〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 セフィロス
 

 

 

 その日の夜だ。

 チビ・ヴィンセントは性懲りもなく、オレの部屋の前に突っ立っていた。しっかりと大きな枕を抱えてだ。

「……何をしている」

 ややうんざりした心持ちでオレは低く訊ねた。

「あ、あの、セフィロスさんを待っていました」

 紅の瞳が、じっとオレを見つめる。

「……だから何の用だ。だいたいこんな遅い時間にわざわざ話に来ることもないだろ。ガキは十時前に寝ろ」

 そう言って彼をやり過ごそうとしたとき、小さな手がぎゅっとオレのローブを掴み締めた。

 もともとオレは人間のできた男ではない。それにガキは苦手なのだ。鬱陶しさを隠すことなく、じろりとにらみつけると、チビ・ヴィンセントはビクビクと上目がちにオレを観察した。

「ご、ごめんなさい。一度はベッドに入ったんですけど…… でも……」

「でも何だ? そんなに気になることがあるというのか?」

「今夜は……セフィロスさんの側に居たいんです」

 思い詰めた眼差しが、オレの目線をひたりと捕らえる。

「何を言っているんだ、おまえは。この家に居る限り、否が応でもおまえはオレの側にいることになるだろ」

「そ、そうなんですけど……そういうことじゃなくて…… あの……」

 辿々しく言葉を綴るチビ・ヴィンセント。もともと話し上手ではない男だが、幼少のころから、こんなふうに慎重であったらしい。

「なんか、怖いんです……」

「怖い?」

「ぼく……セフィロスさんに会えなくなるような気がして……」

 彼はぎゅッと枕を握りしめ、俯いた。

 

 

 

 

 

 

 イロケムシが例の鎮静剤を、こいつに飲ませたと言っていた。おそらく今日の夕食の何かに混ぜ込んだのだろう。

 もちろん、チビ・ヴィンセント本人に気づかれぬように事を運んだはずであるが、感覚の鋭敏なこいつは何かの予感に捕らわれているのかもしれない。

「会えなくなる? おまえがこの家に来てから、もう一週間以上経つだろ。なにかあるなら、とっくに起こっているんじゃないのか?」

「そ、そうですけど、でも……」

 これだけ言ってやれば素直に引き返すと踏んだのだが、思いの外チビ・ヴィンセントは強情だった。そもそもなぜオレに懐くのだろう。

 日中は三兄弟やジェネシスと一緒のことが多いし、積極的に台所仕事を手伝っているところを見ると、ヤズーと過ごす時間が一番長く感じる。

 うちの連中は例外なくチビ・ヴィンセントに好意的と言えるのだから、おそらくもっとも素っ気ない態度を取っているのはオレだろう。

 それにも関わらず、一生懸命側に寄ってくる。例の写真立てに入っていたメッセージに影響されているようにも見えるが、これ以上、邪険にするのも気が咎めるのだ。

「セ、セフィロスさん、ぼく、ヤズーさんから聞いたんです」

「……なにをだ」

 嫌な予感がして、低く訊ね返した。

「あの、ぼくが…… ヴィンセントが悪の組織にさらわれたとき、命を掛けて守ってくれたのはセフィロスさんだったんでしょう?」

「悪の組織?」

「え、ええと、ぼくを捕まえようとする、悪い人たちがいたって聞きました」

 ……DGソルジャー……ツヴィエートだのという話か?

 イロケムシの奴、よけいなことを吹き込みやがって!

「…………」

「でも、セフィロスさんが守ってくれたって」

「……別にオレだけじゃない。この家に居る連中、みんながおまえを取り戻そうとしたんだ。……どっちかって言や、オレなんざ、たまたまその場に居合わせただけで……」

 そこまで言いかけたが、ヴィンセントは微動だにせず、オレを見つめ続けていた。絶対に欺されないぞという、真摯な眼差しで。

「ぼく…… いえ、ヴィンセントにとって、やっぱりセフィロスさんは特別なんです。ぼく、セフィロスさんの側に居たいです。大人のヴィンセントがあの手紙に書いていたように…… ぼくは……」

「落ち着け。廊下で大声を出すな」

 致し方なく、オレはチビ・ヴィンセントを自室に引き入れた。部屋に帰れといっても、聞き入れそうもなかったからだ。

「ぼく、ぼく、セフィロスさんのことが……」

「……ああ、わかった、わかったから。いいから、とにかく座れ」

 ため息を押し殺し、オレはガキを宥めた。

 子どもの習性なのだろう。立ち話をしていても、側にぴったりとくっついてくるのがやりきれなくて、距離の取れるソファに座るよう奨める。

 チビ・ヴィンセントは、不精不精、そこに腰を下ろした。