〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 ヤズー
 

 

 

 

 俺は小さなヴィンセントを連れ、風呂場でしっかり身体を洗ってやった。

 彼は恥ずかしがって、ひとりで大丈夫だと言っていたが、背中を流してあげると持ちかけ、結局ふたりで湯船に浸かることにしたのだ。

 だが、返ってこれが良かったのかも知れない。借りてきた猫のように大人しかった彼だが、一緒に湯に浸かっている間には、少しずつ話をしてくれるようになっていた。

「……まぁ、そんなわけでね。うちにはずっと年上のヴィンセント……つまり君が居たわけ。で、いきなり小さくなっちゃったんだなァ、これが」

 あまり深刻にならないよう、俺は軽いノリで話し掛けてみた。

「つまり、記憶もその当時の『ヴィンセント・ヴァレンタイン』に戻っていると考えるのですか? ぼくは時間移動を思いついたのですが」

 理知的な子だ。さすがヴィンセントといったところか。

「うーん、ここに居たヴィンセントと、君は同一人物だと思うんだよ。記憶のほうが12、3才なのかな? ……今の君に戻っているだけで」

「なにか確固たる証拠があるのでしょうか?」

 ……証拠。

 証拠は……ある。

 だが、いたいけな少年相手に、真っ正直に告げるわけにはいかない。

 セフィロスのベッドに寝ていたこと、そして昨夜の残滓が体内に残っていたこと……

 言えるはずがない!

「ああ、うん。まぁね、ちょっと心当たりがあるんだよね。ところで君はいくつ?」

「はい、十二才になりました」

「そう、本当にしっかりしているんだね。でもさ、この家にはたくさん大人がいるんだし、俺も君のことを守るから、もうちょっと力を抜いていいんだよ?」

 そう言って、俺はやわらかな黒髪を撫でてやった。すると彼はポッと頬を染めた。

「どうかした? ああ、のぼせちゃったかな?」

「い、いえ……あの、ヤズーさんは、すごく綺麗なんですね」

 直球でそう言われて、さすがの俺も二の句が継げなくなった。さんざん言われ慣れていることなのに、無垢なヴィンセントに告げられると、妙に気恥ずかしく感じるのだ。

「あ、ありがと。でも、俺から見たら、君のほうがずっと神秘的で素敵だよ」

 内心の動揺を隠しつつ、俺はそんなふうに誉め言葉を口にした。

「いいえ、ぼくは全然そんなことないです。ヤズーさんはやさしくてとっても綺麗です」

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、ヴィンセント・ヴァレンタインです」

 クラウド兄さん、ジェネシスという最大の難関が揃ったところで、俺はふたりに彼を紹介した。

 カダやロッズとはすでに対面済みで、もちろん、ふたりもたいそう驚きはしたが、思いの外、すんなりとなじんでくれた。

 ……だが、このふたりはそうはいかないだろう。

 なんせ、ヴィンセントを愛していると口外してはばからない連中なのだから。

「……いきなり、呼び戻されたと思ったら……何の冗談だよ、ヤズー」

 兄さんが震える声で小さくつぶやいた。早々に配達を終えて、戻ってきてもらったのだから、なにか大事があったと想像はついただろうが、これは予想外だっただろう。

「ヴィンセント…… じゃあ、この子は女神なのか?」

「ええと、正確には女神の卵ってことかしらね。このヴィンセントはまだ12才だそうだから」

「ヤ、ヤズー、今日ってエイプリルフールじゃないと思うんだけど」

「うん、まずは落ち着こうね、兄さん」

 そう言って、今にも叫び出しそうな彼を宥めた。ジェネシスももちろんショックだったろうが、さすがにそれをあからさまにすることはない。彼は思慮深い態度で、幼いヴィンセントの不安を煽ることはなかった。

「この状態になったのは今朝らしいんだよね。昨夜まではいつもと変わりなかったでしょ。身体だけじゃなくて、記憶も12才当時になっているから、当然、俺たちのことは未知の人間なわけ」

「そ、そんな! うそでしょ、ヴィンセント! お、俺のこと忘れちゃったの? ずっと一緒に居ようって……」

「え、あ、あの……ごめんなさい」

 今にも泣き出しそうな兄さんに詰め寄られ、小さなヴィンセントはひどく申し訳なさそうな顔をした。

「ちょっと、兄さん。一番不安なのはヴィンセント本人なんだから」

「そ、それはそうだけど…… ねぇ、俺、クラウド。覚えてない? ずっと一緒にいたじゃん」

「クラウドさん…… きっと、いずれお会いすることになる方なのですね」

 ヴィンセントは落ち着いた様子で、静かにそう言った。

「そうだよ! それで、ヴィンセントは俺のこと好きになってくれんの! で、俺が一緒にコスタ・デル・ソルに住もうってお願いして、それで……」

「よさんか、クソガキ」

 興奮する兄さんの背後から、セフィロスがゲシッと蹴りをくれた。