〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 セフィロス
 

 

 

「……ヤズーから話聞いたときも……絶対ないと思ってたけど……セフィのこと信じてたんだけど……」

 そんなふうに前置きして、クラウドはポソポソと言葉を続けた。

「支配人さんの身柄と引き替えに、ヴィンセントを連れて行くって言われたらどうしようって……」

「…………?」

「だ、だって、い、今、セフィと付き合ってる人なんでしょう? それにヴィンセントと間違われて連れて行かれたって聞いたから……その人を助けるためなら、ヴィンセントを……」

 無意識のうちに鈍感なチョコボ野郎をにらみつけていたのだろう。クラウドは慌てたように再び口を開いた。

「あ、ご、ごめん! セフィがそんなこと言うはずないってわかってたけど……ちゃんと信じてたんだけど…… ヴィ、ヴィンセントは俺にとってすごく大事な人だから……ちょっとでも不安なことがあると考えずにはいられなくて……」

「……たりめーだ。もし、仮に奴の素性がバレて、マテリアじゃなく、ヴィンセント自身を連れてこいと言ったとしても、まともに応じる心づもりなどなかった。オレが選んだ人間は誰一人として他の奴にはやらん」

 ケッと悪態をついてやった。

「もう、ちょっ……その言い方! ま、でもさ。とりあえずセフィロスのことは信用してる。無事に支配人さん、取り戻そう」

「……当然だ」

「でもさ、それにしてもしつこいと思わない?」

 話を割って入ったのはヤズーだった。

「何がだ?」

「だからDC……っていうか、ネロ……だっけ? どうして今さらヴィンセントのエンシェントマテリアが必要とか言ってるわけ? セフィロスの話だと、この前の一件でオメガの覚醒を防いだってことなんでしょ?」

「そうだな。そいつはヴィンセントも知っているはずだ」

「だよね? でも、あのときだって、ネロは他のツヴィエートたちと、ものすごい周到な準備をして、ヴィンセントを手に入れようとしたわけじゃない。目的のために」

「だから?」

「だから、だよ。この前の一件が大がかりなら大がかりであったほど、今回の一件は解せない。だって、この前の事件から一年どころか、半年程度も経ってないんだよ? エンシェントマテリアとやらがあれば、そんなにも簡単にオメガを目覚めさせられるものなの?」

「……何が言いたい? ネロの野郎がマテリアを別の目的で欲していると?」

「俺にはそう思える」

 断定的にヤズーが言った。

 こいつはクラウドと異なって、思考型の人間だ。理由がない推論は口に出さない。

「……それにエンシェントマテリアを持ってきたら、『ヴィンセント』を返す? あのネロがそんなことを言い出すことが考えられないよ。あの廃屋の研究室で……ネロがヴィンセントに語りかけた言葉、覚えてないの?」

 憎々しげに頬を歪ませ、ヤズーは言葉を続けた。

「『私と兄さんがこれからずっと命の続く限り、ヴィンセント・ヴァレンタインを守り続けます。我らが同胞として』……今、思い出してもぞっとするよ。真っ青になって怯えてたヴィンセントに、愉悦に浸ったような声音でさ」

「………………」

「だから、いくらエンシェントマテリアと引き替えでも、そう簡単に店長さんの身柄を返すとは思えない。逆にもし、本当にすんなり約束を守るのなら……もっと……ネロにとって、根元的に重要な『理由』があるはずだ。ヴィンセントを手放しででも成し遂げたい、何かがあるんだと思う」

 一気に思索を語るイロケムシを、ぽかんとした面持ちで眺めるクラウド。口に出すつもりはないが、オレもヤズーと似たようなことを考えないわけではなかった。

 ネロの『エンシェントマテリアを引き渡せばヴィンセントは返す』という、ひどくあっさりとした要求。

 こちらから持ちかけた交渉ではなく、奴の方から、ヴィンセントだと思いこんでいる男を『返却する』と申し出ているのが、どうしても解せなかったのだ。

「セフィロスだってそう思わない?」

「おまえのいうことも理解できるが……ではなんだというのだ?」

「それがわかりゃ苦労しないよ」

 ひょいと両手を持ち上げて、ヤズーはあっさりとそう言った。

「ネロめ〜……」

 イロケムシのセリフで、ネロの発言を思い起こしたのか、クラウドが地を這うような低い声でつぶやいた。

「ちょっと、セフィ! まだ電話かかってこないの!? 俺、絶対、一緒行くからッ!」

「アホか。なにをいきり立ってやがる、ガキが」

「あったりまえでしょ!? ヴィンセントにそんなこと言った連中、許しておけるかよ! おまけにやさしい支配人さんを攫うなんて……天誅を下してやるッ!」

「チッ……ったくテメーはメシ食わせてくれる人間は、誰でもやさしい奴になるんだな!」

「ちっ、違うもん! この前、配達で用事があって行ったんだから! 別に遊びに行ったワケじゃ……」

「あー、もういいでしょ、そんなことは。それよりセフィロス、携帯持っておいでよ。まだ時間はあるけど……早く掛かってくるかも知れないし」

「ああ、そうだな」

 ため息混じりにオレは頷いた。

 『待ち』の布陣は苦手だ。ミッションにおいても、こちらから仕掛けて行くのは苦痛ではないが、相手の出方を見計らわねばならない類のものは、苛立ちが先に立ってしまって不愉快そのものであった。

 だが、今回ばかりは、関わりのある人間の命が掛かっている。慎重にいかねばなるまい。 人質が民間人というのも厄介な理由ではあるが、唯一の救いはそいつが愚鈍ではないということだ。頭の回るあいつのことだから、一番よい動き方を理解することができるだろう。

 こちらのアドバンテージは、バカなネロがあの男をヴィンセントだと信じ込んでいること、そしてその男が聡明な人物であるということ。 

 ……この二点だ。

 ネロの言っていた『昼過ぎ』にはまだ二時間近く余裕がある。

 オレは室に携帯電話を取りに戻った。

 その途中、ヴィンセントとすれ違った。

 きっとバスルームの掃除でもしていたのだろう。身体を動かしては居ても、思い詰めた蒼白い表情が、内心の懊悩を物語っているようであった。

 声を掛けてやろうかとしたが、オレではかえって緊張させてしまうだけだと考え、そのまま通り過ぎた。