〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 セフィロス
 

 

 

 

 

「ちょっと、何時まで寝てるのよ!」

 翌朝……いや、もう大分昼に近い時刻に、部屋の扉が乱暴に開かれた。

 このオレ様の部屋に、遠慮会釈なしに侵入してくるのはイロケムシくらいだ。

「起きてよ、セフィロス。ねぇ、ヴィンセント、知らない? 今朝は全然顔を見せていないんだよ」

「う〜……」

 オレは額に手を当てて、ベッドの上に起き上がった。

「例の薬のせいで、だいぶ、困ったことになったからね。散歩にでも出て気を紛らわせているのかもしれないんだけど、兄さんが出かける時間まで帰ってこないのはおかしいし」

「クラウドはもう出かけたのか?」

「当然でしょ、何時だと思っているのさ」

 イロケムシは腕組みして、さもあきれたようにそう言った。

「クラウドがいねーなら、まぁいいか。ああ、ヴィンセントはここにいる。昨夜、おしかけてこられてな」

「えぇっ!?」

 イロケムシが、形の良い眉を、きりきりと釣り上げて、ベッドのほうにやってきた。

「おい、ヴィンセント、お迎えだぜ」

 奴は未だにすっぽりと布団を被って眠り込んでいた。それほど疲れたのだろうか。やはり薬の影響が強いのかもしれない。

「ヴィンセント、ほら、起きろ」

 ぐいぐいと芋虫のようにふくらんだ布団を揺り動かす。

「……?」

 手に当たった感触が、妙に頼りなくてオレは首をかしげた。

 確かにもともとヴィンセントは細くて頼りない身体の持ち主なのだ。だがそれにしても、オレの手に感じた感触は、とうてい大人の男のものではなかった。

 

 

 

 

 

 

「おい、ヴィンセント?」

 オレはそのまま布団を引っぺがした。素っ裸ではなく、ナイトガウンを巻き付けてやったから、あられもない姿をさらすこともなかろう。

 そう思って、まくり上げたのだが……

 ヴィンセントが眠っていた、まさにその場所に、小さな子供が丸まっていた。

 いや、子供とはいっても、12、3才ではあろうが、紛れもない『少年』だ。

「ちょっと、セフィロス〜っ!」

 驚いているところ、いきなり胸ぐらを掴み上げられるオレ。般若のような形相でにらみつけて来るのはイロケムシだ。

「あなた、これ、どこの子!? どうみても、未成年じゃない! いったいどこから拐かしてきたのさ!

「か、拐かすだと!? 身に覚えがない!」

 迫力負けしそうになるが、なんとかそれだけは言い返す。オレが相手をしたのはヴィンセントだ。こんな見たこともない黒髪のガキ……

「じゃあ、なんで、見知らぬ子があなたの上着羽織ってるの? このバカでかいブカブカのガウンはあなたのでしょう!?」

「おまえ、ちょっと落ち着け!」

「コレが落ち着いていられる!? 万一こんなことがご近所の耳にでも入ったら、俺たち、ここには住めなくなっちゃうんだよ」

 兄さんたちがどれだけ悲しむことか!と怒鳴り、ぎりぎりとオレの胸元を締め付けた。

「この欲求不満の下半身男が〜ッ!」

「おい、よせ! オレはこんなガキなんざ知らん! ここにはヴィンセントが寝ていたはずだ。そのままこの部屋に泊めたんだからな」

「う……ん」

 ハッとしてオレとイロケムシは、小さな身体の持ち主を;凝視した。どうやらやり取りの騒々しさで目が覚めたらしい。

「ん……」

「ねぇ、君、大丈夫? 起きられる」

「おい、起きろ、クソガキ。おまえいったい……」

 夢見心地で顔をこすりながら半身をもたげた少年を見て、オレたちは思わずあっと身体を引いた。

 

 まだ、眠そうなその子は、ウサギのような紅い瞳と、漆黒の髪(髪の色は最初からわかっていたのだが)、そして雪のような肌を持っていた。

「おい……おまえ、まさか……?」

「……? あれ……ここは?」

 奴は不思議そうに、周囲の様子を眺める。そしてまじまじと見つめていたオレたちに目線を戻した。

「……あの……どちらさまですか?」

 妙に大人びた……そしてやはりおとなしやかな物言いで、そう訊ねてきたのだ。