〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<15>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

「……どこに行くつもりだ」

 その声に、俺よりも小柄な背中がビクリと跳ねた。

 別に驚かせるつもりではなかったのだが。

「あ、ご、ごめん。起こしちゃった?」

 クラウドが頭を掻きながらそんなふうにごまかした。

「……ちょっとね、おトイレ」

「わざわざ剣を持ってか?」

「……あ、ほら、なんか不用心だしィ」

 ここまでウソの下手くそな人物もめずらしい。

 この土地にはカオスの力は及んでいない。間違いなく安全な場所なのだ。しかも手洗いは当然屋内にある……

「不安なら俺が一緒に行ってやる」

 そう言って寝台から起き上がろうとすると、ぎょっとした様子で手を振った。

「え、い、いいよ、別にひとりで平気だもん。子供じゃないんだし!」

「武器がないと不安なのだろう。俺が外で待っていれば、別にそんな重いモノを持参する必要はなかろう。ほら、剣をよこせ」

「う〜……」

 苦虫をかみつぶしたような表情になるクラウド。

 だいたいコイツは行動がめちゃくちゃだ。ティーダのことで、気持ちが焦るのは理解できるが、薄っぺらいパジャマ一枚に、剣を引っ担いでセフィロスのところへ赴くつもりだったのか?

 ……失笑されるのがオチだと思うが。

「……スコール、陰険……」

 上目遣いで俺を睨み付けると、ボソボソとクラウドがつぶやいた。

 なにもそんなに恨みがましい眼差しで見つめなくても……

「クラウド…… この前も言ったはずだぞ。ティーダのことはおまえのせいではないし、助けに行きたい気持ちも理解できるが、先走っても事態は好転しない。こんなときにこそ、冷静な行動が肝要なんだ」

「もうッ! 漢字ばっかのセリフでお説教しないでよッ! 俺の方が年上なのにーッ!」

 と、到底年長には思えぬ様子で地団駄を踏んだ。

「だって……じっとしてらんないんだもん。みんなは俺のせいじゃないっていうけど…… でも、俺がセフィと闘うの迷ってたから…… あのとき、ちゃんと相手になっていれば、少なくとも無関係のティーダがさらわれることなんてなかったはずだもん……」

 ぐしっと涙目になってつぶやく。

 彼は論理的思考ができなくなると、語尾が『だもん』という幼児言葉になるのだと気づいた。

 

 

 

 

 

 

「クラウド、剣をよこせ」

 もう一度そういうと、観念したのか彼は手にした大剣を大人しく手渡した。

 俺はそいつを丁寧に元の場所に戻すと、クラウドの肩に触れた。

「冷たい。……体調を崩すようなことがあれば、それこそティーダを救い出すどころじゃなくなるぞ」

「……なんだよ……もう……! スコール、怒ってばっかし……!」

 クラウドはとうとう本格的にベソをかく。

 ……いや、別に怒っているわけではなく、一応俺としては理路正しく説明しているつもりであるのだが。

 皆の中で最年長だというプレッシャーもあったのだろう。セシルやジタンの前では必死に矜恃を守っていたのだ。だが、俺とふたりでいるときは、素の顔をのぞかせる。おそらく未来の俺を知っているという同胞意識がそうさせているのだと考えるが。

「……怒っているわけではない。心配してるんだ」

「……心配すんならティーダのことしてやれよ! 今頃、どんな目に遭っているか……」

 クラウドがぶるりと身を震わせた。

 彼がどんな想像をしているかは知らないが、正直なところ、ティーダのようなタイプはセフィロスの興味を引かないだろう。いや、むしろ大騒ぎして辟易とされる状況ではなかろうか。

 そして、カオスの側にはティーダの実の父、ジェクトがいる。

 彼は何故カオス側に身を置くのか、理解できないような人物なのだ。実際、『おもしろそうだから』と答えたらしい。

 万一、セフィロスがティーダに手出ししようとしても、ジェクトが止めるだろう。

 ……いや、手出しというのはそういうことではなくて。

 

「……なんだよ、何、百面相してんの、スコール」

 グズグズと鼻をすすりながらのクラウドに指摘されてしまった。

「いや……失敬。なんでもない」

 と咳払いでごまかしておいて、俺は言葉を続けた。

「これは俺が勝手にそう感じたことなんだが…… セフィロスのようなタイプの人間は、自分の興味ある対象しか相手にしない。わざわざあのティーダを嬲るような真似はしないだろう」

