〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<48>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「ぐぅ〜 お……ぉぉぉぉ〜〜〜っ!!」

 ヴァイスは俺たちを見回すと、獣のような咆吼を上げた。

「ごぉぉ……ぐぉぉぉ……!」

「……!!」

「……!?」

 ……何……?

「ご……お……ぉぉぉぅ……」

 様子がおかしい。

 ヴァイス……いや、俺はまともに対峙したことがないのだが……

 剣を構えたセフィロスにも、微かに戸惑いが見て取れる。もっとも、だからといって斬るのをためらう人ではないが。

「お……おぉぉぉ…… が……あぁぁぁぁ……」

「兄さん…… 大丈夫ですよ……! さぁ……一緒に行きましょう……!!」

 愛おしげに、巨躯の男の背に手を添え、ネロがささやいた。

 ヴァイスは、ネロの言っていることを理解しているのだろうか……?

 先ほどから吠えるばかりで、まともな言葉を口にしない。それに兄さんとセフィロスを相手にしていたネロに加勢する素振りも見せなかった。

 視点も定まらず、だらしなく半開きになった口元から、涎がこぼれ、言葉にならない呻きをもらすのみだ。

 ……どう見たって普通の状態ではないだろう。

「おぉぉ……が……ぁぁぁ……」

「おい……ネロ。なんだ、そいつは…… 野郎のありさまは……」

 俺の訊ねたかったことを、そのままセフィロスが口にした。

「……なにか……? 僕の大切な兄さんですよ…… 何にも勝って強く、高貴な兄ですよ」

 ネロはさも愛おしげに、背の高い兄の肩口に頬を寄せた。

「………………」

「……セフィロス」

「行くぞ、イロケムシ……!」

 セフィロスが抜刀した。もちろん、俺だとて同様だ。

 禍根は残したくない……ヴィンセントのために……そして俺たち皆のためにだ。

 思うに、ヴァイスのあの有様は、この前の一件が原因なのであろう。他に理由が見あたらない。

 カオスと融合したヴィンセント、そして英雄セフィロスと戦った、ヴァイス。

 いや、正確には、ヴァイスは媒体であったわけだが。

 傷だらけとはいうものの、セフィロスもヴィンセントも、生きて戻った。ということは、ヴァイスは、彼ら以上の……瀕死の重傷を負ったのだろう。どちらが死んでも、おかしくないほどの死闘だったとセフィロスに聞いていた。自分たちが勝てたのは、ひとりではなく、互いが居たからこそだと……

「オォォォ! 消えろーッ!」

 セフィロスの剣がヴァイスの巨躯を斜めに斬り裂いた……と、少なくとも俺の目にはそう映ったのだが……

「……残念でしたね。貴方がたは詰めが甘い……」

 フォン……

「む……ッ!?」

 セフィロスの剣は、間違いなくヴァイスを襷がけに斬ったのに……ヴァイスは身動きひとつしないのだ。

「ホログラム…… 本物の兄さんはここではありませんよ……」

「……なに……ッ」

「……地下坑道の発信器がずいぶんと長く一カ所に留まったままでしたので……」

「…………!!」

「ふふ……そこで亡くなったのかと思いましたが、貴方がたのしぶとさは経験済みですからね。念には念を押させていただきました」

 ネロは皮肉な微笑を頬に刻んだ。

「チッ……くそッ!」

 セフィロスが間合いを取り直し、低く舌打ちした。

「……ごきげんようヴィンセント・ヴァレンタイン……そして、親愛なる皆様……」

 そういうと、背後に回していた手をすっと横に滑らせる。

 後ろにあるプレートに触れた瞬間……

 

 カッと光の渦が炸裂し、俺たちは一瞬視界を奪われた。

 そして次の瞬間、鼓膜を突き破るような爆音が響いた。

  

 バァァァン!!

 ブワァァァァァァ!!

 

「ああッ……!」

「くそッ!」

 俺たちの視界は黒煙に包まれた。

 辺り一面、墨を蒔いたように真っ暗だ。

「フフ……またお会いできる日まで……どうぞお元気で……」

「ネロッ! くそッ!」

「よせ、クソガキ! 深追いするな! ヴィンセントについていろッ!」

 走り出そうとした兄さんを、セフィロスがするどく引き留めた。

「セフィ、逃げられた!?」

「……この状況じゃ仕方ないな。仕切り直しだ。おい、おまえら、無事だろうなッ!」

「もちろん! さ、ヴィンセント、つかまって!」

「あ……クラウド……」

「おい、吸い込むなよ! ……脱出するぞッ!」

 

 バラバラバラバラ……

 幽かに聞こえるヘリの羽音。

 黒煙が落ち着く前に、俺は窓辺に走ってそれを開け放った。

 漆黒の空に溶けそうな飛行船……巨大なそれが、屋敷の上を旋回し、ゆっくりと離れていく。

 万一に備え、上空に待機させていたのだろう。

「チッ……! 準備のいいこった」

 口元を押さえ、セフィロスがつぶやいた。

「……まったくだねェ」

「チビガキが待っている。……クラウド、ヴィンセントを連れて、オレの後ろに続け! イロケムシはしんがりだ」

 セフィロスが即座に指示を飛ばす。

 ネロを追える状況ではないと判断したのだろう。ならば後は無事に脱出するだけだ。

 DGの数は大分減っていようが、車に乗り込むまで油断はできない。

「よし、行くぞッ!」

「わ、わかった! さ、ヴィンセント、これ羽織って……背中乗って!」

「……あ、ああ」

「早く!」

 兄さんが必死に急かす。俺はベッドから適当にタオル地のものを見繕った。

「ヴィンセントの傷、これで押さえさせて、兄さん! 深くはないだろうけど、場所が場所だから」

「あ、ああ! ほら、ヴィンセント、タオル当てておいて。しっかり押さえてね」

「すまない…… 深く切られる前だったから……大丈夫だ……痛みもないし……」

「痛くないのは麻酔が効いてるせいだってば。さ、行くよ、ヴィンセント!」

 足元がおぼつかないのも、麻酔のせいなのだろう。

 ヴィンセントを背負った兄さんは、セフィロスに頷き返した。

 

 メインルームを出、渡り廊下に差し掛かったとき、俺は、天に向けて二発続けて銃を放った。

 それは、カダージュへの合図だった。