〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 セフィロス
 

 

 

「……ああ、どうしよう、セフィロス」

 くらくらと不確かな足取りで、ソファにつかまるジェネシス。

「なんだ、テメェは気持ち悪い」

「幸せすぎてめまいがしてきた…… 女神からキスをもらえるなんて」

「あのなァ、おまえな……」

「やっぱり女神は子供の頃から綺麗だねェ。可愛いっていうよりも、『美しい』んだよね……」

 うっとりと満足げな表情で、ため息を漏らす。ヴィンセントの崇拝者とはいえ、このあたりが場数を踏んできた男としての違いだろうか。真っ青になって押し黙ってしまったクラウドとは雲泥の差だ。

 ヤズーとチビヴィンセントがキッチンに引っ込むのを見届け、オレはクラウドのガキをソファまで引き摺ってきた。

「セ、セフィ…… どうしよう。ヴィンセントが……ヴィンセントが……」

 オレの服にしがみついて、今にも泣き出しそうにつぶやくクラウド。

「別に姿を消したわけじゃないだろ。確かに不思議な事態だが、しばらく放っておきゃ、元に戻る」

「しばらくってどんくらい!? 俺……やだよ。ヴィンセントはヴィンセントだもん。俺の知ってるヴィンセントは……ちゃんと俺のことをわかってくれて……」

「落ち着け、クソガキ」

 俺は低く叱りつけた。本当は怒鳴ってやりたいところだったが、下手に声を張り上げれば、ちっこいヴィンセントが怯えるだろうし、イロケムシが文句を付けてくるだろう。

「いいか、今、どうのこうの騒いでも仕方がないだろう。おまえがあのガキを苦手に思うのなら、適当に距離をとっておけ」

「苦手にって……そんなんじゃないけど、俺、『クラウドさん』なんて呼ばれたら、なんて応えればいいんだよ。恋人……って、あんな年の子に言えないし」

「とにかくヴィンセントが元に戻るまではおまえも大人しくしてろ。もういいかげん、一人が寂しいって年じゃないだろ」

 泣きべそ顔の中に、昔のクラウドの面影を見出しながら、オレはそう言ってやった。

「おれ……ダメだよ、セフィみたく平気な顔してらんない。ヴィンセントがいないとどうしていいのかわかんない」

「ああ、わかったわかった。よしよし」

 ぐしゃぐしゃとクラウドの髪を撫でくり回す。何の因果か、今回のオレは宥め係という役回りらしい。まるで、いっときの感情に流されて、いい思いをした報いだというように、チビヴィンセント、クラウドという、手のかかるふたりの相手をさせられている。

 

 

 

 

 

 

「みなさん、お茶が入りました」

 大きなトレイに茶器を乗せて、ちっこいヴィンセントが運んでくる。大人のヴィンセントのそんな姿なら、もう見飽きるほどに眺めているわけだが、12、3才のチビが、『お手伝い』をしている姿はなかなか微笑ましく見えた。

「ああ、いい子だね。どうもありがとう。ついでに口移しで飲ませてくれるともっとうれしいかなァ」

「え、あ、あの…… あ、ごめんなさい、レモンを取ってきます!」

 チビ・ヴィンセントは慌てて踵を返した。

「アホか、やめろ、この変態詩人。……ったく、テメェは本当に節操がねぇな。クラウドがこのザマだってェのに、おまえときたら、ある意味、見上げた根性だぜ」

「えぇ、チョコボっ子はあの子が苦手なの? だって、あれは女神の卵なんだよ?」

 理解しがたいというようにジェネシスが言った。からかいを含んだ物言いだったが、クラウドはいつものようにいきり立つようなことはしなかった。

「俺のヴィンセントはひとりだけだもん。俺よりずっと年上で……おとなしくてやさしくて…… 『クラウド、いい子だな』って」

「こいつはまだガキなんだよ。おまえみてーに、割り切って楽しめるほど器用な奴じゃないんだ」

 なんとなくオレはクラウドを庇うような態度を取った。この子がこうしてくっついてくると、どうしても昔の感覚を思い出すのだ。

「まぁ、あのチビ・ヴィンの相手はおまえにまかせる。あまりクラウドを刺激するな」

「そうかい? 願ってもみないことだけどね」

 そういうと、フレーバーを持って戻ってきたヴィンセントを、ジェネシスはひょいと抱き上げると膝の上に乗せてしまった。

 あたふたと慌てるチビ・ヴィンはなかなか可愛らしく見える。

 ……それでもやはり。 

 そう、やはり、オレは紅い瞳の傀儡人形のような、ぞっとするほど蠱惑的なおまえの方が欲しい。

 邪気のない微笑みで、はにかむ彼を見て、オレはふぅと吐息した。