〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 セフィロス
 

 

 

 

「いいか、チビガキ。よく聞け」

 オレはそう切り出した。ヴィンセントが紅い瞳をまっすぐに向けてくる。

「オレは大人になったおまえと、この家で一緒に暮らしている。もちろん、クラウドや他の連中も含めてだ」

「……はい」

「『ヴィンセント』は面倒見のいい奴でな。オレも気に入っている」

 張本人を目の前にいうのもおかしなものだが、オレは敢えてそう告げた。

「だが、それはあくまでも同居人としてだ。おまえがさっき言ったように、攫われたあいつを救い出したのも、単なる成り行きなんだ」

「でも……!」

「いいから聞け。……大人になったヴィンセントは別にオレのことなんざ、なんとも思っていない。疑似家族的な見方はしていたかもしれないが、そこに特別な感情なぞ持ち合わせてはいなかったはずだ」

「…………」

 チビ・ヴィンセントは目を伏せて俯いた。

「おまえはなぜかオレに懐いているようだが……」

「迷惑でしょうか?」

「……もう少し育ってからのほうが好みだ。ガキは相手にしない主義でな」

 人の悪い笑みを浮かべてそうほざくと、彼はぎゅっと唇を噛みしめた。

「……すぐに大人になります。もうすぐ十三です。神羅カンパニーには、十四の年から入社できるはず…… だったら、もう子供じゃないでしょう!?」

「おい、オレを困らせるな」

 ため息混じりにつぶやいた。確かにクラウドと出逢ったのは、あの子が十四になる年だった。一目で好きになり、手に入れたいと考えたのだから、チビ・ヴィンセントだとて、あながち守備範囲でないとは言えない。

 だが、今、この場でそれを認めるわけにはいかなかった。

 なぜか不思議なほど、こいつはオレに対して特別な感情を抱きつつある。ならば、尚のこと、受け入れるわけにはいかない。

 この子は『あのヴィンセント』であって、クラウドの傍らに居るべき人間なのだから。

「おまえがガキだからとか……それだけの理由じゃない。好意はありがたいがな。オレにも特別な人間はいるんだ」

「……特別な……?」

「そう。……恋人と言えば、納得するか?」

 チビ・ヴィンセントの紅の瞳が大きく瞠られた。

 想像だにしなかったという表情に、微かに胸が痛んだ。

「……恋人……」

「おかしいか? オレにだって、そう呼べる奴はいる。……だから、いくらおまえが懐いてくれてもな。ガキを可愛がることはできるが、あまり必死になられると困る」

 茶化した物言いをしたが、チビ・ヴィンセントは何も応えはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「セフィロスさんは、その人のことが好きなんですか? ……だれよりも?」

「そうだな」

 オレは短く答えた。

「……どんな……人なんですか?」

 おまえとそっくりな……とは言えない。わずかな間隙の後、当たり障りのないセリフを探し出す。

「大人しくて、思慮深いヤツだ」

「……綺麗な人ですか?」

「ああ」

 黒髪に紅い瞳の……人形のような男だ。

「……ごめんなさい」

 チビ・ヴィンセントは俯いたまま、小さくつぶやいた。

「ごめんなさい。勝手なこと……言って」

「…………」

「写真立ての中身を見てしまったせいなのかな。最初出逢ったときから、なんとなくセフィロスさんのことが気になって…… こうして一緒に生活しているうちに、ますますその気持ちが強くなったんです」

「それはまた光栄なことだな。……今のおまえは対象外だが、悪い気はしない。これからおまえはとても美しく成長する」

 オレは本心からそう告げた。

「そうなんでしょうか」

「ああ、聞いただろう? うちの連中なんざ、皆揃いも揃って、ヴィンセントに夢中だ。この家でおまえほど好かれているヤツはいない」

 やや大げさな手振りを加えてそう言ってやると、ようやくこわばった青白い頬が緩んだ。

「ありがとうございます。……ぼく、いつ元に戻れるのかわからないけど……元に戻っても今の気持ちは忘れたくないです。セフィロスさんはやさしいです。やっぱり大好きです」

「そうか。……覚えていられるといいがな。忘れたら忘れたで、それはいいんじゃないか」

 深いワイン色をした瞳が、じっとオレを見つめる。まるで吸い込まれそうな……魂までをも奪われそうな蠱惑的な灯りを宿した双眸……

 細い身体がゆっくりと近づいてきて、オレの頬に口づけた。幼い子供らしいキスだ。

「……おまえはいい子だな、ヴィンセント」

 肩に触れた細い指に手を重ねる。それが思いの外、冷たくてオレは軽く握り込んだ。

「……この時間だ。今夜はここで寝ろ。側についているくらいのことなら、オレにもしてやれる」

「いいんですか……?」

「この広さだ。ガキ一匹増えたくらい何の問題もない」

 ひょいと抱き上げ、クイーンサイズのベッドに下ろしてやる。オレは傍らに滑り込んだ、細い身体を包み込んだ。

 ……懐かしい感触だ。

 神羅にいた頃、幼いクラウドとよくこうして眠りに着いた。ふところに暖かな体温を感じ、微睡みに落ちてゆくのは、なんと幸福な時間だったか。

 乱れて頬にかかる黒髪を、そっと撫でつけてやりながら、オレは緩やかに眠りの淵に沈んだ。