〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 セフィロス
 

 

 

「あ、あの、セフィロスさん……!」

 チビ・ヴィンセントが必死の面持ちで声を掛けてきたのは、風呂を終えた後のことであった。

「なんだ、まだ起きてたのか。ガキはさっさと寝ろ」

 オレはそう応えた。

「い、いえ、あの…… ちょっと……あの、来ていただけませんか?」

「はぁ? どこにだ。夜の誘いならおまえが成人してからにしてくれ」

「あの、ぼくの部屋にです。ヤズーさんがそこを使うようにって」

 チビ・ヴィンセントがそう言った。狭くない家だが、今は七人もの男がごったがえしているのだ。チビ・ヴィンセントには、大人ヴィンセントの部屋を使うよう指示したのだろう。

 だいたいジェネシスの野郎は、

『女神が心配だ』

 の一言で、長期滞在を決め込んでいるし、それに反対する輩も居ない。普段ならクラウドが急先鋒になるはずだが、今はそんな状態ではなかった。

「ヴィンセントの部屋? なんだ、エロ本でもあったか?」

「い、いえ、そんなんじゃ……」

 冗談めかして訊ねつつも、それはないなと否定する。ヴィンセントは、そういう男の生々しい生理をまるきり感じさせないのだ。

「あの、こっちです。部屋に入ってください」

 彼は小さな手で、オレのローブの袖口をくいくいと引っ張った。今の位置関係だと、彼の頭のてっぺんから見下ろせる。大人になったヴィンセントは、横幅がないくせに、身長はかなりあるのだ。それゆえ、こういうアングルで彼を見下ろすのは新鮮な気分だった。

 12才といえば、初めて出逢ったころのクラウドより、二つばかり下になる。犬ころのような愛らしさのあったクラウドとは対照的に、この子供は精霊のような危うさを感じさせる。

 乱暴に扱えば、そのまますうっと空気に溶けて消えてしまいそうな雰囲気だ。

「セフィロスさん、あの……」

「え、ああ、悪い。何か用事があるんだったな」

 チビ・ヴィンセントに声を掛けられ、オレは意識を現実に戻した。そのまま奴のベッドに腰を下ろし、話を聞く体勢に入る。

 相変わらず綺麗に整頓された、やさしい雰囲気の部屋だ。

 チビ・ヴィンセントは、わずかなためらいをみせたが、すぐに大切そうな何かを手に持って、オレのとなりにちょこんと座った。

 普段はあまり側によってこないくせに、子供の頃は無防備だったのだろうか。それともオレという人間をよく知らないせいなのか、それはわからない。

 

 

 

 

 

 

「あの、これ…… さっきうっかり落としちゃって」

 そう言って、おずおずと差し出したのは、見覚えのある写真立てだった。

「元に戻そうとして中身を見てしまったんです。表にはクラウドさんと一緒の写真が飾ってあったんですけど…… こっちの写真はセフィロスさんですよね」

「…………」

 差し出された写真を、オレは無言で受け取った。

 以前、オレが同じように中身を見てしまったときは、オレと猫のヴィンがじゃれあっている写真が入っていた。だが、今度は見つけたものはそれだけではなかった。

 写真と一緒に四つ折りにしたメモ……いや、手紙のようなものが入っていたのだ。品いいろうけつ染めの薄紙に、細いペン文字が躍っている。

「これがどうした?」

「あの……それ、セフィロスさんの写真に引っかかってて、一緒にこぼれおちて」

「おまえ、読んだのか?」

 中を開く前に、小さくなっている子供に声を掛けた。

「あ、はい。でも、その、読もうとしたわけじゃなくて、何かなって思って開いてみたら……つい」

「別に咎めているわけじゃないだろ。おまえはヴィンセント本人なんだからな。……オレが見てもかまわんのか?」

「は、はい。そのためにお呼びしたんですから」

 コクンと頷くと、チビ・ヴィンセントはそう言った。オレは丁寧にそいつを開き、目を走らせた。やや神経質な細い文字は、間違いなく見覚えのあるヴィンセントのものであった。

 その手紙は誰に宛てたものともいえなかった。強いて言うのなら、奴の信ずるところの神様だかなんだかに、おのれの願いを綴ってあったのだ。

 家族の健康のこと、友人たちの幸福のこと…… ひととおりの願いが書かれた後に、名指しでオレの名前が出てきた。

『セフィロスがどこにも行きませんように。

 セフィロスが日々の生活を楽しんでくれますように。

 セフィロスが私のことを嫌いになりませんように。

 セフィロスに好かれるような、賢く聡い人間になれますように。

 願わくば、大切なセフィロスが、私を愛してくれますように……』