「…………」

「ティーダを連れ去ったのは、視覚しそこなっただけだ。……つまり、同じ場所にいたおまえと間違えたんだ。似たような金髪だし、あのとき、ティーダはおまえを守ろうと必死にかばっていたからな」

 その言葉にまたクラウドの眉がゆがむが、俺はかまわず言葉を続けた。

「ティーダはいいヤツだが、あまりに健康的なタイプすぎる。セフィロスにとっては興味の対象外だろう」

「……どーせ、俺は不健康ですよ。世俗の垢でドロドロですよ、コノヤロー」

 ブツブツと頬を膨らませるクラウド。泣きべその跡があるから、うす桃色のその部分がてらてら光っている。

「……そうは言っていないだろう。それにおまえは俺より年長なんだし、ある程度世俗的な分野に長けていたとしても……」

「年長なんて思ってないくせに……」

 どうもひがみっぽくなってるらしい。

「いや、だから……俺が言いたいのは……」

「…………プッ」

「おい……!」

「プッ……ハハハ、ごめん。スコール、ホントに困った顔するんだもん」

 いや、本当に困惑していたんだが……

 だれだって、泣き出された後、さらにいじけられたら対応に困るだろう。

「……ゴメンね。ティーダのこと、心配で仕方ないのはホントだけどさ…… 今、俺がのこのこ出て行っても何にもならないよね。かえって他の皆の迷惑になるだけでさ」

「クラウド……言っただろう。ティーダは大丈夫だ。万一本当に敵側とぶつかったとしても、そう簡単にやられるタマじゃないさ」

「……うん。くっしゅん!」

 案の定くしゃみをし出すクラウド。彼は南の島からこの場所へ紛れ込んだといっていたが、この世界の『夜』は南国のそれとは大分違うはずだ。

「ほら、言わんこっちゃないだろう! さっさとベッドに戻れ!」

「……ハイハイ」

「『ハイ』は一回だ。ふくれている暇があるなら、即座に行動に移せ」

「もぉ〜、軍隊じゃないんだからさ〜。そんなに怒んなくてもいいじゃん」

 クラウドがトロトロと寝台の方に戻るが、彼は大剣を引っ担いで外に出ようとしていたのだ。

「クラウド、手を洗ってこい。冷えたのなら、手洗いも済ませたほうがいいな」

「なんでそう子供扱いすんだよ〜。わかったよ、もぉ〜」

 まさしくふて腐れる子供そのもので、ぐだぐだと文句を言っていたが、さすがに真夜中である。終いには大人しく指示通りの事柄を済ませ、ずるずるとだるそうに足を引きずり、ベッドにどさりと腰を下ろした。

「ちぇっ……」

「『ちぇっ』じゃない。今後は何かやらかす前に相談するように。……言っておくが、おまえのウソはすぐにバレるぞ」

「あー、もう、うるさいうるさいッ!」

 クラウドは勢いよくベッドに横になると、毛布を頭から引っ被った。

 ……やれやれ、ようやくこれで俺も眠れる。

「スコール、やっぱし寒い」

 にょこにょこと顔を出してボソリと文句を垂れるクラウド。

 ……いい加減大人しく眠りについてくれ。

「だから言っただろう! もう一度湯で身体を温めて来た方が……」

「ヤダよ、めんどくさいもん。一緒に寝て」

「……子供扱いをするなと怒ったのはおまえのほうだろう」

 俺はごく当然の切り返しをした。

「……いいじゃん、ちょっとくらい。別にHしようって言ってんじゃないんだし」

「エッ……チ……」

 絶句する俺の姿を見て、彼は勝ち誇ったように微笑んだ。ずっと叱られていたのに、ここでようやく一本取った!という気分なのだろう。

「寒いから一緒に寝るの。ほら、そっちいって!」

「お、おい……」

 子犬が穴を掘って食い物を隠すように、彼はしゃかしゃかと布団に空洞をつくり、そこにすっぽりと納まったのであった。

「うん、スコールの体温で暖かい! 上等上等!」

「……せまいだろ」

 俺は低くつぶやいたが、あたりまえのように黙殺された。

 だが……

 だが、クラウドのいうとおり、二人分の体温は狭いベッドを心地よく暖め、やや不眠症ぎみの俺も、この晩はぐっすりと眠りこんだのであった……