〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<47>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「ネローッ!!」

 ゴォウ!!

 セフィロスの剣が空を切り、先ほどまでネロが座っていた椅子を打ち砕いた。敵もさること、ヤツはふわりと空で一転すると、後方へ飛び退いた。

 兄さんを絡め取る闇の力が弱まる。

「チッ…… 本当にしつこい方々だ……! 上手い具合に坑道で足止めをできたと思ったのですがね……」

「ケッ、バカにするな! いつまでもあんなところでぐずぐずしていられるか!」

「ふ……相変わらず口の悪い方だ……保護者殿。ああ、お綺麗な姿が泥で汚れていますねェ。残念なことだ」

 クッとネロが低く嗤った。

 

「ぐ……ああ……」

「クラウド…… クラウド……ッ!!」

 ヴィンセントの兄さんを呼ばう痛切な叫びが、後ろで戦う俺にも聞こえた。

「ヴィンセント……ッ! はぁっ はっ……!」

 セフィロスがネロの相手をしている間に、兄さんは傷だらけの身体を引きずって寝台ににじりよった。

「ヴィンセント…… い、今……外すから…… が、がんばっ……て……」

「クラウド……クラウド……! ああ、クラウド!! し、しっかり……」

 悲鳴のようなヴィンセントの声……

 兄さんは大丈夫だろうか……? 一度は押し込めた不安が頭をもたげてくる。

 ああ、早く!!

 早く、兄さんとセフィロスの加勢にいかなければ……!! 

 いったい屋敷のどこに、この数のDGソルジャーが居たんだ……!!

 

 

 

 

 

 

「クラウド……!! ああ、クラウド……! すまない…… しっかり……しっかりしてくれ……ッ!」

「だ、だいじょうぶ…… 気持ちが悪い……だけ。くそ……あの『闇』とかいうの……キツイ……」

「クラウド……?」

「ん…… う……」

「クラウド……ッ!」

 ガシャンッ!!

 兄さんの大剣が床に落ちた……!

 ヴィンセントの手枷を、なんとか剣で断ち切った後だろう。

 失神こそしていないものの、両膝をつき、肩で息をついていた。

 下肢を覆うだけの手術装束を身につけたヴィンセントが、よろよろと寝台から降りる。

 ああ、もう危なっかしくて見ていられない!

 それでも彼は何とか兄さんを抱き起こした。ヴィンセント自身は急いで動いているつもりだろうが、やはり動作は、局部麻酔のせいで緩慢だった。

「クラウド……! クラウド……ッ!」

「あ……ゴメ……だ、大丈夫だから……  あ、ああッ?」

「クラウド……? どう……」

「ヴィンセント……ッ! お、お腹…… 血……」

「え……あ…… だ、大丈夫……す、少し切られただけで……」

「血が……血……出てる……」

 呼吸を詰める兄さん。

「……クラウド……?」

「う……うあぁぁぁぁぁッ! ネローッ! この野郎〜〜〜ッ!」

 血走った眼で、剣を拾うと、彼はまるで獣のごとく地を蹴った。

 気が違ったように咆吼し、ネロに躍りかかる。

 攻撃の手は緩めないが、さすがにセフィロスも驚いたようだ。

「ネローッ! 畜生〜〜ッ!!」

「おい、クソガキ! 落ち着け!」

「この野郎〜〜ッ! よくも……! よくもヴィンセントに……ッ! うあぁぁぁ!!」

「クラウド……ッ!」

「……下司がッ!」

 ネロが不快そうに吐き出し、兄さんをふたたび闇に取り込もうとする。

 それを寸前で切り裂き、噴霧と化させるセフィロス。

「うおぉぉぉーッ! 貴様ッ! 許さないッ! 絶対に、許さないッ!!」

「チッ!」

「ヴィンセントに……ヴィンセントにあんな思いさせやがって……!! ブッ殺してやる……ッ!」

 怒濤ような攻撃に、さすがのネロも防戦を強いられていた。兄さんだけでなく、セフィロスも相手にしているのだ。分が悪いのも道理だろう。

「死ねーッ!」

「……調子に乗るな……ッ! 下司どもめが……ッ!」

 斬りかかる大剣を横飛びにかわすと、カッとネロは両目を見開いた。

 血の色の双眸の奥に、爛々と狂気の光が溢れてくる。

「ヴィンセントは僕たちの同族だ……ッ! 貴方がたは彼にふさわしくないッ!」

 激しい口調で叩きつけ、ネロは両手腕を持ち上げた。

 漆黒の闇が沸き出し、細身の身体を包んでゆく。

 次の瞬間、闇の中から現れたのは、不気味な骨で象られた、漆黒の翼を持つ、魔人ネロそのものであった。

「クラウド、来るぞ! 油断するなッ!」

「わかってる……ッ!」

 兄さんもネロの本体を見て、我々の置かれている状況を再認識したのだろう。

 さきほどよりも大分冷静になっているように見えた。

 

