〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<46>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

「くッ……!」

 わずかに身じろぎしただけで、背から腕……そして脚に激痛を感じた。もっとも深傷であったはずの左胸は、痛いというよりも熱かった。

「く…… はっ……はぁッ!はぁッ……!」

 たったこれだけの動作で、吐息が弾む。

 情けないことこの上ない。

「スコール!?」

 聞き慣れた声が間近で響く。

 さきほどのようにぼんやりとではなく、はっきりと誰なのかわかった。

「……ああ、クラウド」

 横になったまま、俺は彼の名を呼んだ。

 意識が明確になるに従って、痛覚も徐々に甦ってきたらしい。できることなら、半身を起こして話をしたかったが、それすら容易ではなさそうだった。

「……すまん、心配を掛けたようだな」

「本当だよッ! 俺がどんだけ心配したと思ってんのッ!? どんな思いで……祈ってたか……! アンタはいっつも、他人のことばっかり気に掛けて……ひとりで背負い込んで、大怪我してッ! 俺、怒ってるんだからね! 謝っても簡単には許さないからな!」

 眉をつり上げ、大声で俺を怒鳴りつける。だが、その頬は紅く上気していて、海の色の瞳も腫れているように見えた。

「……その……悪かった」

「スコール、そうやって謝れば俺の機嫌なんてすぐ直ると思ってる! 今度の今度こそは、もうホントに頭来た!」

 ついにボロボロと涙が頬を伝わり、それにつられるようにさらに激昂し始める。

 クラウドはころころと気分が変わりやすい輩だが、一端激すると天井を知らない有様なのである。

「わ、悪かった……泣きやんでくれ」

「知らない! スコールは全然、俺の気持ちわかってないッ!」

「まぁまぁ、落ち着いて、クラウド。それだけスコールにとって、君は大切な存在なんだよ。だからこそ、本調子ではない状態で、戦闘に加わって欲しくなかったんだ。……ちゃんと、クラウドにもわかってるよね?」

 セシルが静かな声でそう言い聞かせる。

 この場面を見れば、諭しているほうが年少だとは、誰一人として思いも寄らないだろう。

「……でも、怪我って言ったって、全然たいしたことなかったもん……」

「確かにそうだったかもしれない。でも、スコールも他のみんなも君のことを想っているからこそ、今は大事をとってもらいたかったんだ。ね?」

 と、いうようにセシルが周囲を見回す。

 ジタンとティーダが、首の骨が折れるんじゃないかというほどに、繰り返し深く頷く。漫画ならば『ブンブン』と効果音が入りそうなシーンだ。

「そうだよ〜! 女の子たちももちろん、俺なんて、ものっすご〜くそう思ってたよ! スコールなんて、目じゃないほどに!」

 ジェスチャー付きで宣う中年男め。

 ……消えろ、お調子者。

 心の中でラグナを罵るが、今はヤツと舌戦をする体力も精神力も持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

「だから、クラウド。ほら、機嫌を直して。君がそんな顔をしていたら、スコールが安心して休めなくなっちゃうよ?」

「……うん」

 今鳴いた鴉が……と思われるのが恥ずかしいのか、むくれ顔のまま頷いた。

 普段軽口を叩かないセシルが、

『俺がクラウドを大切している』

『皆、クラウドのことを想っている』

 そう言ってくれたのが、彼の心の琴線に触れたのだろう。ふくれ面はそのままに、照れくさそうに表情を隠すクラウドは……なんというか、いかにも俺の知る、彼らしかった。

「よかった、クラウドがちゃんと物事を理解してくれる大人で。ちゃんと他人の気持ちを酌み取れるんだね」

「……まぁな」

 と、クラウドが俯いたままつぶやいた。

 ジタンとティーダが、死にそうな有様で笑いを堪えている。直接見なくても、空気は読めるのだ。

 そして、問題のラグナだが……こいつは、デレデレと相好を崩し、いかにも『カワイイ〜』と、まるで小動物を眺めるような眼差しで、彼に見惚れている。

「……ティーダやジタンみたいに、力を見せるっていう戦いじゃない……魔女との対決だったんだもんな」

 ベッドの脇の椅子に腰掛け、クラウドが言った。彼の手がスッと伸び、俺の額に触れる。

 その手の感触が伝わらなかったのは、幾重にも巻き付けられた包帯のせいらしかった。

「スコール…… 俺、治るまで、ずっと着いてるから。包帯代えたり、ご飯作ったりしてあげるから」

「あ、いや、それは……」

「大丈夫。スコール、基礎体力あるし、すぐ治るよ! 栄養のある物食べて、ちゃんと身体を休めて。して欲しいことがあれば、いつでも言ってよ、ね?」

 

 ……頼むから、そっとしておいてくれ……

 

 喉元まで出かかった言葉を、なんとか飲み込み、

「……大丈夫だ。気を遣うな」

 と、かなり婉曲的な返答をした。

 クラウドは、俺の真意を読み取ることなく、『ずっと着いてる!』と笑顔で宣ったのであった。