〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 セフィロス
 

 

 

 

「俺はヤズー、こっちはセフィロス。ここは俺たちの家で彼の寝室なんだけど」

「え……」

 そのガキは、困惑した様子で自分の服装から、部屋の作りを心許なげに見回した。

「……ぼくの知らない場所です」

 とつぶやいた。

「おい、ガキ。おまえ、名は? テメェのおかげで、オレ様はこの女男に、人さらいの濡れ衣をかけられてんだぞ」

「ちょっとよしなさいよ。子ども相手に威嚇してどうすんの?」

 そういって、オレの後頭部をガッと殴りやがった。こいつ、最近、ずいぶんと手が早くなってきた。

「ごめんねェ、ウチのケダモノがさぁ。もうホントに大人げなくて、乱暴でェ。ところで君、名前教えてくれる? 家がわかれば、俺が送っていくし」

「あ……はい。ぼくはヴィンセントと言います。ヴィンセント・ヴァレンタインです。父の名は、グリモア・ヴァレンタインと申しまして……」

「え、ちょっ……」

 イロケムシがあたふたと話を遮った。

「ヴィンセント……? ヴィンセント・ヴァレンタイン?」

「はい、ぼくはヴィンセント・ヴァレンタインです」 

 そのガキは、はっきりとそう言い切ったのだ。少しくせのある黒髪が、さらさらと肩口に遊び、紅の瞳はぼんやりと蠱惑的な輝きを秘めている。

 言われてみればヴィンセントの特徴そのものを有しているのだ。

「ヴィンセント…… た、確かに容姿はそっくりだよね、セフィロス」

「……ああ」

「ええと、ヴィンセント? 君はいったいどこから来たのかしら?」

 イロケムシがこの上なくやさしく丁寧に訊ねた。

「いえ、普通に自宅で休んでいたと思うのですが……目が覚めたらこの場所にいました」

(ねぇ、これって、レオンやラグナさんみたいな空間移動?)

(いや、待て。ヴィンセントがこんな小さなガキってことは、空間だけじゃなくて時間もズレてんだろ)

(身体だけが小さくなったってことじゃなくて? ああ、でもそうしたら記憶は普通にあるはずだよね?)

(今の時点では何もわからんな。身体が幼くなるとともに、記憶もその年代まで戻っている可能性も捨てきれない)

(原因は何なの? まさか、あの薬なんてんじゃあ……)

(いや、あいつは間違いなく興奮剤だろ。おまえだって、昨夜のヴィンセントの様子を見たならわかるだろうが!)

(そ、それはそうなんだけど……)

 

 

 

 

 

 

「あの、すみません」

 ひそひそ話の真っ最中に、声を掛けられ、思わずオレたちはびくりと背をすくませた。」

「あ、ああ、なんだ?」

「ここはあなた方のおうちなのですね。なんという場所なのでしょうか?」

「コスタ・デル・ソル。常夏の国だ。おまえも聞いたことくらいあんだろ」

 オレはそう言った。

「はい……行ったことはありませんでしたが」

 慎重にヴィンセントは頷いて見せた。これくらいの年のガキなら、怯えて泣き出してもおかしくはないのに、彼は用心深く静かにしていた。

「あ、あの……すみませんが、なにか着替えをお借りできませんか? ぼく、家に帰らなくちゃ」

「あ、あのね、ちょっと待って! 君に話しておかなきゃならないこともあるし…… うん、まずはお風呂に入って着替えようか」

「でも……」

「いいからいいから。ほら、行こう」

 そう言って、イロケムシは細身の少年の手を取った。

「あ、あれ……?」

「どうしたの?」

「なんだか少し歩きにくくて…… 足の間から何かベトベトしたのが……」

「…………」

 イロケムシは血相を変えると、ツカツカとこっちまで戻ってきやがり、スリッパでスパコーンとオレの頭を殴りやがった。

「痛てッ! なにしやがる、このイロケムシ!」

「あ、あの、どうかしたんですか?」

「ううん、何でもないの。早くお風呂に行こう! よいしょっと」

 そういうと、奴はヴィンセントをひょいと抱き上げ、そのまま風呂場に姿を消した。