コスタ・デル・ソルへようこそ。 
〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&セフィロス〜
<9>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 まったく、あくせくとご苦労なことだ。

 

 クラウドはデリバリーサービスの仕事を営んでいるらしい。

 無理な仕事の仕方をしているわけではなかろうが、コスタデルソルというバカンスくらいしか取り柄のない僻地では、それなりに重宝されているようだ。

 

 クラウドがデリバリーの仕事に出ると、ようやく室内に静寂が戻る。ヴィンセントはそのまま台所に戻り、食堂の後片づけをしているようだ。

 部屋に引き取ってもよかったのだが、私は机に放り出された新聞を手に取り、居間のソファに行儀悪く寝転がる。

 バサバサとページを手繰るが特に面白い記事もない。つらつらと字面をたどっているうちに、眠気が起きる。十分に睡眠をとったつもりではあったが、「素」のままの肉体は不便なものだ。

  

 どうやら、私はそのまま眠ってしまったらしい。

 庭からの採光が揺らめいたせいで、私は気がついた。

 驚いたことに、もう昼を過ぎたところだった。4時間以上眠っていたことになるのだろうか。

「む……?」

 起きあがると、身体の上になにか掛かっている。大判の毛布だ。

 辺りを見回してもヴィンセントの姿が見えない。

 なんとなく……そう、本当に他意もなく、その姿を捜す。すると、彼は庭で干し物を取り込んでいるところだった。

 

「おい」

 声を掛けてみるが気づかない。今日は風が強いようだ。

 時折、ビュゥとするどい音をたて、常緑樹の木の葉さえ散らせている。

「あッ……」

 ヴィンセントが小さな声をあげた。留め具をはずしたシャツが風にあおられ飛んだのだ。

 私はそれを片手で、つかまえると、ようやく奴はこちらに気づいたようだ。

「あ……セフィロス……」

「目が覚めた」

「あ、ああ……それ、すまない……」

 バスケット一杯の荷物を、両腕で抱えながらこちらに走り寄ってくる。シャツを受け取ろうと、無理に手を伸ばすのを無視し、私はヤツの抱えていたバスケットを乱暴に取り上げた。そのまま室内に置いてやる。

 

「あ、ありがとう……」

「早く入れ」

「え? あ……」

「何だ、まだなにか、外ですることがあるのか?」

「い、いや」

「ぐずぐずするな」

「あ、ああ」

 そういうと、ヴィンセントは玄関口のほうへ、とろとろと走っていった。居間のこの場所からでも出入りできるのに、本当にこまめなヤツだ。

 そんなことを思っていると、パタパタと軽い足音が近づいてきた。

「待たせて、すまない。遅くなってしまったが昼食の支度が出来ているから……」

「おまえは?」

「え……あ、ああ、私はもう済ませているから」

 こいつの済ませているというのは、いったいどの程度の食事をいうのだろう。トマトジュース一杯飲んで、満腹とでもいうのではなかろうか。

 まぁ、ここでツッコンでも仕方がない。どうせ、またオドオドと困惑させるだけだろう。

 

「寝たら腹が減った……何だか、今日は食って寝ているばかりのような気がする」

「……その……昨日の今日だから……少し疲れているのではないか」

「それはおまえの方だろう。招かざる珍客に対してな」

 クッと喉元で笑う。なにか言い返してくるかと思ったが、ヤツは黙ったままだ。

 そんなさまを見ていると、むらむらと嗜虐心が頭をもたげてくる。私はじっとヤツを睨め付けると、ゆっくりと口を開いた。

 

「……クラウドがおまえに執着するのが少しわかる」

「……え?」

「おまえの外見は十分鑑賞にたえる」

「え……あ……」

「そして、その自信なさげで、不安定な有り様」

「…………」

「おまえの細い喉から迸る悲鳴は、さぞ聞き応えがあるだろうな」

 ツ……と私は手を持ち上げた。ゆっくりと指先を、ヤツの喉元に突きつける。

「セ……セフィロス……?」

「その紅い瞳から流れる涙は、ひどくそそるだろう」

「……寄らないでくれ」

 私が足をすすめると、ヴィンセントは後ずさりした。

「女のように白い肌、肉の薄い身体……あまり骨張っているのは好みではないが、試してみるのも一興だな……」

「…………」

「ヴィンセント……」

 私はズイと一挙に彼との距離を縮めた。ヤツの血の色の瞳が、怯えを宿して大きく見開かれる。その無力で哀れな有様に私は満足した。

 

 私は、そのまま、身を強ばらせるヤツの傍らを通り過ぎて、ダイニングチェアに腰掛けた。

「腹が減った。早くしろ」

 気の毒な青年は、未だ血の気の引いた面もちで、その場に突っ立ったままであった。