〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<13>
 
 ティーダ
 

 

 

「スイマッセーン! 誰かいませんか〜ッ!?」

 オレは大声で人を呼んだ。もう、退屈で退屈で致し方がなかったからだ。

 セフィロスとかいう人は、オレをかっさらって連れてきたものの、目当ての人物と間違えたと見え、平気で放置プレイしやがった。

 綺麗な顔して、やることは無神経だ。ま、オレのオヤジには負けるだろうがな。

 なんてたって、ジェクトは、無神経が服着て歩いてるっつーか、なんつーか……

 

 ああ、アホくさ。こんなところでオヤジのことを考えても仕方がないっつーの。

「おーい! セフィロスって人〜ッ! 放置プレイすんなよーッ!!」

 オレは妙に綺麗な水晶の部屋のど真ん中に置き去りにされたのだ。

 もっとも、暴れられないよう、水晶柱に両腕を縛りつけられていたが。

「おーい! ちょっと〜ッ!!」

 ブリッツで鍛えた大声を上げる。大歓声の中でプレイするブリッツーボールの選手たちは、基本的に声が大きい。

「ねぇってば〜〜ッ! おーい、だれかぁ〜ッ!」

 腹に力を入れて、思い切り怒鳴ってみた。自分の声で耳が痛くなりそうなほどに。

「……騒々しいぞ、小僧」

 いったいどこから現れたのだろう。

 オレをこの場所にさらってきた当の本人が、いつの間にか暗闇の中から姿を現した。

「あーッ! ちょっと、アンタ! どういうつもりッスか! オレをこんなところに放っておいて!」

「……おかしな子供だな。恐ろしくはないのか?」

 セフィロスは冷ややかに嘲笑した。ぞっとするほど綺麗な顔をゆがめて。

「そりゃ、不気味ッスよ。っつーか、ひとりで置いていかれるほうがイヤっすね!」

「…………」

「アンタ、オレに用があってさらったんじゃないんスか? そうじゃないなら帰してくれませんかね!」

 無理とは思いつつも、そんなふうに言ってみた。

 セフィロスは無言のまま、長刀を振り上げる。いきなり斬りつけられるのかと身をこわばらせたところ、彼が断ち切ったのはオレの両手をつないでいる鎖だった。

「……どこへなりとも去るがいい」

 どうでもよさそうにセフィロスは言った。

「あ、いや……その……どーもス」

「フン……」

 オレの礼の言葉なんか耳に入っていない様子できびすを返す。

「あ、あのッ! ちょっと……」

「…………」

「待って、待ってよ!」

「……帰り道なら、向こうへ真っ直ぐだ。さっさと消えるがいい」

「いや……あの……ッ! そうじゃなくて!」

 オレはさっさと歩いていくセフィロスの背後にタックルをかました。それこそブリッツでするように。さすがに不意打ちだったのだろう。

 長身の彼は倒れることはなかったが、バランスを崩し片膝を着いた。

「……なんだ、貴様は!」

「いや、あの、えーと。……あ〜、いや、アンタがさらってきたんでしょ?! 話をさせてもらう権利くらいあるッス!」

 オレは粘った。

「…………」

「いや、だから……あの……」

 氷みたいな蒼い目でにらまれると言葉が出なくなる。

 クラウドと同じ色なのに、彼の瞳のほうがずっと暖かみがある。セフィロスのは、冷たく澄んでいて、無機質な印象があるせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……言いたいことがあるなら早くしろ。そうでなければ、すぐに消えろ」

 彼の物言いはどこまでも冷淡で素っ気ない。

 この人……オヤジ以上にデカくて、威圧感がすごいのに、首から上はすごく綺麗なんだ。

 クソオヤジみたいなヒゲも傷もなくって、肌なんか真っ白で…… 決して女の人みたいってわけじゃないんだけど、高い鼻梁とか濃い睫毛なんか見ていると変な気分になってくる。

 あ、いや、好みとかそんなんじゃないから。オレ、男には興味ないッスから。

 オレの好きなのはユウナだけだからね。今はちょっと離れてて、会えなくなっちゃってるけど、気持ち変わんないから!

