〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<16>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

「あ、どーも、ただいまッス」

 ……翌朝。

 皆の起床を促し、朝食づくりをしている最中に、思いがけない来訪者があった。

 

「ティッ……ティーダ!!」

 ジタンの素っ頓狂な叫び声に、俺たちは大急ぎで玄関口に集合してしまった。

 吹きこぼれそうな鍋を放置したままで、だ。

「ティーダ! マジでティーダかよ!」

「そうッスよ〜 ……あ〜、ゴメン、みんなメーワクかけて」

 ぼりぼりと赤茶けた金髪を掻いている最中に、クラウドが飛びついた。まさにピョンと跳ねて抱きついたのだ。

「わっ!ク、クラウド?」

「ティーダ! よ、よかった…… お、俺……俺……」

「クラウド?  どうしたんスか?」

「どうしたじゃないだろ…… おまえ……俺のことかばって…… さらわれて……」

「……クラウドは、ずっとおまえの身を案じていたんだ。もちろん、他の皆もだが」

 俺は傍らから言葉を足した。ようやくティーダは合点がいったようで、今度はひどく困惑した面持ちになった。

「あ……そっか。クラウド、ゴメン。そんなに心配させちゃって。でも、クラウドのせいじゃないんだから、そういう意味で気にすることはなかったんスよ」

「バカッ! 気にするに決まってんだろ! 万一のことがあったらどうしようって…… でも……本当によかった……」

 そんなやりとりをしている最中に、奧のキッチンから、ブシューという不穏な音が聞こえた。放置してしまった鍋が、ついに噴きこぼれたのだ。

「しまった!」

「スコール、お鍋! 火、消していい?」

「熱いから気を付けろよ! ティーダ、食事はまだなんだろう? 詳しい話は朝飯のときに聞かせてくれ」

「おう! いや〜、超グッドタイミングっす! ちょうど腹減っちゃって」

「なんだよ、もう現金なヤツだな! 俺、すっごく心配したのに!」

 涙をぬぐいつつ、クラウドが抗議する。もちろん、本気で怒っているわけではない。

 昨夜はたったひとりで、敵地に赴く心づもりでさえあったのだ。

 ティーダの無事な帰還が嬉しくて、気持ちが抑えきれないのだろう。

 

 

 

 

 

 

「っつーわけで、あっさり解放してくれたんス」

 話をしながらシチューをかっこむティーダ。どちらもペースが落ちたりはしない。

「……その……なにか問いただされたりとか……そういうことは……?」

 慎重に確認するセシル。俺も訊ねようと思っていたことだ。

 想像通り、クラウドとティーダをあやまって攫ったという事実はわかったが、敵方の彼らからしてみれば、何か情報を得ようとするのが道理だと思うのだ。

「いや、全然。それどころか、セフィロスさんにさっさと帰れって言われたッス」

 口を尖らせて、不本意そうにティーダは言った。

「セフィ…… 勝手なコト言ってるな! 自分で攫ったくせに」

 クラウドが憤懣やるかたなくそうつぶやいた。だが、セフィロスがティーダを傷つけなかったことに安堵してもいるのだろう。複雑な表情だ。

「な……セフィ、どんな感じだった? なんか気づいたことなかったか?」

「いやぁ〜、あの人、ものすごい綺麗な人っすねェ〜、マジびびったッス!」

「……は?」

 クラウドがおかしな声を出した。

「いや、顔近づけられたんスけど、目ェ超切れ長、睫バサバサ。肌とか雪みたいに白いんだよなァ。シミどころか、ほくろなんかも見つからなかった。髪もサラサラで、なんか大人っぽい……いい匂いがしてたッス」

「……おまえ、何いってんの?」

 クラウドが据わった眼差しで低くつぶやいた。

「いや、だからセフィロスさんがどんな感じだったかって……」

「アホか! 誰がヤツの容姿の話なんざしてんだよ!」

「ま、まぁまぁ、クラウド……」

 セシルが苦笑しつつ、いきり立った彼をいなす。

「それで、ティーダ? セフィロスさんはなんて言ってた?」

「いや〜、だから、オレのことは間違いだったって感じで、すぐに帰れって……」

「他になにか? コスモスの話や、その……クラウドについてのことは何か言ってなかった?」

 穏やかに先を促すセシル。クラウドなどは全面にイライラを表している。

「いや、別になんにも」

「……おまえ、何しに行ったの? 俺の心配はなんだったんだよ!」

 ふるふると拳を振るわせ、クラウドは眉をつり上げた。

「いや、だって行ったっつーか、攫われただけだしィ」

「あー、イライラするッ! お、俺がどんだけおまえのこと……! もし、危害を加えられたらどうしようって…… 万一、し、死ぬようなことがあったら……って!!」

「クラウド、抑えろ。ほら、落ち着け」

 今にも殴りかかりそうな彼を、片手で抱き留めた。

 クラウドは瞳に涙を溜めている。

 彼がどれほど己を責めて、ティーダの身を案じていたのか、俺はよく知っていたのだ。

「そんなのに、テメーはセフィのツラに見とれて、のんびり帰ってきたってのかよ! こ、この……!」

「……ほら、もういいだろ、クラウド。なによりティーダの身が無事だったのだから、それを喜ぼう」

「ス、スコール…… そ、それはそうなんだけど……」

 激した己を恥じるように、クラウドは俯いた。耳まで真っ赤だ。

「ティーダ。おまえが向こうで会ったのは、セフィロスだけか? 他のカオスの軍勢には……?」 

 後を引き取って、俺が問う。

「あー、あと、クソオヤジに会った…… クソ、ヤなこと思い出した」

「クソオヤジ?」

「ジェクトさんのことだろう?」

 セシルが名前を教えてくれた。

「いいんだよ、クソ親父のことなんか! なんつーか、セフィロスさんはほとんどひとりで行動してるみたいだった。親父が来合わせたのも偶然だったようだし、他には誰とも会わなかったッス」

「……そうか。ひとりで」

「セフィは昔から単独行動ばっかだったよ」

 クラウドが苦々しい思いをかみ殺すように、低くつぶやいた。

「クラウド?」

「セフィはいつだって…… ひとりで、全部決めちゃって……他人の気持ちなんかどうでもよくって!  みんなからあこがれられていたくせに、そんなの全然無視でさ。俺だって……側にいた時期もあったのに……何も相談なんてしてくれなかった」 

 グシッとクラウドの整った顔が歪んだ。