「貴方がたは厄災だ……! 僕と兄さんとヴィンセントが居れば、できぬことはないのに……ッ! 消えて無くなるがいいッ!」

 ダンと踏切り、跳躍すると、彼は虚空で蝙蝠のような翼を広げた。

 そこから、タールのような黒色のドロドロとした『闇』が生まれ、それらは床に落ちると、蠅の羽をもつムカデに変化した。

「もぅ、またムカデ!? キショイんだよ、おまえらッ!」

「節足動物はもう充分だ!穴ん中で堪能させてもらったからな!」

 セフィロスがマサムネを大きく振り上げる。

 マテリアを装着した長刀は人工的な青紫の炎を帯び、一挙にグロテスクな虫たちを吹き飛ばした。

「クッ……」

「相変わらず小細工ばかりだな。人質が戻ればこっちのもんだ。手加減する必要はないぞ、クラウド」

 最後の一言は兄さんに向けて、声を掛けたのだ。

「ああ、もちろん!」

「この疫病神どもめが……ッ!」

「黙れッ!!!」

 ネロの勝手な言いぐさを、激しい口調で遮ったのは兄さんだった。

 どちらかというと、年より幼く見える童顔が、今は迸る怒りと熱できつく強ばっている。

「勝手なことばっか言いやがって……ッ! なにが、ヴィンセントの同胞だッ! ヴィンセントが、アンタたちと居ることを望んだことがあるのかッ!? 俺たちよりもアンタらのほうが自分にふさわしいって言ったのかよッ! てめぇらが勝手に独りよがりの横恋慕してるだけだろーがッ!」

「……おのれ……偉そうに……!」

「うるさいッ! このボケェェェェ! ヴィンセントは俺たちの家族だッ! 大切な人だッ! アンタらは一度でも、ちゃんとヴィンセントの話を聞こうとしたことがあんのかよッ! 本当に彼の心を理解しようと考えたことがあるのかッ!」

 怒濤のように兄さんは言い募った。

「……黙れ……ッ! この……」

「互いに必要で……求めあって、俺たちは共に生きているッ! そのヴィンセントを、勝手な理屈で奪おうとするなら、全力で取り返すまでだッ! てめぇらをブッ殺してでもなッ!!」

 ダンッと兄さんが地を蹴り、大剣を振りかぶった。

 ネロは斬撃を手甲で遮ぎるものの、強すぎる衝撃に背後に吹き飛ばされる形となった。

「グッ……! 調子に乗るな……ッ!」

「ヴィンセントを傷つけるヤツは許さないッ! 二度と彼に近づかないと約束しろッ! この地に足を踏み入れないと誓えーッ!!」

 ガッ……! ガキィィン……ッ!!

 力任せの一撃が、ネロの銃を弾き飛ばした。

「クッ…… あと……少しだったのに……!!」

「あきらめろ。おまえの負けだ」

 兄さんとは対照的に、素っ気なく言い放ったのはセフィロスであった。

「ヴィンセントと間違えた人物の存在がてめェの命取りだ。あいつは利口なヤツでな」

「クッ……」

「ええ……! 確かにその通りでしたね……ッ!」

「貴様の負けだ、ネロ!」

 セフィロスはそう繰り返した。

「……ヴィンセント・ヴァレンタイン……!!」

 歯噛みしていたネロが、ヴィンセントの名を呼ぶ。鋭利なナイフのように鋭い声音で。

「僕はあきらめない……!! 必ず『それ』を手に入れますよ……! そして貴方のことも……!」

「ネロ……」

「黙れ、この野郎ーッ!」

 兄さんの剣を後転で避け、続けざまに放たれたセフィロスの斬撃を寸でのところでかわすと、ネロは広い室内をヴァイスの方へ走った。

 セフィロスが無言のまま、ものすごいスピードでそれを追う。

 ヴィンセントの近くには兄さんが居る。俺は瞬時に判断し、即座にセフィロスの後を追った。

「ここで禍根を断つぞ!!」

「わかってるッ!」

 俺が着いてきているのに気付いていたのか、セフィロスが叫んだ。

  

 そして『禍根』の中心人物は、ネロを傍らに侍らせ、ゆっくりと立ち上がった。

 ……オメガの媒体……ヴァイスだ……