〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<44>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「ヤズー! に、兄さん……!」

 カダージュは、俺たちの姿を見取ると、声を上げた。

 だが、慌てたように口を噤む。

 俺たちの目にも、おそらく目的地であるネロの屋敷が、見えるくらいの距離であったからだろう。

 脱出してから、二十分弱……ほとんど俺たちはその間を全力疾走していた。

 ようやく覚えのある場所に出られたときの脱力感は、筆舌に尽くしがたかったのだ。

 

「に、兄さん、ごめん!」

 俺たちが話しかける前に、口を開いたのはカダージュであった。

「ごめん……! ホント、ごめんね! 僕……兄さんにもセフィロスにも頼まれていたのに…… ヴィンセント止められなくて…… でも、こんなことになっちゃうなんて……」

「……いいよ。話、電話で聞いてたから」

 そう答えられた自分が不思議だった。

 会うなり、この末の弟をぶん殴ってしまうのではないかと緊張していたのに。

「無駄口はいい。どんな状況だ、チビガキ」

 すぐさま、話を戻したのはやはりセフィロスであった。

「僕がこの場に戻ってからは何の動きもないけど…… でも、支配人さん送って戻るのに、ニ、三十分は掛かってると思う。行きは走っていくしかなかったから」

「……だろうな。微妙なところだ」

 先ほど抜けてきた瓦礫の傍らに、真新しいセンスのいい車が置いてあった。きっと支配人さんがカダに貸したものだったのだろう。

「こうしていてもしかたがない。……乗り込むぞ、おまえら」

「もちろん!」

「うん」

「……行こう!」

 ヤズー、カダージュ、そして俺の順に答え、俺たちは眼前の屋敷をにらんだ。

 

「できることなら、こちらの侵入に気付かれたくないな。……ヴィンセントの状況がわからんからな」

「あ、そうだ、セフィロス!これ、支配人さんが渡してって」

 カダージュが、尻ポケットから紙キレを引っ張り出した。

「……?」

 メモ帳を慌てて千切ったのだろう。

 細い文字がやや乱暴に躍っていた。

「セフィ、これ……」

「さすが、このオレ様が気に入ったヤツだけのことはある。……聡明な男だ」

 そこには、ネロの屋敷の見取り図が描かれていた。

 もちろん、詳細なものではないが、ネロの居たメインルーム、そして自らが留め置かれていた軟禁部屋……そこに至る通路などが、きちんと書き込まれていた。

「……うわぁ……すごいねェ」

 ほとほと感心したようにヤズーが言った。

 

 

 

 

 

 支配人さん…… もちろん、俺はそんなに彼のことを知っているわけではないけど……頭のいい人なんだ。そしてすごく勇敢だ。

 俺たちみたいに、特別な力を持っているわけではない、ごく普通の人なのに。ネロに囚われているときも、毅然とした態度を貫き通したという。

 そして今もまた、一番必要とする情報を、カダージュに手渡し、自らは自宅で待機している。自分の役目はここまでというように。

 彼はちゃんと自分の分をわきまえているのだ。

 恋人ならセフィロスのことが心配だろう。ネロやヴァイスの異常さは、虜の身であったのなら嫌というほど知っているはずだ。 

 それでも、地図のみをカダージュに託し、自らは自宅で彼の無事を信じて待つ……

 足手まといにならないように。

 どれほど不安で苦しくて……つらくても、ただ彼を信じて待つということ

 

 言葉で言うなら簡単なことだけど、それがどれほど難しいのか……俺にはわかる。

 ……いや、知っているんだ。

 神羅にいた頃……とんでもない激戦地や危険な場所へ赴くセフィロスを、胸が痛くなるほど心配した。涙が止まらなくて眠れなかった夜は一度や二度ではない。

 幾度、恐ろしい悪夢に襲われたことだろう。

 セフィがモンスターに食い殺される夢…… 大怪我をして動けなくなっている夢……

 我慢できずに、無理やりくっついて行こうとして、何度も叱られたっけ。

 

 ……離れた場所で、無事を待つのは、身を引き裂かれるほどにつらいのだ。

 

 

「どうしたの、兄さん?」

 ヤズーに声を掛けられ、俺はハッと顔を上げた。

「おいおい、クソガキ。本番はこれからだぞ。しっかりしろ」

「ち、違うよ、そんなんじゃない…… ちょっといろいろ思い出しちゃって」

 答えなきゃいいのに、俺は馬鹿正直にそう言った。バカにされるかと思ったけど、セフィロスは、フンと鼻を鳴らしただけであった。