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〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&セフィロス〜
<10>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 午後2:00過ぎ。

 ヴィンセントが3mほど離れたところから、声をかけてきた。脅かしすぎたようだ。

「セ、セフィロス……」

「ビクビクするな、鬱陶しい……なんだ、どこかへ行くのか?」

 私は訊ねた。ついつい詰問するような物言いになってしまう。

 ヴィンセントは服を着替えていた。あっさりとした紺のシャツ(相変わらず長袖だが)に黒のスラックスを穿いている。家事をしていたときは、一つに束ねていた髪も櫛を通して、そのまま背に流してある。

 

「あ、ああ、買い物に……すまないが、留守番を……」

 途切れがちに言葉を紡ぐが、私は横入りで言ってやった。

「そうか、私も一緒に行く」

「えッ……?」

「こうしていても退屈だからな。同行してやると言っているのだ」

「……で、でも」

「なんだ、なにか不都合でも?」

 じろりとにらむと、彼は口を噤んだ。

「では行こうか」

「あ……待っ……」

「案ずるな、虫けらどもなど殺しても面白くもなんともない。おまえと一緒に歩くだけだ」

「……わ、わかった」

 ようやく納得したのか、ヴィンセントは頷いた。

 

 外に出ると、さきほどの強い風はおさまり、心地の良い海風が髪をなぶる。

 この時刻、日差しがまだ強い。私にとってはどうということもないが、このひょろひょろした青二才が倒れるのではないかと不安になる。

 ……ああ、別にヤツの身がどうなろうと知ったことではないが、面倒ごとはご免だ。

 ふたりで並んで歩いていても、ヤツはまったく口を開きはしない。

 

「おい……暑くないのか?」

 なにも話すことがないので、そんな決まり切ったことを聞いてみる。ちなみに私は昨日と同じ、ノースリーブを着ている。

「え……あ、ああ、少し」

「フン、倒れるなよ」

「……大丈夫だ」

「何処まで行くんだ?」

 私は訊ねた。海岸沿いにずっと歩いているのだ。

「ああ、ここを曲がると天気のいい日は、朝から露天商が出る」

「露天……?」

「……野菜や、果物……魚、塩漬けの肉……大抵のものは揃う」

 そう説明すると、ヴィンセントは、海岸から離れ通り沿いの方へ歩き出した。歩幅が狭いのでイライラするが、目的地を知っているのはコイツだけだ。仕方なくペースを合わせてやる。

 だがそんな苛つきもすぐに終わりを迎える。すぐに目の前の風景が目的地だと知れる。 庶民的な公園のあちこちに、小さな見世が出ている。「店」というにはおこがましいような規模だ。

「ずいぶんと雑多な場所だな」

「大きな店より、鮮度もいいし、買い物しやすいんだ」

 ……どこが? 

 この煩雑な場所のどこがなのだろうか?

 

 思わず、そう言い返してやろうとしたところ、ヴィンセントは奴にしてはめずらしい、確固たる足どりでタカタカと進んでいった。致し方ないので後を追う。

 中年の女がやっている小さな八百屋へ行き着く。するとヴィンセントが声を掛ける前に、その女が嬉しそうに立ち上がる。

 私は少し離れたところでその様子を見ていた。

 

 レタスにオニオン、トマト、キュウリ……私に分かる野菜はその程度だ。それ以外にもよくわからない野菜をいくつか注文するとヴィンセントは会計をすませた。その後で、女がすばやく何かを包んだつつみを押しつける。

 恐縮して首を横に振るヴィンセントだが、あのとろくさい男が中年女性に勝てるはずもない。無理やり押しつけられ、それに礼を言い、奴は戻ってきた。

「す、すまない……待たせてしまって」

「別に。勝手についてきたのは私だ」

「あ、ああ」

「他には」

「ええと……あ、こっちだ……」

 そういいながら、野菜を詰め込んだ袋を持って、ヨタヨタ歩き出す。その頼りなげな足取りがひどく鬱陶しい。

「おい、貸せ」

「え……? あ……」

 奴が何か言う前に、私は片手で大袋をとりあげた。

「セ、セフィロス……その、重いだろうから……」

「重い? こんなものがか? 貴様はよほど軟弱に出来ているのだな」

「…………」

「落ち込むな。次の目的地へ行くぞ」

「あ、ああ」

 次は果物らしい。

「え、ええと、セフィロス……」

 おっかなびっくりといった様子で私に声をかけるヴィンセント。

「何だ?」

「そ、その、なにか欲しいものはないか? 好きな果実は……」

「グレープフルーツ」

 答えてもらえるとは思っていなかったのだろう。ヴィンセントは少し驚いたように私を見たが、目があった途端、またびくびくと顔をそらせた。

 

 そこの店の店主も、ずいぶんとヴィンセントに愛想がいい。雑談などしかけるが、ヴィンセントは私を気にしているのだろう。ここでも無理やりおまけを押しつけられて、戻ってきた。

「ずいぶんと人気者らしいな、おまえは」

「いや……そんなことはない」

 ボソボソと応える。

「他には?」

「いや、これでお終いだ……他のものは買い置きがあるし……」

「そうか、帰るか?」

「あ、ああ……他にセフィロスの行きたいところがあれば……」

 奴がそこまで言いかけた時であった。

 

 浜辺のほうから、するどい悲鳴が聞こえた。