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〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&セフィロス〜
<3>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「……ということなんだ、もう俺にも何が何だか……」

 俺がまずしたことは、ヴィンセントが目覚めるのを待って、できるだけショックを与えないよう、的確に現在の状況を説明することであった。

 

「…………」

「だが、とにかく、どこにいるのかさえわかっていれば、倒すことも可能だと思うんだ。一緒にいれば隙を見せるだろうし……そうすれば……」

「…………」

「……ヴィンセント? だいじょうぶか?」

 さきほどから、一言も発さないヴィンセント。あまりにも繊細なこの人は未だにショックから立ち直れていないだろう。

「ヴィンセント、心配するな。アンタのことは俺が必ず守る。セフィロスには何も……」

「クラウド……」

 かすれた声でヴィンセントが俺の名をつぶやいた。

 

「ん? 何だ?」

 青ざめた頬を撫で、聞き返す。なんとか彼の不安をぬぐい去れないかと思いめぐらせながら。

「クラウド……では、セフィロスは……しばらくここに居ることになるのだろうか?」

「あ、ああ、そうだな。だが、アンタはなにも心配するな。俺がすぐに……」

「ならば……私には罪を償う機会が与えられるのだろうか……」

「……は?」

 俺は固まった。

 罪を償う機会って……はぁぁぁぁぁ?

 こいつは……この男は……この期に及んでまだそんなことを考えていたのか?

 

「クラウド、彼は……セフィロスは、ルクレッツィアの息子だ……」

「そ、そりゃ、そうだけど……」

「私もセフィロスと話をしてみたいと思う」

「い、いや、ちょっ……待てよ、ヴィンセント!」

「あ、ああ、いきなりそんなことをいうつもりはない。だが、セフィロスという人間を知りたいだけだ。かつて愛した女性の……息子のことを……」

「いや、落ち着け、ヴィンセント!」                  

「私は落ち着いているが……」

 その通りだ。慌てているのは俺の方だ。

 

 こんな性格のヴィンセントである。自分の方からセフィロスに近寄ったりはしなかろうが、セフィロスほうはそうじゃないだろう。

 なにより、俺とヴィンセントの関係には気づいているだろうし、先ほどの物言いから、興味を持たないはずがない。となれば当然、直接ヴィンセントに関わってこようとすることもあるはずだ。そんなときは、何を置いてでも回避して、俺の後ろに逃げてきて欲しい。ひとりでセフィロスの相手をしようなどと考えられては困る。

 

 相手はあのセフィロスなのだ。ヴィンセントになにをするか知れたものではない。特に今まさに、俺の一番近くにいるヴィンセントに……

 そう考えてだけで背筋がゾッとする。

                                    

「ダメだ、ダメだぞ、ヴィンセント!」

「クラウド?」

「セフィロスに関わろうなんて考えるなよッ? ましてや和解できないかとか思ってやしないだろうなッ?」

「………………」

「いいか? アンタがあいつをどう思っていようと、そんなの向こうに取っちゃ知ったこっちゃないんだぞ!」

「……そ、それはわかっている」

「だったら、セフィロスには近寄るな! セフィロスが居るときは俺の側にいろ!」

 俺の剣幕に驚いたのか、ヴィンセントはきょとんとしたままベッドに腰掛けている。

「クラウド……なにもそんなに……」

「アンタは本当にお人好しで隙だらけなんだよッ! どれだけ俺がアンタを心配しているかわかるか? もし……もし、アンタに何かあったら……」

「クラウド……」

「ヴィンセント、約束してくれ」

 そういうと、俺は放り出されたままの彼の手をとり、床に跪いた。ベッドの上のヴィンセントを見つめる。

「……クラウド?」

「セフィロスとなにかあったら……自分だけで対処しようとするな。必ず俺を呼べ、いいな?」

「…………」

「いいな? 約束するな?」

「……クラウドが……そういうのなら……」

 彼は頷いてくれた。

 俺はホッと吐息すると、立ちあがった。今度はヴィンセントを見下ろす格好になる。

 

「……クラウド?」

 いつまでたっても肉のつかない細い首を微かに傾げて、紅い瞳の大切な人は、俺の名を口にした。低くてやさしくて、聞き取れないくらい小さな声。

「ヴィンセント」

 俺はそっと手を伸ばす。やわらかい黒髪を指で梳き、腰をかがめて白い額に口づけた。

「……俺、アンタのことが一番好きだから……だれより大切だから」

「…………」

 

「忘れないでくれ、ヴィンセント」

「……わかっている」

 

 彼はつぶやいた。

 そしてほんの少し笑ってくれた。