入らないヤツならばかまったりしない。必ず無事に連れ戻す」

 そう答えた自身を、オレは卑怯だと解っていた。

 これはクラウドの質問の答えではない。聞き手側によってどうとでも取れる返答だろう。

 クラウドは神妙な顔で頷くと、目線を合わせずにいたオレのツラを、ちらりと盗み見た。