 だいたいね、いくらキレイつったって、男にはオパーイはありませんから、コレ。基本貧乳ですからね。

 その分よけいなモノが着いてるだけですからね。いや、ホント。

「……何なのだ貴様は…… 唐突にくっついてきたと思えば、いきなりヘラヘラと……気色の悪い」

 心底不快そうな声に、オレはハッと夢の世界から帰還した。

 いくら顔が綺麗な人だからって油断はできない。この人はカオス側の男…… しかも、あんなに必死に説得したクラウドを、一蹴した冷血漢なのだから!

「いや、アンタ! オレ、ちょっと言いたいことがあるッス!」

「…………」

「さっきのアンタの態度は何なんスか!?」 

 説教モードに入ったオレに、冷ややかな一瞥をくれる。まったく真面目に聞いてない様子だ。

「ちゃんと聞くッス!」

「おまえと話をすることは何もない。さらってこられた苦情なら、おまえのところのコスモスとやらに言うがいい。おまえがコスモスの戦士でなければ、この私と会うこともなかったのだからな」

「……そりゃそうかもしれないけど…… あ、いや、オレが言いたいのはそんなことじゃなくて!」

「では何なのだ。……おまえのような輩と話をしていると頭が痛くなる」

 吐き捨てるように言いやがって……!

 そりゃこっちのセリフだっつーの! いくらツラだけ美人でも、このティーダ、そう甘くはないッスよ!!

「決まってんだろ。クラウドのことッスよ。……あいつが言っていたこと、ちゃんと聞いてくれた?」

「…………」

「……この前さ。夜、クラウドとスコールが話してるの聞こえたんス」

 クラウドがスコールに打ち明け話をしていたときだ。

 オレとジタンはとなりの寝室で寝ていた。ちょうど壁越しにクラウドと隣り合う形だったので、壁に耳をくっつければ、なんとか言葉が拾えるような感じだったのだ。

 あ、いや、誤解されないように言っておくが、別に盗み聞きしようと思ってのことではない。

 最初はぼそぼそと話し声が聞こえるな、って程度だったんだけど、なんとなく深刻そうな雰囲気だったから、つい耳を澄ませてしまったのだ。

「クラウド、オレたちの中で一番年上なんスよ」

「……到底そうは見えないがな」

「まぁ、アレ……そうッスね」

 と、セフィロス。こんなところばかりは、意見が合ってしまう。

「あ、いやいや、やっぱし、年上ッスよ。普段は。戦闘能力は高いし、判断力もあるし。……だから、夜、あんなふうに心細そうに話していたのが気になったんスよ」

 そう前置きをし、決して故意に盗み聞きしたのではないと言い置いた。

「アンタのこと、今も昔も大事に思ってるって。セフィロスには事情があったんだってさ」

「…………」

「だから、もう二度とアンタと敵対したくないって。どう話せばわかってもらえるのかってさ。そしたらスコールが無理に闘う必要はないって言ってた。自分だったら、一度敵になった相手に情をかけることはできないだろうけど、クラウドはやさしいからアンタを憎めないはずだって慰めてたんスよ」

「ほぅ……それはそれはおやさしいことだな」

「茶化さないでちゃんと聞けよ! アンタ、ホントに現世での記憶ないんスか? クラウドはあんなにはっきり覚えているのに!」

「現世での記憶? ……私は一度あの子の手にかかって死んだ」

 ショッキングな内容を、セフィロスは何の躊躇もなく口にした。まるで天気の話のように。

「う、うそ……」

「今、こうして生命が維持できているのはリユニオンのおかげだ」

「リユニオン……?」

「……おまえには関係のないことだ、小僧」

「小僧じゃないって! オレはティーダ! な、アンタ、セフィロスさん。もう一度ちゃんとクラウドと話して……」

 必死に言いつのるオレの言葉を遮ったのは、非常に下品で不快なダミ声であった。