〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<46>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「オラァァァァァァーッ!!」

 

 グワッシャーン!!

 

 セフィロスの蹴りが、重厚な木製のドアをぶち破った。

 セキュリティうんぬんは、窓や外に面した扉に施されているのだろう。

 でなければ、いくらセフィロスの蹴りであっても、砕くことはできないと思う。

 ……ああ、いや、そういえば、この人は素手でコンクリートの壁を打ち砕いたんだっけ……ヴィンセントがそう言っていた。

 

「全員動くなッ! 腕を頭の後ろへ回せ!!」

 俺は銃を構え、セフィロスの前に踊り出た。脅しには飛び道具が一番いい。

 DGの連中は、さほど驚いた様子もなく、ただその場に石像のように固まった。もはや「人」としての感情が枯渇しているのだろうか。

「……貴方がたは……」

 そう言って、ゆっくりと立ち上がったのはネロ……そう、漆黒の闇ネロだ。

 以前に一度、戦っている。

 忘れようもない忌まわしい輩……

 容姿はヴィンセントによく似ている。

 緩く波打つ長い黒髪……血の色の双眸に、蒼白い肌…… 黙って立っていれば、容姿端麗な美青年……いや、佳人とさえ言えよう。

 だが、彼の醸し出す狂気がそれらのすべてを裏切り、ひたすら禍々しく見せるのであった。

 

「……まさか、ここまで来られるとはね」

 ネロはゆっくりと背後に足を滑らせた。

 逃げる素振りもみせず、至極ゆるやかな動作で……

 

 ……そう、この部屋に飛び込んだその瞬間から……ずっと気になっていたその場所。

 巨大な布帛で覆われた、一区画……布帛といっても、シーツのような簡素なものではなく、しっかりとした地の、巨大な布の壁になっているのだ。

 CPやらなにやらで埋め尽くされた鉛色の部屋の、純白のそこだけが調和を崩していた。

「……ネロ、動くなッ!」

 俺は、彼にベルベッドナイトメアを向けた。

「……撃つ気ですか? お綺麗な弟君……」

 クッと口の端を持ち上げ、ネロは気味の悪く微笑した。

 ヤツの立ち位置の反対側……俺たちから一番遠く離れた場所に背中を向けて座っている人物がいる。

 ……白髪と見まごう、淡い銀の髪をもつ男。

 ヴァイスだろう。

 だが、彼はこの状況にあっても、指一本動かそうとはしなかった。

 俺の背後でセフィロスの気が感じられる。

 彼は、目線はしっかりとネロを睨み付けているが、意識はヴァイスに集中させているようであった。

 自分勝手でわがままな性格は気に入らないけど、やはりこういうときは頼りになる人だと思う。

 

「撃ちたいのなら撃ってみてもかまいませんよ。……もっとも貴方がたの大切な人も命を落とすでしょうけど……」

「ヴィンセントッ! ヴィンセントはどこだッ! アンタの……その後ろに居るのか!?」

 兄さんが堪えきれずに叫んだ。

 怒りで声が震えている。

(……大丈夫だよ、落ち着いて兄さん)

 心でそう呼びかける。

「……ふふふ……」

 小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべ、ネロは女のようにしなやかな指で、そっと布帛をめくりあげた……

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント〜ッ!!!」

 兄さんが叫ぶ。

 セフィロスも息を飲んだのがわかった。

 ネロの後ろには、手術用の簡易ベッドが置かれていた。

 そこに横たわり、祈るような瞳でこちらを見ている人物……ヴィンセントだ。

 傍らには医師とおぼしき老人が、気の毒にも腰を抜かして座り込んでいた。

「ヴィンセントッ! ヴィンセント〜ッ!」

 タガが外れたように、兄さんが走り出す。

 ネロが両手を彼に向かって突き出し、なにやら小さく呪を唱えた。

「いかん……!」 

 セフィロスが抜刀し、兄さんの後を追ったのが、合図になった。

 俺は、彼らとは反対側に身を切り返し、片っ端からDGの兵士を片付けていった。

 ちらりと見取っただけだったが、ヴィンセントは両手を固定されている様子だった。戒めを解いて連れ出すには時間がかかる。医師の足元にメスが転がっていたのにも気がついた。

 つまり、すでに局部麻酔が施され、これから開腹手術を行う寸前であったのだ。

 ……危機一髪とはまさにこんな状況をいうのだろう。

 局部麻酔とはいえ、ヴィンセントはいつものように動くことはできまい。戦力に加えるわけにはいかないと思う。

 ならば極力今のうちに敵の頭数を減らし、活路を開くべきだ!

 

「ぐッ……あぁぁぁぁぁ!」

「兄さんッ!」

「ぐぅぅ…… ああぁぁ……ッッ! ヴィンセント……! ヴィンセント〜ッ!」

 漆黒の闇が、兄さんを捕らえていた。

 ヴィンセントが不自由な身体で寝台から身を乗り出す。

 いくら魔晄を浴びているとはいえ、兄さんは俺たちよりはずっと普通の人間に近い人だ。ネロの操る『闇』は、ごくあたりまえの人間に、恐ろしいほどのダメージを与えるとセフィロスが言っていた。

 あの苦しみよう……やはり彼の言ったことは本当なのだ。

「ヤロウ……ッ!」

 セフィロスが兄さんをかばい、ネロに剣を向けた。

 俺はきびすを返すのをやめた。あそこは兄さんとセフィロスに任せるべきだ。

 他のだれよりも、ヴィンセントを必要とする人たちに……彼を愛する者たちに……!

 俺は俺でやるべきことをやる。

 

 ガゥンガゥンガゥン!

 

 ベルベッドナイトメアが火を吹く。

 弾倉を入れ替える前に、あらかたの連中を処理したい。下っ端とはいえDGだ。急所を一撃できればよいが、なんせ騒ぎを聞きつけ、屋敷内に居た配下どもがこの部屋へ集結しているのだ。

 ぶちこわしたドアから、ぞくぞくと後発の敵が入ってくる。

 その処理は、正直、ひとりではキビシイくらいであった。