〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 ヤズー
 

 

 

「痛でッ! なにするんだよ、セフィ、このやろーッ!」

「大の大人がおろおろするな! 原因はわからんが、そいつは今、12才のチビなんだぞ」

「わ、わかってるけど…… で、でも……」

「いいかげん、おまえもこの家の不思議には遭遇し飽きたろ。いずれ元に戻るのだろうし、今ここでギャーギャー騒いでも無意味だ」

「いずれっていつだよッ! だいたい原因は何なの? 昨日の夜まで何の問題もなかったじゃん!」

「唯一、可能性として上げるとすれば、おまえが持ち帰ってきた例の薬だろうな」

「く、薬……? でも、同じもの、俺だって飲んだんだよ? 俺はなんともないのに……」

「だったら、尚さら原因は特定できないよな。以前の入れ替わり騒動のときみたいに、安静にして機を待つしかないんじゃないか?」

 セフィロスは穏やかな口調でそう言った。この人はある意味、第一発見者であるせいか、この時点においては、かなり落ち着きを取り戻していたのだ。

「うん、俺もセフィロスのいうとおりだと思う。だからヴィンセントには、この家でなるべく安静に過ごしてもらいたいんだ」

「いえ……でも……」

 ヴィンセントは眉をくもらせる。

「どうかした? ここは落ち着かなくて嫌?」

 俺は目線を合わせてそう訊ねた。

「違います。……ですが、ぼくのせいでご迷惑を掛けるのは心苦しくて。父が今、神羅カンパニーの研究所にいるのですが、なんとか連絡を取れないものでしょうか?」

「おい、抜本的に勘違いしているようだな。今はもうおまえの知る神羅カンパニーなんざ、この世にないんだよ。あれから何年経っていると思ってんだ」

「ちょっと、セフィロス」

 素っ気ない言い方に、俺は口を挟んだ。

「言ったろ。おまえは大人になってずっと時が経って、ここで暮らすようになったヴィンセント本人なんだ。ただなんらかの理由で肉体だけが退行して子供になった。記憶もその当時のものしか残されていない。つまり、この世界はおまえの知っている時点よりも遙か未来であり、おまえだけがずっと昔に生きていた子供になった。……わかるか?」

「……はい。では、ここにいる皆さんは、今のぼくにとって、ずっと先の未来、出逢う方々なんですね」

 紅い瞳がぼんやりと俺たちを映し出した。泣き出したり、動揺したりしない分、痛ましい感じがする。

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだよ、君にとっての遠い未来、俺たちは君に出逢える僥倖に恵まれる。でもね、俺は今回のことも幸運だと感じるんだ」

 話を引き取ったのはジェネシスだった。

「え、ええと……」

「ふふ、俺はジェネシス。未来の君の信奉者だ」

「ジェネシスさん……」

「ジェネシスでいいよ。ふふ、君もここでの生活を楽しんでみないか? たぶん、時が経てば、君はきっと元のヴィンセントに戻るのだろう。そのわずかな時間、俺たちと一緒に居てくれたまえ」

 そういうと、ジェネシスはそっと彼の前に跪き、白い頬に口づけた。

「ジェ、ジェネシスさん」

「ジェネシス、ね。今のは親愛のキスだよ」

 もともと免疫が少ないのだろう。12才のヴィンセントは、首筋まで真っ赤になって、ぎゅっと俺の袖口を掴んだ。

「し、親愛のキス?」

「ふふ、そうだよ。ジェネシスは君のことが気に入ったんだってさ、ヴィンセント」

 俺は彼の髪を撫でて、そう言ってやった。

「ええと、ぼくも、ジェネシスさ……ジェネシス、好きです。ありがとうございます」

「お返しが欲しいんだけど、ヴィンセント」

 ジェネシスがそう言って、彼の目の前に腰をかがめた。

 ヴィンセントは、おろおろと俺の顔を見上げたり、周囲を見回したりしていたが、少し背伸びをすると、彼の頬に、チュッとキスをした。