コスタ・デル・ソルへようこそ。 
〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&セフィロス〜
<4>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「クラウド、済んだのか?」

 ヴィンセントに話をし終えて、居間に戻ると、えらそうにソファにふんぞり返った英雄がいた。

「……ヴィンセント、目、覚ましてた。落ち着いてるみたいでよかったよ」

「ふん、元・タークスにしては軟弱な男だな」

「繊細なんだよ、ヴィンセントは」

「まぁ、奴のことはどうでもいい。服を貸せ、クラウド」

「は?」

「風呂に入って休みたい。リユニオンすれば疲労しないんだが、この身体ではそれなりに消耗する」

「そ、そうなのか」

「ああ」

 そう応えて、吐息したセフィロスは、昔のまま、ごく普通の人間のように見えた。

 

 ……服か。確かにいつもの、肩甲のついたコートに、胸バッテンベルトで居られては、こちらとしても困る。

 

「服ね。……俺、アンタに合うサイズなんて持ってないよ」

「フン……ああ、そうか、おまえは相変わらず可愛らしいからな。仕方ない、あのタークスの奴のでもいい」

「ヴィンセントのはなおさら入らないよ。見れば分かるだろ」

「…………」

「怒ってもしかたないだろ、アンタがいきなり来たんだから」

「……フン、わずらわしいが致し方ない。クラウド、付き合え」

「え?」

「決まってるだろう。服を買いに行く」

 有無を言わせぬ口調で、セフィロスはそう言った。

 

 

                        ★

 

 

 ……服を買いに行く?

 ふたりで? 一緒に? どこかの店へ?

 

 何なのだろう、これは? いったい何が起こっているのだろう?

  

 ああ、覚えている、この感覚。

 ずっとずっと高い、肩の位置、あのころの俺は、彼の胸の辺りまでの身長さえなかった。

 

「……コスタデルソルか、昔、バカンスで何度か訪れたことがあったな」

 俺がぼんやりしているとセフィロスが話しかけてきた。

「……うん、俺もアンタに連れて来てもらったよ」

「そうだったな。……相変わらず、暑苦しい町だ」

「バカンス地なんだから仕方ないだろ」

「フン……それで、どこまで行くんだ、クラウド」

 セフィロスと一緒なのである。人の少ない高級店のほうがいいだろう。さすがに「あのセフィロス」だと気づく者はいなかろうが、彼自身ひどく目立つ男だ。こうしてふたりで歩いていても、道を行く女性たちは、ひたすらこの長身の美青年を憧憬の眼差しで見つめている。もっともヴィンセントとは異なる、尊大で冷徹な有り様に、声をかけられる強心臓の持ち主はいないようだが。

 

「この辺でどう?」

 俺は言った。

 カジュアルも扱っている高級紳士服店だ。

「いいだろう。入るぞ」

 どこまでも偉そうな英雄。

 そういうと、ヅカヅカと店内に入っていくセフィロス。幸い中途半端な時刻だったせいか、店内に客はまばらであった。

 

「適当に見繕ってくれ、クラウド」

「どんなのがいいんだよ」

 俺は訊ねた。

「なんでもかまわん」

 なんでもかまわん……って、けっこううるさいくせに。

 でも、こんなところで反抗しても仕方がない。家で着るならと、俺はカジュアル服のほうへ彼を促した。

 コスタデルソルにはほとんど四季がない。今は比較的涼しい季節だが、注意すべきなのは夜間くらいで、日中の日差しはそれなりに強い。

  

 セフィロスはけっこう趣味にうるさい。そのくせ面倒くさがりなのだ。俺も人のことを言えるようなマメな性格ではないが。

「はやくしろ、クラウド」

「もう、アンタの着るモンだろ。……ええと、こんなのとかどう?」

 色は基本的にダーク系モノトーンに抑える。コットンとメッシュ二枚あわせのノースリーブシャツ、そしてゆったりとした麻のシャツ、ボトムのスラックスを何本か。

「ふむ、おまえはなかなか趣味がいい。おい、店員」

 高飛車に販売員を呼びつける。

 もちろん、こんな店の販売員だ。眉一つゆがめず恭しくやってくる。

 

「この子の選んだのと同じものを3枚ずつ、それから同サイズの夜着とアンダー、インナーをそろえろ」

「は、はい」

「おい、そんな言い方じゃ困っちゃうだろ。あ、すまない。俺も一緒に行くから」

 そういうと、俺は困惑顔の女性について、彼の望みのもの、キングサイズのパジャマと履き物、アンダー等を適当に数枚選んだ。

 

「ええと、他には……バスローブとかいるかな……」

 ヴィンセントが居てくれれば、すぐさま必要な品々を思いつくのだろうが、そうも言ってはいられない。とにかくセフィロスのことは俺ひとりで始末をつけなければ。あの気弱で繊細なヴィンセントに負担をかけるわけにはいかないのだ。

「ええと……後は……」

「済んだか、クラウド」

「う、うん……たぶん、こんなもので大丈夫だと……」

「そうか」

「お、お客様、お待たせ致しました」

 気の毒な店員は、全身に緊張がみなぎっている。丁寧に包んだ紙袋……それでも量が多いので、大きな袋5つくらいになってしまう。

「ああ、ご苦労。ではこれで」

 そういうとセフィロスは、胸ポケットから俺が手にしたこともないような札束をそのままポンと女性に手渡した。

「行くぞ、クラウド」

「えっ……ちょっ……」

「お、お客様、ただ今会計致しますので……」

「いらん、面倒だ」

 煩わしげにそういうと、セフィロスはがっしと袋をわしづかみにして、さっさと店舗から出て行ってしまった。

 

 俺は困り顔の店員から釣りを受け取ると、慌てて彼の後を追った。

  

「ちょっと! 待てよ、セフィロス!」

「遅いぞ、クラウド」

「遅いって、アンタなぁ! ほら、おつり!」

「……そんなものを受け取ってきたのか、マメな奴だ」

「マメとかそーゆーんじゃないだろ! だいたい品物の金額より釣りの方が遙かに多いじゃないか」

 高級紳士服とは言っても、さすがに札束では釣り銭のほうが多いに決まっている。

 

「ほら、セフィロス」

「いらん。それはおまえが持っておけ。この世界で生活するには必要なものだろう」

「……そ、それはそうだけど」

「私には不要なものだ」

 まったく受け取る気のなさそうなセフィロスを見て、俺もあきらめた。片手で掴むにはやや多い札の束を、無理やりポケットにねじ込む。

 捨てるわけにもいかないし、セフィロスはしばらくあの家へ滞在するという。そうなれば必要なものも出てくるかもしれない。その分に当てるつもりで。

 

 そんなことを考えて、俺はくすっと自嘲した。

 

 大概のことには動じなくなったと思っていたが、まさかこんな風にセフィロスと歩く日が再びやってくるとは。しばらくの間とはいえ、彼と一つ屋根の下で生活する日が来ようとは……そしてこうしてふたりで、彼の服を買いに来るなんて……

 

「なにがおかしい、クラウド」

「え、あ……いや、何でもないよ」

「おかしな奴だ」

 彼が言った。

「アンタに言われたくないね」

「……しばらく会わないうちに、ずいぶんと生意気になったものだな」

「なんだよ、それ。勝手なことを言うな」

「昔はすぐにビービー泣いていたくせに」

「子どもの頃のことを言うなッ」

 カッと頬が熱くなる。俺の上気した顔を見ると、セフィロスはフフンと鼻先で笑った。