〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<43>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 刺されただけでなく、傷口は貫通している。

 弛緩した身体から、ゆっくりと血が流れ出す。

 それがじわじわと地面に染み込んで行く様を想像し、俺は両腕に力を込めた。

 瞬間、稲妻が走るような痛みが胸部を襲った。

「グ……ガッハ……ッ!」 

 口から鮮血が吹き出した。

 

 ……肺をやられたのか……?

 

 そう考える。

 だが、もろに肺に風穴を開けられていれば、呼吸すらままならないはずだ。

 一部を損傷した……そう判断するのが正しいのだろう。

 

 もう……長くはもたない。

 戦いを優位に運ぼうと試行錯誤した結果がこれだ。

 もともと、『魔女』という人外の特性をもったあの女のほうが、遥かに有利なのだ。

 ああして、いつまでも空に浮かんでいることもできるし、遠距離攻撃も自在、強力な近距離攻撃を仕掛けたいときだけ、『空を飛翔』して、間合いを詰めてくる。

 

 ……チャンスは、ヤツがとどめを刺しに迫って来たとき……!

 

「……ぐ……ぐはッ!」

 血が顎を伝わり、胸元を汚す。

 それを拭うと、俺はガンブレードを支えに、起き上がろうとした。

「おやおや、そこで寝ていれば、楽に逝けたのに……愚かな……!」

 魔女の嘲笑が響いてくるが、顔を上げてそれを見ることに体力を使おうとは思わなかった。

「よいでしょう。後ろを晒して死ぬというのは、剣士にとっては屈辱……そう聞いたことがあります。もっとも私から見れば、非常にくだらぬこだわりだと思いますけどね」

「…………」

 ヤツの長口上も、まともに耳には入ってこない。

 今のこの状態で、どうすれば、あの魔女と相打ちにできるか。

 俺の有様に、油断して距離を詰めてきたとき…… それを見逃せば、すべてが終わる。

 見極められなければ、犬死にだ。

 

 

 

 

 

 

「ぐ……ぅ……」

「もう、口を聞く余裕もないようですね。おまえはよく戦いました。私の翼に一太刀入れたのは、おまえが初めてです」

「…………」

「その敬意を表して、私が自らの手で引導を渡してあげましょう。……そして、そこの……『元・英雄』。カオスの戦士としての自覚なき貴方も、すぐに後を追っていただきます」

 魔女のねっとりとした声が、身体にまとわりつく。

 

 そうだ、セフィロス……!

 セフィロスには、ケフカを食い止めてもらっている。

 手を煩わせたにもかかわらず、こんな無様な俺に呆れていることだろう。

 

「……それとも、今ならまだ、カオス殿に取りなしができましょう」

「……何が言いたい? 淫猥な魔女」

 セフィロスの声が耳に入った。

 声自体が低くて、さらに寡黙な彼の発言はほとんど聞き取ることができなかったのだ。おまけにケフカという道化が、ひどく騒々しい輩であったから。

「そこで瀕死になっている男……スコール・レオン・ハートの止めを刺し、それをカオスに表明するのです。さすれば、貴方の罪は許され、我が方に戻ることができましょう」

 慈悲深い女神を気取っているのか、情感たっぷりに魔女が口説いた。

 

「ほぅ…… 私にこの男を殺せと」

「そうです。まぁ、もう、ほとんど死んだも同然。そうして剣を杖に立っているのがやっとなのですから」

「……断ると言ったら?」

 セフィロスが嘲笑しつつ訊ね返した。

 こんなときなのに、あくまでも冷静で余裕ある彼の声音が耳に心地よかった。

「『断る』? その選択肢は、貴方にとって得になるのでしょうか? ……このような弱者の集う場所に居るのは、いたずらに、時を無駄にするだけかと……」

「そうか……なるほど」

「魔女サマ〜! もう、いいじゃないッスか! この英雄、ひどいんですよ! ホレホレ見てくださいよ。ここんとこも、ここんとこも、全部、コイツに傷つけられたんザンスよ! ああ、ここなんか、こんなに血が出てて、超・イッタ〜イ! まぁ、その若獅子さんほどじゃないッスけど」

 騒々しいのはケフカだ。

 ぼんやりと視界に映ったのは、小刀で大樹に縫いつけられた、ヤツの姿であった。

 

「それはおまえが弱いだけです、ケフカ。早く立ち上がりなさい」

 吐き捨てるように魔女が言った。

「いや〜、だって、これ以上戦っても意味ないしィ。アタシの戦いじゃないしィ。立ち上がったら、大切なお洋服が、ビリビリになっちゃうもん」

「ふん、最初からほとんどやり合う気は無かったのだろう。手応えのない輩だ」

 セフィロスが嘲った。

「へ〜んだ!そんな挑発には乗らないよ。だって、ぼくちんが本気でやる必要なんてないんだも〜ん! 英雄とやらのお手並み拝見さ! おかげさまで、次にアンタに会うときには、銀色狼の捕獲ができそうさァ!」

「……ほざけ、この道化が」

「あ〜ん、睨んだ〜! コワイよ〜! ほら、早く! 魔女さま、さっさとスコールやっちゃって帰りましょう!」

 がなり立てるケフカ。

 銀色狼……セフィロスの『捕獲』だと!?

 どこまで下品なのだ、この道化は……!

 

 ググッと足に力を入れたところで、氷のつぶてが意志を折るように降り注いできた。

「ホーホッホッホッ! 無様だこと、スコール・レオンハート! いいわ、さぁ、この氷の中で眠りなさい。永遠にね」

 魔女が利き手に力を込め、上から下へと腕を下ろした。

 直接攻撃ではない……!

 この状態の俺ならば、遠距離魔法で止めが刺せると考えたのか。